コロナ禍で“シャンシャン”無風の税制改正
税制改正を取材し始めて4年目。2020年は例年になく「シャンシャン」でスムーズに税制改正大綱が上がった。毎年、都心の一等地にそびえたつ某政治家御用達ホテルで切った張ったの大立ち回りが演じられ、我々記者も、寒風吹きすさぶなか長時間、自民・公明両党の税制調査会長を待って風邪をひく、というのがセオリーだったというのに…である。なんだか拍子抜けするほどあっけなく終わってしまった。
■「コロナ禍で増税なし」
それもそのはず、「コロナ禍で増税なし」が自民公明両党の一致したポジションだったからだ。新型コロナウイルスの感染拡大は多方面に打撃を与えた。税制面からも痛みを緩和することは不可欠だ。
12月10日に決定した2021年度の税制改正大綱の中身を見ると、確かに、暮らしへの負担増は避けている。住宅ローン減税やエコカー減税の延長、納税額が上がるはずだった固定資産税の税額据え置き…どれもこれも、現行制度の継続だ。それも、住宅や車を持っていない人に恩恵はない。企業向けの新たな減税ばかりで、家計に直接関係のあるものは少なかった。
■菅総理“肝いり”に税優遇
菅総理が掲げる二大看板、「デジタル」と「グリーン」にはさまざまな税優遇が設けられた。脱炭素やデジタル関連の投資をすると、一部が法人税から差し引かれる。菅総理の提唱する中小企業再編に向けて、企業の合併や買収をした場合、税負担が軽減されることにもなった。
菅総理の看板政策にはどんどん優遇措置がつく。ある政府関係者は「今年はコロナで建設的なことは何もできない。とりあえず菅総理の『肝いり』にこたえるだけだ」と当初からあきらめモードだった。
■忘れられた“役割”
だが、本来、税の役割の一つは所得を再分配して、格差を是正することだ。コロナ禍においても、打撃を受けた企業や家計を支援しながら、構造的な問題を見つめ、社会のひずみにメスを入れることはできたはずだ。
コロナによる景気の悪化で、非正規雇用で働いている人が雇い止めにあうなど、いま、貧富の差はさらに拡大している。こうした格差の是正はかねてより税制の課題だった。
一方、ここ数年来の懸案、株の配当や売却益など金融所得への税率アップはかなわぬままで、富裕層への優遇は続いている。つまり、税制改正が格差是正と真逆のベクトルを向いているのだ。
■課題は“置き去り”のまま
さらにもう一つ、忘れてはならない問題がある。税収減による財政状況の悪化だ。今年度は税収が8兆円程度下振れして、112兆円という巨額の国債を追加発行した。借金が膨大なのに、今回、「収入」である国税は総額500~600億円規模にのぼる減税となった。財政健全化はますます遠のくばかりだ。
ある政府関係者は、「今年は財政再建の『ざ』の字も口にできる雰囲気じゃなかった」とため息をつく。少子高齢化もあいまって、日本の財政状況はもはや待ったなしの状況だ。2021年こそは、ポストコロナを見据え、長期的な視点にたって税が社会に果たす役割を熟慮した上で、「抜本改革」ののろしを上げてほしいと思う。