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10人に1人が“難聴”…進化する補聴器に全国初の人工聴覚器!愛媛の難聴治療の最前線

2025年3月4日 17:00
10人に1人が“難聴”…進化する補聴器に全国初の人工聴覚器!愛媛の難聴治療の最前線

3月3日は“耳の日”です。国内ではおよそ10人に1人が「難聴」を抱えていると言われています。一方で日々進化する補聴器や、全国初の人工聴覚器を取り付けた県内在住の男性。聞こえが改善する事でどんな生活の変化があるのか。県内の難聴治療の最前線を取材しました。

補聴器外来ってどんなところ?

愛媛大学医学部附属病院の補聴器外来です。

西原 江里子医師:
「生活しててテレビの音とか、家族の方とお話はどうですか」
男性(86):
「以前はまあまあやったけど、今日これ変えてね電池を。もう全然違った聞こえが」
西原医師:
「良い?」
男性:
「うん」

西原医師:
「最初来られたときね、全然聞こえんっておっしゃってましたもんね」
男性:
「聞こえんと頭や体が全部疲れる」

愛大医学部附属病院では「補聴器相談医」の資格を持った医師が難聴の検査や診断を行い、補聴器販売店と連携しその人に合った補聴器の提案や調整を行っています。受診する患者の8割近くが「加齢性難聴」だといいます。

難聴に加えて、長年、ひどい耳鳴りに悩まされているという81歳の家木さん。補聴器で聞こえを良くするとともに補聴器からノイズを出すことで耳鳴りを気にならなくするという治療(耳鳴り順応療法・TRT)を続けています。

Q.補聴器をつけて変わったと実感されることは?
家木琢磨さん(81):
「つけとる間は気が楽になりますよね。明らかに補聴器の効果だと思います。私の場合耳鳴りが波を打って、高い時と低い時があるんで、合わない時は補聴器を調整してもらわんといかんなと」
Q.西原先生は心強い存在?
「そうなんです。ここしか頼るところが無いもんで」

75歳以上の約7割が抱える「加齢性難聴」とは

「加齢性難聴」はなぜ起きるのか。難聴治療の第一人者で、愛媛大学医学部の羽藤直人教授です。

羽藤教授:
「内耳の蝸牛というところで音を感じ取ってるんですね。この蝸牛は、中に有毛細胞っていう音を感じとる細胞があって、それがだんだん髪の毛と同じように(年を重ねると)減っていっちゃうんですね」

加齢性難聴は40歳頃から始まり、65歳以上になると3人に1人が、75歳以上ではおよそ7割の人が発症しているといいます。

一方、難聴の自覚症状がある人のうち、受診する人は38%、補聴器を持っている人は15%にとどまっています。(日本補聴器工業会調べ)

羽藤教授は、加齢性難聴が病気だという認識が低く、仕方がないものと捉えている人が多いと指摘します。

この「加齢性難聴」。放っておくと、別の病気のリスク要因になるといいます。

羽藤教授:
「結局今、年間認知症になる方がどんどん増えてですね、認知症のリスク因子として非常に難聴が重要視されてます」

聞こえを良くすることが、“認知症の予防”にもつながる。羽藤教授は、現在「ささやき声レベル」の30デシベルが聞こえる80歳の割合30%を、20年後に50%に引き上げる『聴こえ8030運動』を提唱しています。

補聴器はココまで進化している!

そのためにも有効なのが「補聴器」。最近のトレンドを見せてもらうと。

「耳掛けタイプ」は、スタイリッシュなデザインでカラーバリエーションも豊富に。

「耳あなタイプ」は、つけていることが分かりにくい"超小型"のものや、Bluetoothを搭載し、音楽やテレビの音などを直接届けるワイヤレスイヤホン機能がついています。

さらに…

西原医師:
「例えば今はこの周りを広く聞いた方がいいとか、今はこの正面からの声を聞いた方がいいとか、環境を感知して自動に切り替えてくれるモードがついてたり」

このほかにも、雑音を抑える機能やコンパクトに持ち運べる充電式など、従来の補聴器のイメージとは違い、世代を問わず、また用途によって使いやすく進化していました。

国内初導入!最新型「骨導インプラント」

松山市の上杉耕生さん(49)。生まれつきの「外耳道閉鎖症」で、耳の穴が無く会話がほとんど聞き取れない重度の難聴者です。

通常、人間に伝わる音は、振動が耳の穴から外耳道を通って、鼓膜へと伝わり音を感じる内耳へと届きますが、上杉さんの場合、外耳道が生まれつき無いため、一般的な補聴器を使うことができません。昔から骨伝導式の補聴器をつけて生活していますが、7年前に出会ったのが…

上杉さん:
「こんな感じで、骨伝導式の補聴器で。この補聴器のおかげで会話ができますしいろいろ助かってます」

左耳に取り付けた「骨導インプラント」です。インプラントを耳の後ろに手術で埋め込み、外付けのマイクが拾った音を振動に変換。その振動を直接頭蓋骨に伝えることで、音を内耳に届けるという仕組みです。

上杉さん:
「(これまでは)髪の毛とか、頭皮とかを挟んでの音を拾うってことなんで、聞き取りにくい感じで」
Q.今のは全然違いますか?
「そうですね。もう骨に直接振動が来ますんで、もう全然クリアに(聞こえる)」

理学療法士の上杉さん、職場でのコミュニケーションも不自由なく取れていたといいますが。

上杉さん:
「こっち(左)から音を拾って聞き取るようになってるんで、逆にこっち(右)からの音が聞き取りにくい」

そんな上杉さんが、右耳に今年1月、国内で初めて装着したのが…最新型の骨導インプラント「Osia」。耳のうしろに完全に埋め込んでいるため見た目では分かりません。

この日はメーカー立ち合いのもと、その効果を初めて試す音入れの日。音を拾う装置を外から装着すると。

言語聴覚士 坂井亜美さん:
「音入りました?」
上杉さん:
「はい」
坂井さん:
「どうですか、うるさいですか」
上杉さん:
「うるさくはないです」
坂井さん:
「聞こえ方どうですか?」
上杉さん:
「ちょっとまだ違和感ありますね」

その後、音量や音質の微調整を重ねて、両耳からの音を聞いた上杉さん。

Q.もうどっちも同じように聞こえる?
上杉さん:
「そうだね。もうこっちからの音が聞こえるっていうのがすごい」

西原医師:
「さっきこっちから話しかけてパッとこっち向かれたので、方向感はすごいあるんだなと」
上杉さん:
「はっきりわかります」
西原医師:
「もう内緒話できない」
上杉さん:
「今までだったら「ん?」って感じだったんで、もうこのまま聞けるのがすごいストレスがない」

また旧型のモデルは、金属部分が皮膚から出るため衛生面に気を使う必要がありますが、最新型のOsiaは完全に埋め込まれているため皮膚トラブルもありません。

羽藤教授:
Q.国内第一号に踏み切ったのは?
「元々私この“骨導インプラント”っていう機械を私自身も開発してるのもあって非常に興味があって、将来性に非常に期待をしている部分もあるんですね」

“聞こえる”ことで生活をより豊かに。愛媛大学医学部附属病院では現在、上杉さんをはじめ、県内の4人にOsiaをつけてもらう特定臨床研究を進めていて、今後、保険診療の適用と全国への普及を目指しています。

最終更新日:2025年3月4日 17:00