女子高校生9割「ガマン」の生理痛…国の経済損失にもつながっている!? 社会全体で“解決”の気運を
腹痛、頭痛、眠気、イライラ…。毎月悩まされるその生理痛、ガマンしていると自分が損するだけでなく国の経済損失になっているかも!?長らく女性だけの問題とされてきた生理痛が社会全体で解決すべき課題になりつつある。正しく理解し、適切な対処を――。
■女子高校生97%「ガマン」
神妙な面持ちの男子生徒に、産婦人科医の高尾美穂さんが呼びかけた。
「普段生きている中で、7日間血が出続けるってある? ないよね?」
「はっきり言って、7日間出続けるってウザいの!その上、おなか痛い、腰痛い、頭痛い」
軽妙な語り口に、同じ教室にいる女子生徒や女性教諭からは笑いが漏れた。
これは、2023年12月11日に埼玉県立大宮南高等学校で1年生352人を対象に行われた「生理痛」を考える授業。生理痛に主眼を置いた鎮痛薬を製造販売する製薬会社(第一三共ヘルスケア)が3月に立ち上げた「みんなの生理痛プロジェクト」の一環だ。
授業の中でこんな数字が紹介された。全国の高校生を対象にしたアンケートで「生理痛で学校生活に支障をきたしたことがある」という女子生徒は67%、「生理痛で学校生活に支障があってもガマンしたことがある」は97%。
なぜ女子生徒たちはガマンしなければならないのか? 生徒たちからは「言うのが恥ずかしいから」「男女で認識が違うから」「周囲の理解がないから」などの意見があがった。
欧米などに比べ性教育が遅れている日本の学校では、生理について小学校や中学校の保健体育の授業で触れる程度。生理痛やその対処法まで学ぶ機会はない。また、親や教師にも知識がなかったり、生理痛は症状に個人差が大きいため女性同士でも理解が進まなかったりする。
■「痛い」は病気
「生理は病気じゃない。でも、日常生活に支障が出るほど痛かったら、それは“病気”」
高尾さんは、生理痛が重い場合は婦人科を受診したり鎮痛剤を服用したりすることを勧める。ほかにもおなかを温めたり、軽いストレッチをしたり、簡単にできる対処法など「ガマン」以外の選択肢があることを伝えた。
「風邪をひいたら休む、病院へ行く。それと同じです」
そのうえで「生理痛に限らず、目に見えない痛みや不調で悩んでいる人がすぐそばにいるかもしれないという想像力を持つことが大事」と締めくくった。
■ピル処方を会社負担で
生理痛の軽減には低用量ピルも有用とされるが、日本では避妊薬のイメージが強く、ほかの先進国と比べ服用する人が少ない。
こうした中、「ドン・キホーテ」を運営するPPIH=パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスは2023年春から、生理痛などに悩む女性従業員に対し低用量ピルの処方費用の全額負担を始めた。
同社が女性従業員に行ったアンケートによると、4人に1人が生理痛などで仕事を休んだ経験があった。ピルの処方費用は従業員一人につき1か月約3500円の会社負担になるが、「女性従業員の心身の健康をサポートし、能力を発揮しやすい職場づくりを進めたい」という。
■生理痛は経済損失
従来、企業が行ってきた従業員に対する健康支援は、生活習慣病やメタボ対策、禁煙などが多いが、女性は肥満や喫煙率が男性より低く、支援の対象は男性が中心だった。
しかし、いまや国内で働く女性は約3000万人、日本企業の全従業員の半分近くを占める。経済産業省の試算によると、生理とそれに伴う心身の不調での「欠勤」や「生産性低下」によって引き起こされる経済損失は、年間6828億円にのぼる。
高齢化と労働人口の減少が進む中、今後ますます女性の労働力は不可欠となるが、女性には生理だけでなく、妊娠や出産、閉経とそれに伴う更年期など男性とは違う体調の変化がある。性差を踏まえた従業員の健康管理は企業にとって必須といえよう。
■「女性の健康検定」市長も合格
生理や更年期に伴うトラブル・病気など、女性特有の健康課題の基本知識を確かめる「検定」がある。「女性の健康とメノポーズ協会」が2012年から実施するもので、合格者は「女性の健康推進員」という資格を得て、職場などでの健康支援に役立ててもらうねらいだ。(※メノポーズは「閉経」「更年期」の意味)
近年、この検定を活用する企業や自治体が増えている。資生堂やライオンなどでは健康管理部門などを中心に活用を進めているほか、北九州市では2023年秋、武内和久市長が局長以上の幹部全員の受験を“宣言”。11月の試験で男性31人、女性6人の37人全員が合格した。
武内市長は「女性が元気に働ける街づくりに向け、まずは幹部職員が理解を深めようと取り組んだ。女性特有の心身の症状に対する理解促進と支援強化は急務だ」と説明する。
■追試の対象に
1月からは受験シーズンが本格化する。文部科学省は、生理痛で高校入試を欠席した場合、追試の対象とするよう、2023年末に全国の教育委員会に通知した。今シーズンの入試から対応するよう求める。
実際に対応するかどうかは各都道府県の教育委員会の判断に委ねられるが、これまで文科省は追試の対象例を自然災害や事故、新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症、痴漢被害などとしていたが、これに生理痛が加わった。
通知は小さな一歩だが、今後、社会全体で、「生理痛は女性のガマンだけで乗り切るものじゃない」「女性として生まれたことが生きていくうえで不利にならないように」という機運が高まっていくことを望みたい。