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劇団『ヨーロッパ企画』 上田誠が明かす8年ぶりに再演する理由 初出演の板尾創路が語る劇団の魅力とは

2024年9月26日 22:45
劇団『ヨーロッパ企画』 上田誠が明かす8年ぶりに再演する理由 初出演の板尾創路が語る劇団の魅力とは
上田誠さんと板尾創路さんにインタビュー
舞台『来てけつかるべき新世界』で作・演出を務める、劇団『ヨーロッパ企画』の上田誠さん(44)と、今回『ヨーロッパ企画』の舞台に初出演する板尾創路さん(61)にインタビュー。約8年ぶりに『来てけつかるべき新世界』を再演をする理由や、板尾さんが感じる劇団『ヨーロッパ企画』の魅力などを伺いました。

■2016年の初演時には『岸田國士戯曲賞』を受賞

11月まで全国で上演されている舞台『来てけつかるべき新世界』は、ドローンやAI、メタバースなどのテクノロジーと共存する大阪・新世界のオッサンたちを描いたSF人情喜劇。2016年に初演を行い、この作品で“演劇界の芥川賞”といわれる『岸田國士戯曲賞』を2017年に受賞しました。

約8年ぶりの再演となる今回は、ヨーロッパ企画の劇団員以外にも、板尾さん、町田マリーさん、岡田義徳さんら新キャストを迎え、全国13都市で巡演します。今作で板尾さんは、数年前に妻を亡くし酒浸りになった、串カツ屋・きて屋の看板娘マナツの父を演じます。

■約8年ぶり再演の理由

――今回『来てけつかるべき新世界』を再演する理由を教えてください。

上田:大阪の新世界にテクノロジー的な意味合いでの“新世界”がやってくるという、“大阪のオッサンたち V.S. テクノロジー”みたいなSF人情喜劇なんですけど。初演を書いた時に、劇団をずっと続けていて、時々出る会心の作みたいな感じで。お客さんの評判もよかったですし、代表作だからいつか再演したいなって思っているうちに、気がついたら8年くらいたっていて。

世の中が本当にそれこそAIとか、ファミレスでロボットがハンバーグを運んでくるとか、そういう時代になったんで、今のうちに早く再演しておこうと。初演の時よりも今の方がきっとテクノロジーが僕らの世界に浸透してきている度合いが強いから、今の方が真に迫って見られるものになってるんじゃないかなという気がしています。

――板尾さんは今回の公演はいかがですか。

板尾: 8年前だとちょっと未来の話で、まだみんな想像でしかないところでしたけど、今は本当にね、ドローンで荷物が配達されたりとかっていうのがだいぶ近づいてきて。より身近なので、もうちょっと笑いやすいというか。だから多分8年前見たお客さんと、今回見たお客さんだと、面白がり方がちょっと違うのかなっていう気がします。

■板尾さんへ初オファー 上田「告白する前にちょっと探る感じ」

――板尾さんは、今回が『ヨーロッパ企画』の舞台には初出演ということで、上田さんとはどのように知り合ったのですか。

板尾:最初は(2006年に)下北沢の劇場の『ザ・スズナリ』ってところの公演を関係者の人に勧められて、「ヨーロッパ企画という劇団のお芝居が面白いから行きませんか」と言われて。名前は知っていたんですけど、お芝居は見たことなくて。すごく面白かったんです。予想を裏切るようなお芝居で。こんないい意味で何かアホなことをやってる若い劇団の人たちがいるんだと思って、ちょっと感動したというか。すごく残っていて。

上田:僕らもわりとのんびりしているんで、板尾さんとも知り合わせてもらってから、本当にあまり重なるタイミングは意外となくて。子供の頃からずっと板尾さんのことは見ていましたし、お会いできてからも、もちろん一緒にご一緒したいなって思っていたんですけど、それが本当にもう機がやってきたというか。去年対談させてもらう機会があって、その時に「あ、今かもしれない」と思ってオファーしました。

――板尾さんにオファーする時は緊張されましたか。

上田:緊張しましたけど、恋愛でいうと告白する前にちょっと探る感じあるじゃないですか。インタビューの間に、わりとそういう話ができたんですよ。「本公演とかって、もしね、何かご一緒できたら」みたいな。インタビューの場を利用してちょっと探らせてもらったりして、何か悪い感触じゃなかった気がしたので、思い切ってオファーしました。

■上田の演劇作りに影響する板尾の言葉

――『ヨーロッパ企画』は舞台の中で笑いの要素も多くありますが、板尾さんから見ていかがですか。

板尾:その時だけいいギャグの応酬ではなくて、上田君の脚本ってやっぱりちゃんと物語、ストーリーにのっとった笑いをところどころ仕掛けていってるんで、それをみんな回収しているというか。だから別に面白いことを言ってるわけじゃないんですよ。当たり前の指摘をしているだけなんですけど、それでちゃんと笑いが取れてるっていう。だからすごくそういうところの方がやっぱり笑いって大きいんですよね。客は流れを知ってるから、それを言うだけで面白いっていうか。ストーリーで笑いを取れるっていうのがこの劇団のすごいところじゃないかなって思いますけどね。

上田:前にインタビューで、板尾さんが若手芸人さんの話されている時、ずっと昔ですけど、わりと若手芸人さんによってはボケを間違うだけの人もいれば、ちゃんとキャラクターに沿ってやる人もいて、やっぱり間違うだけではボケにならないんだよねっていうのを板尾さんがインタビューでおっしゃってたんですよ。それは結構残ってて。人間的な何か必然というか、それが乗っかってて。でも、そいつ自身がもう変だからずっと見ているだけで、その人自身が喜劇的に見えるとか。そういうのがやっぱりいいなって思います。

■板尾「ヨーロッパ企画の時代が来た」

板尾さんは、2019年から開催されている『関西演劇祭』でフェスティバル・ディレクターを務めていて、演劇界の新たな才能の発掘や、演劇界全体を盛り上げる活動も行っています。

――『ヨーロッパ企画』は京都を拠点に全国を巡る劇団ですが、関西発で全国を回っている劇団というのは、板尾さんから見てどう感じていますか。

板尾:京都から彼はもう出ないっていう、別にひきこもっているわけじゃないけど。これだけ本多劇場で毎年、何十日もお客さん満杯でっていう普通なら、もう東京に拠点を移してやりそうなものですけどね。でも、やっぱり自分たちが生まれたところを大事にするっていう。「ここでもできるやん」っていう、動かなかった強さみたいな、彼の意識をすごく感じるので。今はだいぶ距離も縮まってきたので、ヨーロッパ企画の時代が来たんじゃないですか。

■一言で言えないものを味わっていただける舞台

――8年ぶりの再演となる『来てけつかるべき新世界』の見どころを教えてください。

上田:本当に新世界という場所に育てられた劇といいますか。今は新世界と呼ぶにはほど遠いようなレトロな街並みの感じがあって、そこに言葉通りの新世界がやってきて。“大阪のオッサン、おばはん、兄ちゃん、姉ちゃん”掛ける“テクノロジー”の5番勝負で、聞いたことない交響楽が鳴っているような、そんな劇ですから。舞台でないとこれは味わえない楽しさだと思いますし、笑ってる次の瞬間になぜか感動してたりとか。なぜか次の瞬間にまた笑ってたり。すごく寂しい時間が急にあったりとか、一言で言えないものを味わっていただける舞台だなというふうに思っています。