【独自調査】大企業が価格交渉で“変化” 中小企業に「積極的な呼びかけ」 賃上げにつながるか
2022年12月、公正取引委員会は、「独占禁止法に関する緊急調査の結果」を公表した。そこにはよく知られている企業も含め13社の名前があった。公取委は「独禁法違反を認定したものではない」とする一方、「下請け等との取引で価格を据え置いた」「多数の企業から名前が挙がった」ことから、価格転嫁を円滑に進めるためだと説明。公表された13社のその後を独自で調査した。賃上げとの関係も解説する。(経済部・城間将太)
■中小企業は賃上げ…カギは「取引価格」
賃上げ交渉、いわゆる「春闘」できょう(3月13日)は自動車や電機メーカーなど、多くの大手企業が、賃上げの妥結額を一斉に回答する集中回答日です。
中小企業の賃上げはこのあと決まっていきますが、物価高の中で、日本経済が回復するかどうかは日本の働き手の7割を占める「中小企業の賃上げ」がカギとなります。
原材料費や物流費、賃上げにかかる人件費などのコスト上昇分を、大企業などとの取引価格に上乗せ(価格転嫁)できなければ、中小企業は賃上げの原資の確保が難しくなります。
取引価格の引き上げは実現しているのか―――。日本テレビは、2022年12月に公正取引委員会から「積極的に価格協議の場を設けていなかった」と指摘を受けた企業13社に対して、アンケート用紙への記載を求め、9社から回答を得ました。
公正取引委員会の指摘を受けて以降、「どのくらいの取引先と価格協議を行ったか」たずねたところ、全ての取引先と行った企業は6社、「要望があった社」など、一部の企業のみと行った企業は3社でした。
ただ、その3社とも、価格協議の『呼びかけ』については、継続して取引のある全ての企業に行ったとしています。
2022年に公取委に指摘されるまで価格協議をしていなかった理由については、「要請があった企業に対しては行っていたが、なかった企業に対しては行っていなかった」という回答がほとんどでした。「積極的に価格協議の場を設けることの必要性に関する理解が不足していた」、「法令への社内・担当部署での認識が不足していた」と説明しています。
政府や経済界が、「要請がなくても大企業などの方から価格交渉の場をもうける」よう促している理由は、立場の弱い中小企業からは、価格交渉を求めるのは難しいという実態があります。
今回の調査では、発注先企業がそうした配慮に欠けていたことを真摯に受け止め、価格協議の要請のなかった取引先にも主体的に協議を呼び掛けるように努める企業が増えたことがわかりました
一方、「価格協議を行った取引先に対し、実際に取引価格を引き上げたか」については、「全ての企業に引き上げを行った」との回答が5社、「一部の企業」との回答が4社と分かれました。
一部の企業に限定された理由について、「現在の発注価格が適正と判断した場合は、取引価格の改定を行っていない ケースがある」、その裏返しで「妥当な価格転嫁の要望があった場合には受け入れている」などの説明がされました。
「人件費の分も含めて取引価格を引き上げたか」については、引き上げたとの回答は7社でした。
「人件費に限定せず、取引価格を引き上げている」と答えた企業がある一方で、「自社の取引先もコスト上昇分をすべて引き上げてくれているわけではないので、自社の価格転嫁が進まなければ下請け等の取引価格の引き上げを継続することは難しい」との声もあがりました。
■適正な価格設定が「経済を好転」
最後に、公取委から指摘を受けたあと、適切な価格転嫁を行うために企業として行った改善策を尋ねました。
佐川急便や三協立山、三菱電機ロジスティクスでは、取引先に対して自ら価格協議を呼びかけ、協議の回数を年2回に増やしています。
また大和物流や豊田自動織機、トランコムでは価格協議の結果を文書などの記録に残し、持続的な賃上げに反映できるようにしているとの改善策もありました。
デンソーや東急コミュニティーでは、取引先との価格協議を行うための専門部署を設置したということです。
三菱食品は、インターネットでの研修を全ての社員に実施しているということです。
調査を通じて、「下請け企業のために」ではなく、「サプライチェーンを維持、強化していくために」主体的に取引先に呼びかける必要性を認識し始めた企業があったこともわかりました。
一方で、大企業が、引き上げに応じやすくするためには、下請けとなる企業も、コスト上昇を示す客観的なデータや理由を明示することが重要となります。
適切な価格設定によって、個々の企業が利益を得ることが、賃上げ、消費の活性化につながり、日本経済を好転させていくという認識が広がりつつあります。