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米で大ヒットの映画「オッペンハイマー」 子孫らが語る原爆開発と投下から得るべき教訓とは(2)

2023年9月17日 14:53
米で大ヒットの映画「オッペンハイマー」 子孫らが語る原爆開発と投下から得るべき教訓とは(2)
チャールズさんは、核不拡散と原子力の平和利用のために、国際社会のさらなる協調を訴えた

第二次世界大戦中、アメリカの原爆開発を主導し、「原爆の父」とも呼ばれた科学者、オッペンハイマー氏を描いた映画がアメリカで大ヒットしている。原爆開発と日本への投下、そこから得るべき教訓を、アメリカの当時の関係者やその子孫はどう考えているのか。全4回の2回目は、オッペンハイマー氏の孫であるチャールズ・オッペンハイマーさんへのインタビュー(後編)(ワシントン支局 渡邊翔)

■原爆開発と投下から学ぶべき教訓は

――オッペンハイマー氏のメッセージは、現代ではAIなど、世界を変えるような発明、新しい科学技術と人類がいかに向き合うかという教訓なのかもしれません。我々は、オッペンハイマー氏とマンハッタン計画の歴史から何を学ぶべきでしょうか?

人類は、自身が作った科学への技術的な解決策を持っていません。なので(オッペンハイマー氏と核兵器開発からの)教訓というのは、今も意義があると思います。核分裂の仕組みや、コンピューターやAIの進歩など、こうした科学(技術)をそもそも作らないという決断はできないのです。特定のグループが、科学(技術)の創造を行うべきではない、と決断することは出来ないのです。人類が進化し物事を変えていく中で、それは実現していくものです。解決策は、我々がより共存し、よりお互いが関わり、より協調することによって生まれるのです。もし人類がそのような高いレベルで協調できれば、危険な兵器を開発しても、それを使わず、日々より多くのエネルギーを生み出すことなどに取り組めるでしょう。それが最も望ましいことですし、世界が更につながり、もっといろいろな意味で以前よりも良くなるためには不断の努力が必要だと思います。世界にはあまりにも多くの兵器があり、我々は、皆が核軍拡競争で死んでもおかしくない状態ですが、そうはなっていません。(核兵器は)まだ極めて大きな脅威ですが、我々は、まだそれを使う決断をしていません。協調や結束を高める取り組みは常に続けられなければなりません。我々は、第二次世界大戦のような状況になることは望んでいませんし、それは第三次世界大戦が起きて、人類が全滅することを意味するからです。

■可能であれば日本でも映画の公開を

――映画を通してアメリカや日本、世界の人々に、オッペンハイマーの生涯や核兵器について、人々に何を知ってもらいたいですか?

誰かが我々家族に関する映画を作ったり本を書こうとする時、我々にコントロール出来ることはあまりありません。なので私は、我々自身の取り組みと価値観を話したり、平和と結束が我々の問題の最善の解決策だという祖父の考えを人々に理解してもらおうとしています。それが祖父の助言であり、我々は、核管理についてさらに協調が必要だということです。それは2023年の今も重要です。我々は、核分裂からより多くのエネルギーを生み出すことができますし、敵とみなしている国とも、もっと協調出来るし、そうしなければいけません。現在のアメリカで言うと、それは中国とロシアですが、更なる対立ではなく、平和が必要です。それが必要なメッセージです。なぜなら、それに代わる選択肢というのは、映画の最後のシーンで強調されていますが、原爆が使われ、世界が破滅するというオッペンハイマーが抱いた最悪の恐怖だからです。最後のシーンでは、ミサイルが世界中に向けて発射されましたが、これが負の側面です。そのような結果が起きてはならないのです。

――今まさに、核の脅威が高まっています。日本での映画の公開はまだ決定していませんが、日本でも映画が公開されることを望んでいますか?

映画で批判されている点の1つが、核兵器の影響、広島と長崎について描かれていないということです。ノーラン監督は、非常に意図的にそうしました。当然、私とは何の関係もありませんが、ノーラン監督は、ロバート・オッペンハイマーの見解を通して物事を伝えることを選んだのです。ロバート・オッペンハイマーは広島と長崎を訪れていませんし、純粋に、ロスアラモスで仕事をしている科学者を描いたのです。そして軍の側が長崎と広島に原爆を投下することを決めました。それを映画で見せない決断が批判されていますし、その描写をもっとはっきり見せられたと言う人もいます。日本の方々はこの映画を観ることに敏感になるのは必然ですが、第二次世界大戦に関する全てのことが敏感になり得るとも思います。日本で映画を公開し、人々に映画からメッセージを感じ取ってもらうことは、トータルではプラスになると思います。

