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「一度は使われなくなった楽器たちが輝いていた」音楽教育の普及めざす女子大生がウガンダで出会った子どもたち

2024年3月9日 9:00
「一度は使われなくなった楽器たちが輝いていた」音楽教育の普及めざす女子大生がウガンダで出会った子どもたち
松山大学4年生の池田麗里香さん

アフリカの子どもたちに音楽教育を-
松山大学4年生の池田麗里香(りりか)さん(23)は、在学中に留学したウガンダで、子どもたちに音楽を教える活動を行いました。

きっかけは大学1年の時。親を亡くした子どもを支援する「あしなが育英会」の交流会での、ウガンダ人留学生との出会いでした。留学生が「父親が亡くなってからは働かざるを得ず、学校へ行きたくても行けなかった」と涙ながら話す姿に衝撃を受けたといいます。

自身も中学1年の時に、父親を病気で亡くした経験を持つ麗里香さん。自分は当たり前のように教育を受けることができたけれど、国が違うと学校に通えない子どもたちがいることを知り「ウガンダに行って、自分の目で貧困・教育問題を確かめたい」と思うようになりました。

麗里香さんは中学時代から吹奏楽部に所属し、北条高校では四国大会での受賞経験も持っています。

“この経験をウガンダで生かすことはできないか”と考えていた時、小学校で使われなくなった楽器をアフリカ、アジア、南米の国々に届けている認定NPO法人AIMEC(神奈川県)が、ウガンダで音楽塾を設立したことを知ります。

「教える立場ではなく、子どもたちと仲間になって、みんなで音楽を演奏する楽しさを伝えたいと思ったのです」

「ウガンダ行きはきっと父からの贈り物」ブラックミュージックを愛する家庭で育ち

麗里香さんがウガンダに関心を持ったのは、両親の影響もありました。

父はレゲエサウンドNINJA FORCEのJUDOMANさん。1988年から東京やジャマイカ、ニューヨークに渡り、レゲエ音楽を吸収。愛媛に帰郷してからは、本場のレゲエ音楽を根付かせようと活動したジャパニーズレゲエ界の先駆者でした。

また母親もスカバンドでトランペットを演奏するなど、家の中はいつもブラックミュージックで溢れていました。

「アフリカ人が持つ特別なリズム感に自分が受けてきた音楽教育をプラスできれば、より素晴らしい音楽を生み出せるのではないか」と、AIMECの活動に参加しウガンダ行きを決めました。

「ウガンダ行きが決まった日は、父の命日でした。きっと父からの贈り物なんだと思います」と微笑む麗里香さん。母・ひとみさんは「人種、見た目、上手い下手で人を判断しないところや、知らない世界に飛び込んでいく行動力は父親譲りだ」と話します。

日本からの先生も楽器も心待ちにしている子どもたち

2022年5月にウガンダへ渡った麗里香さん。派遣されたAIMECの音楽塾で、初の日本人講師として子どもたちに楽譜の読み方やリズムの基礎を教えるほか、トロンボーンやピアノ演奏を手ほどきしました。

この音楽塾では、現地の小学生から高校生を中心に約150人の生徒が学んでいて、授業料が払えない子どもも受け入れています。

「ウガンダの子どもたちが、日本から来た私を心から歓迎してくれて嬉しかったです。日本文化や歌にも興味を持って『上を向いて歩こう』やスピッツの曲『空も飛べるはず』を教えてほしいと言われました。みんな熱心で、たった1回教えただけで日本語の歌詞を上手に歌えるようになったのには驚きました」

また、日本から届く楽器も楽しみにしているという生徒たち。特に小学校低学年の子どもたちに人気があるのが「鍵盤ハーモニカ」です。

「子どもたちが喜んで練習する姿を見て、一度は使われなくなった楽器たちが輝いているようでした」

しかし次第に、鍵盤ハーモニカのホースが足りていないことや、楽器のメンテナンスが十分にできていないなど課題も見つかりました。

そんな音楽塾で、麗里香さんは子どもたちから教えられることもあったといいます。

「私は吹奏楽部だったので、まずひとつの楽器を選んでそれをずっと練習するのが当たり前だと思っていました。でも、ウガンダの子たちはその日その日でやりたい楽器を選んでいたのです。お互い『なんで君がその楽器を使っているんだ』ということもないし、譲り合いながら自由に楽しんでいました。そこから自分に合った楽器を見つけていくというのは好奇心にストップをかけず、とても良いスタイルだなと。だからこそ、最初にたくさんの選択肢を与えられるように日本から色々な楽器を届けているのは意義深いことだと感じました」

小学校では音楽の授業が無く 楽器に触れたことがない人も多いウガンダ

ウガンダではほとんどの学校で音楽の授業がないため、麗里香さんは依頼を受けた小学校にも赴き、リコーダーやトランペットなどの楽器の使い方を教える出前授業も行いました。

「小学校では、楽器に触れたことがない子どももたくさんいました。ウガンダでは手に職をつけないと生活するのが大変です。音楽好きな子たちが、教育を受ける機会がないことや経済的な理由で学びを諦めなくていいように、誰もが知識や技術を身につけられる環境は大切だと感じました」

AIMECの音楽塾は「音楽は全ての人が楽しめるものであり、技術である」ことを感じてもらおうと、ピアノ、ジャズドラム、ブラスバンド、ギター、コーラス、ダンスなど様々なコースを設けているほか、技術コースではオーディオ製作をはじめ、大工仕事の技術を習得し、将来経済的に自立するための基盤作りを目標としています。

2023年2月に帰国した麗里香さん。大学や近くの小中学校に呼びかけて集めた鍵盤ハーモニカやリコーダーなどあわせて70個をウガンダへ贈りました。不足していた鍵盤ハーモニカのホースも贈り、今ではすべての子どもたちに行き届いていると現地から連絡があったといいます。

麗里香さんは、今後もこの音楽塾が継続し、子どもたちに楽器が届くように支援を続けていきたいと話します。

「今もSNSで子どもたちや先生と交流しています。現地での信頼関係を築くことができたからこそ、みんなの声や困っていることを聞き続けたいと思います。これからも密に要望を聞き取りながら子どもたちの手に楽器が届くようにしていきたいです」

(取材・文 / 津野紗也佳)