×

かつての徳島のお家芸「レスリング」 伝統復活に向けた指導者と選手たち【徳島】

2024年9月4日 20:00
かつての徳島のお家芸「レスリング」 伝統復活に向けた指導者と選手たち【徳島】
8月に閉幕したパリオリンピックで日本は金メダル20個を獲得、中でも四国勢が大活躍したレスリング競技は印象に残るものでした。

徳島県内ではお家芸と言われてきたレスリングですが、2004年以降にオリンピック選手は出ていません。

伝統復活に向けた取り組みを取材しました。


徳島のレスリング伝統校


徳島県のつるぎ高校レスリング部は、卒業生からオリンピック代表選手や全日本選手権チャンピオンなどを生み出している、レスリングの伝統校です。

指導するのは藤田隆和監督(57歳)、つるぎ高校の前身の貞光工業高校出身で、24歳の時にレスリング日本一を決める全日本選手権で優勝するなど、お家芸を支えてきたひとりです。

(つるぎ高校レスリング部 藤田隆和監督)
「まさか、自分が母校でレスリングの指導ができると思ってなかったんです。ですから、すごい期待をしてここで勤務をしたんですが」

しかし、9年前に藤田監督が赴任した時の部員はわずか1人、部としてまともな活動ができていない状況でのスタートでした。

(つるぎ高校レスリング部 藤田隆和監督)
「最初はすごく強化するのは難しいかなと思ったんですけど、ここから必ず日本一の選手を出すと決めることも逆にできたので、一から昔のように強いレスリング部にしたいという思いで、日々 頑張ってきました」

その熱意が伝わるかのように部員は増え、現在は男女合わせて11人が毎日、マットの上で汗を流しています。


目標は『日本一の選手を育てる』


『日本一の選手を育てる』、その目標の達成に向けては一切の妥協を許しません。

「絶対とりきる、圧をかけて、足を踏んばらせて、落として、もう一回続けるの、まだ。押して落として、押して落として繰り返すの、そうまだ。落ちたよ。あっ、やめた。やっと相手が膝をついてくれたのに。この前のインターハイといっしょ、そうやって試合が終わる。一生懸命動かして苦しいから相手が膝をついた、(相手の)力が10のうち6か7に下がったのに、なぜ手をかえた?最後いくところと違うか?」
「そうそう、ナイス、そう。できるやん、やればいいのに、そうやって。そんな素晴らしい技術を持ってるのに、なんでせんの?相手に対してカウンターという形でつなげられたんだろ、最高やん、めちゃくちゃよかった今の、頑張ろう」

こうした指導の結果でチームは徐々にレベルアップ、そして今、最も期待を集めているのが2年生の中平旭選手です。

2024年4月に開かれた、ジュニアオリンピックカップ男子グレコローマン65キロ級で準優勝しました。

(つるぎ高校レスリング部 中平旭選手)
「将来は大学でも続けたいと思っているので、そこで結果を出して、全日本でも活躍できる選手になりたいです」

かつて徳島にとってレスリングは、「お家芸」と言われた存在でした。

日本レスリング協会の公式サイトによると、徳島県出身のオリンピック選手は、これまでのべ13人と全国で6番目に多い数です。

しかし、パリオリンピックで代表チームの監督を務めた豊田雅俊さんが2004年のアテネオリンピックに出場して以降、徳島からは出場がありません。


新たなモチベーションになったパリオリンピックでの四国勢の活躍


「ここで試合終了、日本の桜井つぐみ勝ちました、金メダル」

復活に向けて、今モチベーションになっているのが、パリオリンピックでの四国勢の活躍です。

パリオリンピックには、徳島を除く四国の3県から4人が出場、そのうち香川県から1人が、そして高知県からは2人が、金メダルを獲得しました。

(つるぎ高校レスリング部 藤田隆和監督)
「正直なところはすごく悔しかったですが、それと同じくらいオリンピックに出た選手の努力と指導してきた先生方の努力はずっと見てきましたので、心からお祝いというか、やはり小さいころからの指導者の方の一貫した指導とその強化を、オリンピックならオリンピックに出るという目標をちゃんと設定した指導が、きちんとできていたということだと思います」


尽きないレスリングへの情熱 ちびっ子との合同練習も


こうした隣県の成功例をもとに取り組んでいるのが、地元のちびっ子レスリングチームとつるぎ高校による合同練習です。

練習に参加しているのは、東みよし町の「ジョイフルレスリングクラブ」。

合同練習は、藤田監督が始めた取り組みです。

クラブには、全国少年少女レスリング選手権で優勝した3年生の佐藤剛己くん、同じく準優勝の4年生の久原琉典くんら、いま才能あふれる選手が育ってきています。

この日は、この2人をはじめ10人ほどが練習に参加し、高校生から指導を受けました。

「カウンターで落とす。ここをコントロールしたら、これでバックに回れるから」

この日、熱心にアドバイスを送っていた中平旭選手、実は、このスクールから育った選手の一人です。

(つるぎ高校レスリング部 中平旭選手)
「今は昔より全然技術が上がっていて、高校生がやる技を普通に小学生の子とかが今はやっているレベルなので、僕が使える技はどんどんちびっ子にも教えて、全国大会でも勝っている子がいるので、そういう子がどんどん増えていってほしいと思います」

(ジョイフルレスリングクラブ 久原琉典くん)
「いつもやっている技と違う技も教えてくれて、いい練習になったと思います」

(ジョイフルレスリングクラブ 佐藤剛己くん)
「教えてもらった技を、どんどん使っていきたいです。(将来の夢は)オリンピックで金メダルを取ることです」

(つるぎ高校レスリング部 藤田隆和監督)
「時間はかかっています、実際。確実にオリンピックに近づく道はできつつあるので、頑張ってこの活動を継続して、まずは日本で一番、そして国際大会で活躍できる選手を作っていきたいなと思っています。レスリングでここまで育てていただいたので、ぜひレスリングで恩返しをしたいなと。お家芸と言われているレスリングを、必ず復活させます」

かつて「お家芸」と呼ばれた時代に、その一員として徳島のレスリングを支えてきた藤田監督、道場に飾られた「闘魂」の2文字は、まさに藤田監督の魂の表れです。

「背中をセンターに向けって、そっちだったら出てしまうけん」

レスリングへの情熱は、まだまだ尽きることはありません。



今回、高知県や香川県で金メダルを取った選手は、いずれも高校卒業まで地元でレスリングに打ち込んでいたということです。

徳島には、中学にレスリング部がないという課題もあり、切れ目のない一貫した指導ができる体制が作れればと、藤田監督は話していました。
四国放送のニュース