“菊陽町は宝くじが当たったような町になった”…半導体巨大企業の進出に沸く熊本を徹底取材!
22日の株価の史上最高値更新の要因の1つ、「半導体」株の上昇。その半導体を製造する世界大手・台湾のTSMCが24日、熊本工場の開所式を行う。“巨大企業”の進出に沸く地元と、日本政府が直面する課題を現地取材した。
(経済部 戸田舜介)
■“菊陽町は宝くじが当たったような町に”…人口約4万3000人の町に進出した台湾の“巨大企業”
熊本県の真ん中に位置する人口約4万3000人の菊陽町。ここに3年前、進出したのが、24日に開所式を迎える台湾を拠点とする世界大手の半導体製造メーカーTSMC。
町は進出により、周辺に多くの半導体関連企業が集まるようになった。それにより、地価は上昇。町全体は“バブル”状態になった。住民の1人は、「菊陽町は宝くじに当たったような町になった。普通の畑が億で売れる」と話す。
■“半導体バブル”に沸く焼き肉店… 売り上げはTSMC進出前の『2倍』に
熊本県菊陽町の焼き肉店、「焼肉七輪」。私たちが訪れると、 住民たちが“景気の良い話”をしていた。この町に14年住んでいるという住民の1人は、「今、家を売ればとんでもない金額になる。もう1軒買えるんじゃないか」と話す。
さらに、この焼き肉店の店主は、TSMC進出のおかげで「売り上げは倍くらい伸びた。今年は倍以上いくかのような感じ。このあたりの飲食店、隣町の大津町、どこも一緒じゃないか」と語った。
■相次ぐ町の“潤い”…ホテル・マンションの建設ラッシュも
“潤い”は飲食店だけではない。菊陽町で40年近くビジネスホテルを経営するホテルサンロード熊本のオーナーも、「今は、昨年1年間の平均で85%を超すほどの稼働率。経済効果は起きている」と話す。一方で、去年はリピーターが来られなくなってしまったため、リピーター用の客室を30%は確保するようにしたと、TSMC進出による大きな影響を語った。
さらに、菊陽町の隣町・大津町では、TSMC関係者などの入居を狙い、マンションの建設ラッシュも進んでいた。
■“潤い”の陰で懸念も…“渋滞”と“水”問題
一方、取材すると、住民からは「急激な町の変化」に、戸惑いの声もあった。ある住民は、「朝と夕方が渋滞するようになった。かえって、静かなときの方がよかった」と話す。
現地のタクシー運転手に聞くと、TSMC進出以降、工場すぐ近くの道路は、通勤時間帯にTSMC関係者などの車で常に渋滞するようになったという。
また、さらなる問題も浮き彫りになった。それは製造の際、多くの水を使用する半導体ならではの問題だ。工場すぐ近くのキャベツ農家に聞くと、「タンクに水を今まで溜めていた速度が、5分くらいで1000リッター溜まっていたところ、18分くらいになるなど、水が出にくくなっている状態は現状ある」と話し、実感として“農業用水が出にくくなった”という。
■【独自】日本政府がTSMC熊本工場にさらなる支援へ…24日に正式発表か
今月、TSMCは菊陽町に2つ目の工場を建設することを発表したが、日本テレビの取材によると、日本政府はこれに1つ目の工場への支援をさらに上回る“巨額の補助金”を投じる方針だ。24日に行われる開所式で正式発表するとみられる。
ある住民からは、TSMCの進出で菊陽町が“バブル”だと言われていることについて、「バブルにならないよう、足元、しっかりと計画をたててほしい」との声が聞かれた。
■「日の丸半導体」復活へ… カギは“賃上げ”
日本政府も過去の「反省」をいかし、TSMC熊本工場だけでなく、北海道千歳市に建設中の、大手日系企業8社が設立した新会社・ラピダスの工場にも、多額の補助金を投入。TSMCよりもさらに最先端の半導体の製造を目指している。
ある政府関係者は、「日本は10年前から中国や韓国に比べ賃金が安い。誰がこんな安い給料で日本に残りたいと思うか。日本は理系の技術者を飼い慣らしてきた。経営者も、意識を変えなければいけない」と話し、“賃上げ”が鍵になると強調する。“半導体バブル”を“バブル”にしないためにも、日本企業には、“技術者を大切にする環境整備”も求められている。