ミッフィーが「正面向き」「6色」のワケ 世界で愛されるブルーナ作品のこだわりを取材
■初期の絵本7冊もオランダから来日
世界で翻訳され、ロングセラーとなっているブルーナさんの絵本シリーズ。ブルーナさんが初めて絵本を発表したのは、1953年のこと(『de appel(りんごぼうや)』)。今年、作品誕生から70周年を記念した『ブルーナ絵本展』では、ミッフィーはもちろん、くまの男の子『ボリス(ぼりす)』シリーズなどの原画、スケッチ、制作メモなどが展示されています。
また、ブルーナさんが描き続けてきた約120冊の絵本作品が集合。正方形のスタイルになる前に作られた、初期の絵本7冊もオランダから来日しました。
■絵本作家 ディック・ブルーナ “シンプル”へのこだわり
ディック・ブルーナ・ジャパン広報の相生佳津子さんによると、ディック・ブルーナさんは1927年オランダ・ユトレヒトで生まれ、絵本を作り始める前から、父親の出版社でグラフィックデザイナーとして活躍し、文庫本の表紙をデザインしていたそうです。約20年の間に手がけた表紙は2000冊にもおよぶということです。
ブルーナさんは、1955年にミッフィーの最初の絵本となる『nijntje』を発表しました。ミッフィーは、オランダではナインチェと呼ばれていて、英語訳されたときに『miffyミッフィー』、日本語訳では石井桃子さんによって『うさこちゃん』と名付けられたといいます。ブルーナさんは約60年にわたり創作を続け、2017年2月その生涯をとじるまでに、120作を超える絵本を創作しました。
そんなブルーナ作品の特徴の一つが、シンプルな絵。“想像の余白”を残しておくことが大事だと話していたそうで、相生さんは「(ブルーナさんは)想像の余白があれば、描かれた内容以上のものを自由に見ることができる、と考えていました。“とくに絵本は子どもたちのためのもの。ぼくの絵や色が、子どもたちのイマジネーションのつばさを広げることに役立つとしたら、こんなにすばらしいことはありません”と語っています」とブルーナさんの思いを明かしてくれました。
■色、体の向き、線、ストーリー ブルーナ作品の特徴
“シンプル”以外にもブルーナさんのこだわりは随所で見られます。ブルーナさんが伝えたかったこと、表現したかったことはどんなことだったのでしょうか、相生さんに作品に共通することを聞きました。
【色】
ブルーナさんの絵本は、基本的にブルーナ・カラーと呼ばれる6色(赤・青・黄・緑・茶・灰色)で描かれているそうです。6色は、基本となる赤、青、黄、緑が選ばれ、デザイン上の必要性から茶色と灰色が加わりました。それぞれが主張する強さを持ちつつも、隣り合ったときにそれぞれの色味を損なうことなく、互いを引き立たせる色を作りだしたといいます。
【正面向き】
絵本の主人公は、いつも正面を向いており、横を向くことがありません。この理由について、子どもたちの正直なまっすぐな目に応えようと思ったから、とブルーナさんは明かしているそうです。
【線】
ブルーナさんの描く黒い線は、よくみるとわずかに震えがあるそうです。サインペンなどではなく、細い筆で点と点をつなぐようにゆっくりゆっくりと描いているため、線にふるえが生まれるといいます。このふるえについて「ぼくの心臓の鼓動とか、息づかいとか、そのときの気持ちがこのラインに伝わって人間味を与えている」と語っているといいます。
【ハッピーエンド】
ブルーナさんの絵本は、途中でどのようなことがあっても、すべてハッピーエンドで完結。ブルーナさんは、子どもたちのあたたかい記憶づくりに自分の作品が役立ってほしいと願っていたそうです。
■スケッチが100パターンを超えることも
読者、子どもたちを思い、細部にまでこだわって描いていたブルーナさん。時にはスケッチが100パターンを超えることもあったそうです。相生さんは「シンプルな表現は、わずかなミスや違和感も目立ちやすくなります」と説明します。
「描こうとするものの本質を捉えきれていないと、それが違和感として現れると、ブルーナは感じていました。少しでも違和感があるときには、それがなくなるまで描き続け、結果的に100枚ものスケッチをすることも少なくなかったといいます。毎日描いては悩み続け、ある一瞬“これだ!”と思うものが見えてくるのだそうです」とコメント。ブルーナさんの言葉に触れ、「“シンプルで明快な線で描かれた作品は美しく、力強いものです。ものがもつ本質が際立っているということです”と語っています」と紹介してくれました。
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