【解説】初の対面での閣僚級会合 「IPEF」ってなに?その役割と狙いとは
今回初めて対面による閣僚級会合が開かれた「IPEF」。その裏には、中国をけん制するアメリカの狙いが。IPEFとはそもそも何か、今回の会合では何を目指すのか。経済部の藤吉記者が解説します。
■初の対面会合 開催!IPEFとは
今回初めて対面による閣僚級会合が開催となった「IPEF」。
そもそもIPEFとは何か…と疑問に思っている方も多いのではないかと思います。
IPEFというのは、Indo-Pacific EconomicFrameworkの頭文字をとった略称で、日本語に直訳すると、「インド太平洋経済枠組み」といいます。
言葉は難しいですが要するに、アメリカが主導して発足した新しい経済連携の"枠組み"です。
その背景には、影響力を拡大する中国をけん制する狙いがあります。
ことし5月にバイデン大統領が日本を訪れて、立ち上げを宣言しました。
■IPEFとTPP…何が違う?
経済的なつながりというと「TPP」を思い浮かべる方も多いかもしれません。
TPPとIPEFの大きな違いは、外国から輸入する際に物にかかる税金を撤廃する、つまり“関税撤廃”の交渉があるかどうかです。IPEFには関税撤廃の縛りがありません。
元々、TPP=環太平洋経済連携協定は、アメリカを含む参加する国の間で関税をなくして貿易をしやすくしようという取り決めでした。
ただ、当時のトランプ大統領が、安い海外の製品が入ってくると「アメリカの雇用が奪われる」として2017年にTPPの離脱を宣言しています。
その後のバイデン政権でも、国内の労働者からの反対の声が強く復帰できていません。
そうなると、アメリカとしては、成長力のあるインドや東南アジア諸国を主導できる体制がなくなります。
そうしているうちに、"対中国包囲網"だったはずのTPPには、その中国が加盟申請しています。
そうなると、東南アジア諸国としても、どうせアメリカがいないならいっそ中国と…となりかねない。こうした覇権争いや国内事情のなか、バイデン大統領自らが主導して発足したのが、IPEFという新しい枠組みです。
ある日本政府関係者は、「アメリカの苦肉の策」と表現しています。
■参加国のメリットとは?
ただし、TPPとIPEFでは参加国がかぶっているうえ、“アメリカ市場に進出したい”と思っていた東南アジア諸国からすれば、関税撤廃の交渉ができないと加入のメリットが薄いといわれています。
ただ、第一生命経済研究所の西濵 徹主席エコノミストは安全保障という面で「中国の存在感が大きくなりすぎる中で、別のルートでも経済活動ができると示すことには意義がある」と話しています。
一方で、ある日本政府関係者からは、IPEFでアメリカと連携した上で、「本命はやはり、将来的なアメリカのTPP復帰だ」との声も聞こえました。
■IPEFでは何を話し合う?
今回の会合では「貿易」「サプライチェーン」「クリーン経済」「公正な経済」の4つの分野で声明をまとめて、交渉の開始を宣言することを目指します。
まだ交渉を始められるかどうかという段階なので、関係者も「具体的にはこれから」と話していますが、例えば、新型コロナやロシアによるウクライナ侵攻の教訓をふまえて、いざという時に半導体などの重要な物資をやりくりできる、そういった体制づくりを検討します。
そして、他の経済連携と比べると珍しいのですが、参加国は4つの分野すべての交渉に入る必要はなく、参加したい分野を“つまみぐい”できます。
参加国のメリットが薄いともされるなか、柔軟性をもたせることでまずは参加国を増やす狙いです。
ただ拘束力は弱くなるので、今回の議論では4つの分野の交渉にどれだけ多くの国を巻き込めるかが焦点となります。
■今後の交渉、どうなる?
各国様々な思惑があるなか、紆余曲折も予想されています。
西濵主席エコノミストは、「IPEFで共通認識をもったうえで、具体的な取り組みについては個別に進めないと、実効性を担保できないのが実情じゃないか」と指摘しています。
どこまで具体的な、中身のあるものを提示できるかも今後のポイントとなります。