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「16×18」が頭の中で解ける “小学生向け”暗算ドリルが大人にウケる理由

2023年5月12日 6:40
「16×18」が頭の中で解ける “小学生向け”暗算ドリルが大人にウケる理由
41万部突破 大人にも話題の暗算ドリルを取材

5月9日発表の「トーハン調べ 週間ベストセラー」総合ランキングで、2023年本屋大賞を受賞した凪良ゆうさんの『汝、星のごとく』、村上春樹さんの新作『街とその不確かな壁』に次いで3位にランクインしたのが、『小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本』。発売から約5か月たった今も売れ続け、発行部数41万部(出版社発表)を記録しています。対象は小学生ですが、幅広い世代で人気だというこの学習参考書。その理由を取材しました。

本の内容は、「11×11」から「19×19」までの「十の位が1の、2ケタの数同士の計算」が、頭の中でできるようになるというもの。たとえば「16×18」を電卓以外で解こうとすると、紙を用意して筆算を書き解く人が多いと思います。しかし、この本1冊を通して学習できる“おみやげ算”という方法(記事の最後に記述)を身につけると、九九のようにすらすらと暗算できるようになるといいます。

■編集者も驚きのヒット その要因は“大人”

編集を担当したのが、出版社で入社9年目の吉田瑞希さん(30)。吉田さん自身は文系で、学習参考書を担当するのは初めてだったといいます。取材すると、ヒットの裏に“大人”というキーワードが隠されてました。

――累計40万部を超えるヒットに。想定していましたか?

吉田:誰が(この本を)買っているのかを見失いました(笑)。タイトルが「小学生が~」と言っているので、小学生かその親御さんに最初は届いているのかなと思っていたのですが、10万部を超えたあたりから「あれ?」って。

――編集者として、なぜここまで異例のヒットになったと捉えていますか?

吉田:問い合わせとかレビューを見ていると、どうやら「お孫さんがいる世代」が買っているのがわかって…。大人ですね。(感想の)お電話をいただいたりするんですけど、全部60代後半から70代の方で。年齢層が想定しているよりも広かった。お子さんの需要も満たしつつ、「脳トレをしたい大人」にまですごい勢いで広がったのが一番の要因だったと思っています。

――具体的にどういう感想が届いていますか?

吉田:「自己肯定感が上がった」という、全く考えていなかった感想をいただくことが多くて。「新しい知識を大人でも身につけられる」達成感で(自己肯定感を)覚えているのかなと。「うれしかったので、お孫さんに自分が教えたい」というお手紙・お電話をいただく方もいらっしゃいます。

■記者が実際に体験 解いて味わった“爽快感”

実際に解けるようになると、どんな感覚を覚えるのか? それを検証するため、解き方を知らない記者5人にドリルを抜粋したものを配布。実際に解いてもらうと、以下の結果が出ました。

●記者の年齢/文系or理系/算数は得意or苦手/習得までにかかった時間

記者A 24歳/文系/計算に苦手意識あり/約13分
記者B 21歳/文系/大の算数・数字嫌い/約30分
記者C 24歳/文系/センター数IIで20点レベル/約8分
記者D 39歳/文系/算数は苦手/約15分
記者E 47歳/理系/算数は得意/約7分

文系・理系にかかわらず、7~30分ほどで「11×11」から「19×19」が暗算できるようになる“おみやげ算”を習得。記者Aは「暗算できている自分に少し感動」、30代後半の記者Dは「スラスラとける爽快感がとても気持ちよかった」、3人の子どもがいる記者Eは「小学5年生の子どもの前で披露したら、“すごい”と言ってくれた」と回答しました。

一方で、算数がアレルギーレベルで嫌いだという記者Bからは「繰り返したり、たまに見返したりしないと(やり方を)忘れてしまう気もする」といった意見も出ました。

編集の吉田さんにこのドリルの最大の特徴を聞くと、“大人の自己肯定感”につながる理由が浮かび上がりました。

吉田:かなり“スモールステップ”、段階を踏んで解説しているところが特徴的なのかなと思っています。“わからない”があると(子どもたちは)本当につらい。1個つまずくと「算数が嫌だな」と思ったり、「計算が嫌いだな」と思っちゃうことも考えられる。ずっと「できる、できる、できる…」が積み重ねられる構成がすごくよかったんじゃないかなと。“スモールステップ”は子どももなんですけど、大人も(解けて)うれしい。自分もできるようになるうれしさがあったのかなと。

吉田:あと最後に「認定書」がついているんですけど、「100点とれてすごいね」という言い方ではなくて、「ここまで全部やれたあなたがすごい」、“やり抜いた”ことを褒めてという(内容)。ずっと褒めてもらえるうれしさがあるところが、(大人にも)広がった要因なんじゃないかと分析しています。

――大人にもやってもらうことを意識して作ったのでしょうか?

吉田:私自身は全くないです。大人にも子どもにもやってもらいたい、みたいな学習参考書の作り方をすると失敗するような気がするので。“本当に届けたい人だけを見る”ということを大事にしています。最終的に大人の方にも“脳トレ需要”があったというのはよかった。大人には満足感みたいなものを得てもらえると、作ってよかったなと思います。

■16×18が暗算できる “おみやげ算”のやり方

1.「16」に、「18」の一の位の「8」をおみやげとしてわたす

2.「16は8増える(16+8)」「18は8減る(18-8)」ことになり「24×10」という式ができる…▲

3.次の段階として「16×18」の一の位同士をかけ算。今回でいうと「6×8」という式ができる…●

4.▲の式の答えと●の式の答えを足す 「24×10+6×8」…★

5.★の式で出た数字が「16×18」の回答となる  正解「288」