【解説】日銀・金利引き上げどこまで?日米政治の影響は?
この先、政策金利はどこまで上がるのか。また、トランプ政権下での経済政策や日本の政治状況の影響は?
経済部・宮島香澄解説委員が、植田総裁の会見を読み解く。
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――ここからは日本銀行の植田総裁の記者会見について、経済部の宮島(香澄)解説委員とお伝えします。
金融政策決定会合は、たった今植田総裁の記者会見が終わりました。どんな内容でしたか?
宮島:金融政策は現状維持だと、大方の人が思う中でしたので、この先の利上げをどうするのかに関心が集まりました。全体の印象としては植田総裁はあまり慎重に見せないようにしていたかなと思います。日銀は、今回は現状維持だけれども、この先は、金利を上げていくという姿勢を伝えようとしていました。
■政策決定会合のポイント
こちらが会見のポイントです。
まず、金融政策は政策金利を現状維持しました。そして、今回の声明文は「各国の通商政策などの動きや影響」というのをリスク要因として書き込みました。一番はトランプ政権の関税政策などですけれども、この海外要因を新たに加えました。
そして、国内では、コメなどの価格が上昇していることに関して、物価の上昇率に影響する可能性があるので、それをしっかり今後見極めると話しました。コメの今の高値は、一時的だという見方もあるんですけれども、日常しょっちゅう買うものに関しては、一般の人のマインドに影響しやすいということで、しっかり注意するという話でした。
そして、この海外要因と国内要因どちらを優先するんですか、という質問も出たんですけれども、これに関しては、どちらが強いというわけではなくて、しっかりと両方見ていくという答えでした。両方をバランスよく見ていくということです。
国内の賃上げに関しては予想通り、オン・トラック(見通し通り)と言いながら、賃上げの広がり、あるいは水準は強めだと。
そして、今後日銀は、いわゆる中立金利、つまり景気を冷やしもしないし、過熱もさせないという中立金利に向かってこれから金利を引き上げて、そして正常化していきたいということがあり、その水準はどのくらいなのか、と質問に出ました。しかし、今回も植田総裁は「絞りきれてはいない」でした。
さらに、トランプ政権の関税の話はいろいろ質問が出たんですけれど、この関税政策の影響というのは、でるのは来月ですけれども、その影響は先読みできる部分があると話しました。次の会合のときには、今よりもずっとわかっている部分もある、といいまして、次に利上げすることを否定しなかったと受け止めました。
■総裁会見をうけて円相場は
――ここで改めて会見を受けた今の円相場の動きを見てみます。現在149円26銭ほどですね。
宮島:総裁会見が始まる前は149円80銭台だったので、会見を通じては円高に行ったということになりますね。今回現状維持したことで、円安が進むということが、最も避けたいことだったと思うんです。そういう意味では、今後の利上げの姿勢がしっかりと伝わったということで、今、為替は円高の方向です。
■利上げはどこまで・日銀OBの発言
――注目はこの先の利上げについて、いつ、どこまでか、ですね。
宮島:3月に入ってアメリカの経済状態、政策の不透明さが増しました。でもちょっと前の2月頃は投資家の中でも、意外と利上げは早いんじゃないかという観測もありました。
それについて2月は、日銀のOBからいろいろな発言が出ていました。
政策金利は来年にも1. 5%程度に達し「政策正常化のプロセスがゴールにたどり着くイメージ」と、早川元理事。前田前理事は「中立金利は理屈の上では1.5%から2%程度である可能性も念頭に」と。
また、中曽元副総裁は18日に、「当面は1%ぐらいを目指して利上げを進めていって、その後は経済・金融情勢を踏まえてさらなる利上げの余地を探っていくことになるのでは」と。白井元審議委員、これは2月の段階の発言ですが「3月に利上げすると思う。」
その後、3月の様々な状況があって今回利上げはしなかったんですが、少なくとも2月の段階でですね、日銀のOBの人たちが次々に利上げに対して、高いところまでいくんじゃないか、あるいはペースが早いんじゃないか、印象づけるような発言をしていたんです。
――立て続けに発言があったということですね?
宮島:そうなんです。やはり日銀は、早いうちに金融を正常化させたいという気持ちは強く持っていると思います。中立金利は、以前は、1%ちょっとではないか、などという観測もありましたが、発言を見てますと、中立金利は意外と高い1.5%から2%ぐらいということになると思います。そこに対して上げていく必要があると、賃金や物価の状況を見ながら、しっかりと利上げをしていくというスタンスだと思います。
このOBの発言が2月にあったときには、3月の利上げもあるんじゃないかというような見方もありました。ただ、その後アメリカでも日本でも株価が急落し、3月の期末というのは企業の決算も多いということで、アメリカの状況も見通しにくく慎重になりました。
■トランプ政権の関税政策で
――トランプ大統領は、日本の為替政策を批判していましたよね?
宮島:トランプ政権は来月、日本の自動車を含む広い範囲で関税を追加でかけるとしています。その背景には、アメリカが抱えている大きな貿易赤字があります。関税をかけても、もしも、円安ドル高になってしまいますと、その関税をかけた効果が、日本に対して帳消しになってしまうということもあります。ですから、この段階での円安、特にこれから関税をかけると言っている段階での円安というのはやはり避けたいと。トランプ氏は以前から日本の為替は安すぎるというふうに言っています。
財務長官のベッセント氏もこの18日、貿易相手国が、為替の操作など貿易の障壁を止めれば、関税に関して少し考慮してもいいよみたいな、そういう発言をしたと報じられました。つまり、来月の頭、関税がいざかけられるこの直前に、場合によっては少しおまけしてもいいかな、というような発言にもとれます。ベッセント氏も、日銀の金融政策の正常化が遅すぎるとずっと言っていますので、日銀は関税を考えていく上でも、しっかり利上げをしていく姿勢を示さないとまずい状態にありました。
■日本の政治の影響は
――そうすると、次の利上げは早そうでしょうか?
宮島:次の会合で利上げをするという、見ている関係者も少なくないです。ただ、ここで日本の政治の状況がちょっとわからなくなっています。元々夏は参議院議員選挙がありますのでちょっと利上げがしにくいかなと。それで次の会合は一つの利上げのチャンスなんですが、今、石破政権の支持率が急速に落ちていまして、今後日本の政治がどうなるかちょっと見通せなくなりました。もし政局となると5月の利上げが難しくなる可能性もあると。
日本の政治、あるいはアメリカの経済、政策、不透明なことがいろいろある中で、さあどうなるか。次の金融政策決定会合は、ゴールデンウィークの間の4月30日、5月1日に行われます。
――ここまでは経済部の宮島解説委員とお伝えしました。ありがとうございました。