NTT澤田社長の変革「IOWN」構想とは
「ソフトウエアが中心の世界の中で、NTTとしては“ゲームチェンジ”を行いたい」
日本の通信インフラの巨大グループトップであるNTTの澤田純社長は、今月、日本テレビのインタビューでこのように語った。澤田社長が語る「ゲームチェンジ」とは何なのか。
■ゲームチェンジの切り札「IOWN」
「ゲームチェンジのベースになるものが『電気から光への変化』でそれは『IOWN』という考え方で進んでいます」と澤田社長は話す。
その「IOWN」(Innovative Optical and Wireless Network)とは、光を中心とした技術を利用した、超高速大容量通信のネットワークの構想だ。より高速で遅延がない通信を可能にするためには、<光のネットワーク>と<光の半導体>を合わせた基盤作りが必要だという。
■コンピューターの構造を変える「電気から光へ」の2つの変化
まず<光のネットワーク>とは、大容量のデータ転送が可能な光信号のままで、データをやりとりする技術だ。これまでの光ファイバー回線を用いたインターネット通信は、光信号を電気信号に変換するための装置が必要だが、電気信号に変換せず、光信号のまま情報を処理する方法に変えるというものだ。
もうひとつ<光の半導体>は、電気信号で動く半導体を光信号で動く半導体に変えることで、処理能力を高めることができる新しい技術だ。これまでの半導体は、電気信号のやりとりで発生する熱によりデータの処理速度が低下する。この電気信号を光に変えることで、抵抗なく遅延せずより高速でデータを処理できるというものだ。
これらを基礎としたIOWN構想が実現することで、例えば高画質の3Dのライブ映像も、遅延なしにリアルタイムで送受信することが可能になる。全く新たなソフトウエアやサービスの提供ができるようになるというのだ。
また、自動車の「自動運転技術」では、周囲の情報をリアルタイムで処理できる。さらに遠隔医療やスマート農業など高度な情報処理に活用することができるという。NTTは、これまで以上にデータ処理のスピードアップを目指し、2030年の実用化を目指している。
■ソフトウエアの世界でNTTが対抗するためには―
NTTがIOWN構想の実現を急ぐ背景には、アメリカの巨大IT企業、いわゆる「GAFA」の存在がある。
マイクロソフト、グーグル、アップル、アマゾンは、それぞれのアプリケーションで世界基準を獲得しているが、NTTはソフトウエアを使うための通信網を提供するだけの存在になっている。次世代大容量通信「5G」の開発でも海外の企業に大きく溝をあけられているのが現状だ。
澤田社長はGAFAをしのぐ革新的な技術を世界基準にして、次世代のシェアを広く獲得したいという野望がある。
今回のIOWN構想は、NTT、ソニーとアメリカのインテルが共同でフォーラムを設立し、ここにトヨタなど35社が参画して、国際レベルでの議論を進めていて、澤田社長は、「自分たちのみでやるよりも同じ価値観を持った海外企業と組むことで、世界基準を取れる確率は高くなる」と話す。
■GAFAとの差を埋めるために必要な「研究開発費」
しかし「研究開発費」は大きな問題だ。2018年度のデータによると、アマゾンが3.2兆円、アルファベット(グーグルの持株会社)が2.4兆円、アップルが1.6兆円と、研究開発費に莫大な金額を投入している。
NTTは、トヨタやNECといった国内企業や、海外のIT企業と連携して、研究開発に必要な経営資源を確保しようとしているが、今後どれだけ多くの企業がIOWN構想に賛同し、いくら研究開発費を投入できるかは、まだ未知数だ。また、国の支援をどれだけ受けられるかも大きな課題だ。澤田社長は、「国の研究機関と一緒に研究をするそういうようなことは大いにあっていいんではないか」とも話している。
海外の巨大企業に対抗するゲームチェンジによって、利用者へのサービス向上につなげられるかどうか、注目していきたい。