黒田アナが見た舞台裏 賞レースにかける女性芸人の覚悟 出番15分前にボケを変更
私黒田が取材した、今年で6回目となる『THE W』。応募資格は“女芸人”であることだけ。プロ・アマ問わず、ジャンルも漫才・コント・ピンネタ・歌ネタ・モノマネなど、なんでもありの、いわばお笑い界の“異種格闘技”とも言われています。正統派漫才と奇想天外なコントの対決では、審査員が頭を抱える様子も見られました。
■魅力は…キャラクターのインパクト
優勝した天才ピアニストは、ツッコミの竹内知咲さん(30)、ボケのますみさん(35)からなる結成7年目のコンビです。コントだけではなく正統派漫才も武器としていて、ますみさんは上沼恵美子さんのモノマネでも注目されています。
決勝で披露したのは、他人のケンカをつまみに酒を飲む人のコントと、家族団らんをVRを使って体験する親子のコント。2人の魅力は、インパクトの強いキャラクター。放送内でも“七色のキャラ劇場”とキャッチフレーズがついていたように、個性豊かなキャラクターを、高い演技力で演じ分けています。
■決勝では出番15分前にボケを変更
取材を続けて気付いたのは、同じネタを披露していても勝ち上がるにつれて、衣裳やボケ、ツッコミ、会話の間や言い方のニュアンスが少しずつ変わっているということです。『THE W』決勝では、一つでも多く笑いどころを増やそうと、なんと出番直前の15分前に1つボケのセリフを変更したそうです。
このことについて後日改めてお話を聞いてみると、ますみさんは「直前に変えたので、(事前に)お客さんの反応は見られなかったですけど、もう勘で。別に笑いのないというか、普通にネタ上いるセリフやけど、“ここもう一笑いほしいよな、笑い来たらラッキー”ぐらいの感じでもう一乗せしたいなと思ったら、ちゃんとトンって(笑いが)来た。結果、(審査員だった笑い飯の)哲夫さんもそこ言うてくれたんで」と、決勝での裏側を明かしてくれました。
直前まで2人で考え抜かれた緻密なセリフ選びが結果審査員に評価され、優勝に結びついたのかもしれません。
■躍進の裏には大事にしてきた"ライブ” 「劇場のお客さんに育てていただいた」
『THE W』の優勝以外にも、今年は第52回NHK上方漫才コンテスト優勝や、第43回 ABCお笑いグランプリ決勝進出と、飛躍の年となりました。躍進の背景にあったのが、最低6本の新ネタを披露する単独ライブです。これまでは半年に1度しかやっていませんでしたが、2021年から月1回にペースアップ。2人は単独ライブを続けてきたことで気付いたことがあると言います。
ネタ作りを担当する竹内さんは「そもそも(ネタを)作り出すときに“賞レースで使えるもの”っていうのはめっちゃ意識してて。客席が埋まってるときとか、いろんな世代の方がいるところで(笑いが)返ってくるかどうか試すっていうのは、賞レースのネタを作るときにめっちゃ大事。聞いてたら分かるんですよね、一部の年齢層が笑ってるのか、全員が笑っているのか。声の大きさ以外でも。声の質とかで」と、劇場でネタを披露する大切さを教えていただきました。
大阪にある若手芸人のための劇場『よしもと漫才劇場』に所属する2人は、ほぼ毎日のように舞台に立っています。竹内さんが「笑いが返ってくるかどうか試す」と語るように、賞レース前は同じネタを何度も披露。お客さんのウケ具合や反応を見て、ネタを少しずつブラッシュアップさせていくといいます。
ますみさんは、「2本目のVRのネタは最初できたときは、そんなにお客さんにハマったわけじゃなくて。ハマったわけではないけど自分たち的には好きな、斬新な設定やなと思ってたし、芸人側の反応は“設定とかいいよね”みたいな。最初お客さんには伝わってないな、浸透してないな、って感じやったけど、もうほんまに自分らを信じて選んだネタみたいな感じでしたね」と明かしてくださり、ネタに懸ける強い覚悟や自信を感じることができました。
自分たちが信じたネタをライブで何度も試し、お客さんの反応を見ながら設定やセリフ回しを大幅に変えてできたものが、2ネタ目の『家族団らんVR』でした。「劇場のお客さんに育てていただいたネタだった」と話してくれました。
■今後の目標は「とにかく賞レース」
優勝してからも単独ライブを続けると話す2人。今後の目標については「テレビで売れる、とかじゃなくて、とにかく賞レース。M-1とキングオブコントに差はつけられへんし、直近やとYTV新人漫才賞。ABCお笑いグランプリも去年は決勝で負けたし、順番に行かなあかんなって思う」と意気込みを語りました。
■『THE W 2022』 半年間を振り返って
6月から12月までの半年間『THE W』に携わり、全735組のネタを視聴し、女性芸人の皆さんの賞レースに懸ける思いを取材してきました。
ギリギリまで舞台裏でネタ合わせをする姿、インタビューをお願いしたら、本番ネタ直後にもかかわらず、息切れしながら語ってくださった賞レースへの思い、そしてどんなときでも常に面白くあり続ける皆さんの姿を間近で見て、胸が熱くなった半年間でした。女性芸人の皆さんが今後どんな活躍を見せてくれるのか、目が離せません。
(取材・文 日本テレビアナウンサー 黒田みゆ)