もうひとつ、祖父は1960年代に日本を訪れました。日本の科学者や政府関係者らから歓迎され、祖父の戦争当時の役割や義務に対する理解があったと感じています。祖父はまた、日本の科学者や学者らをプリンストン高等研究所に招きました。これは、第二次世界大戦後の日米協調の素晴らしい事例です。

我々は永遠に敵だと言うことも出来ますが、そうではありません。今では、アメリカ人は誰もが日本人のことを好きですし、日本の人々はアメリカとビジネスをしています。これこそが、戦争のような恐ろしいことを乗り越える正しい方法です。この映画を観ることで議論を呼びおこすでしょうが、可能であれば日本でも公開するべきだと思います。

――原爆を日本に投下する必要があったどうかについて、あなた個人はどう考えていますか?

たとえば歴史に関する分析の中には、技術的な手法として、日本の天皇を恩赦する合意が得られれば、それが戦争を終わらせる別の方法になったという分析もあります。しかしそれは、歴史修正主義の一部です。2023年の私が「原爆投下は必要なかった、分かっているんだ」と言うようなものです。一方で当時、実際に原爆投下を決断した人々にとって、それが目に見えて分かることだったとは思いません。投下を決めたのは、軍の指導部や原爆計画の立案者たちでした。私の祖父は、原爆を使うかどうかを決める役割は、全くと言っていいほどありませんでした。「この兵器は絶対に必要ない。我々は、この戦争に勝利するし、戦争は終わる」と断言できるほどの十分な情報はありませんでした。我々は、後から振り返って、全てを定義づけることができます。例えば2002年にグーグルの株を購入していれば、今の私は天才に見えるでしょう。今、原爆投下をするべきではなかったと言うことは出来ますが、当時は恐ろしい戦争の中、それが明確ではなかったのです。

この問題(原爆投下の是非)は複雑です。原爆投下は必要なかったし、そうするべきではなかったと言う歴史家もいます。世界に核兵器の力を見せるために原爆投下をするべきだったと言う人もいます。(当時の状況をふまえた場合に)我々が原爆投下をするべきではなかったと100%明確に言える見解がないのです。振り返っても正確に何をすべきだったか分からない、複雑な問いなのです。我々が知っていることは、もう二度と核兵器を使いたくないということです。それが原爆投下と第二次世界大戦の結果です。我々は、新たな第二次世界大戦を望んでいません。危険過ぎて、第二次世界大戦どころか第三次世界大戦になり、広島と長崎に投下されたよりも数千倍強力な原爆が投下されかねないのです。それが、我々が学ぶべき教訓です。我々は、過去と現実を受け入れ、もう二度と核兵器を使うことがないように教訓を得ることです。それが重要です。

――さらに言えば、核兵器の開発じたい、必要だったのでしょうか?核兵器の開発を避けるような方法が、何かしらあったと思いますか?

核分裂を見れば、それは自然の事実です。つまり自然がこうなった場合、このような結果になるということを、人間がどこまで理解しているかという話なのです。それが科学者がしていることです。非常に基本的なレベルで、科学の話をしているのです。早い段階で、祖父を含めて世界中の一流の科学者は、核分裂連鎖反応がおきれば、そこから爆弾が作れることに気づいていました。残念ながら、1945年当時、トルーマン大統領はこれを誤解していて、秘密に出来ると思ってました。原爆を作って、それを秘密にしていればいいと思っていましたが、それは完全な誤解でした。自然の摂理がそれ(原爆の開発)を許すのなら、別の人であっても、作ることができたのです。最終的に、核分裂からエネルギーと爆弾を作ることは不可避でした。問題は、いつそれが起こるかだったのです。それが私の祖父の役割でした。おそらく祖父なしでは当時、作ることが出来なかったかもしれませんが、いずれは作れたことは間違いありません。ドイツのナチス政権や、スターリン率いるソ連が作れていたかもしれませんし、もっと最悪の結果が生じていたかもしれません。いずれにしても、これが我々の結果です。祖父は、「科学の奥深さが作られるのは人類がそれを望んでいるからではなく、それを見つけることが可能だからだ」と言っていました。科学の前に、隠し立てはできないのです。

■アメリカや中国、ロシアの協議の中心に日本が立って欲しい

――最後に日本人へメッセージがあれば、お願いします。

核分裂とエネルギーについて、我々は過去に、第二次世界大戦でトラウマ、死、破壊を経験しました。いま、我々は将来、世界の問題解決のために同じ種類のエネルギーを使う可能性があります。核分裂のエネルギー、原子力エネルギーを含めてです。我々が世界を結束させ、兵器や戦争についてではなく、世界がいかに協調できるかを話し合う中で、日本は重要な役割を担っています。中国やアメリカ、ロシアの協議の中心に日本が立つ、これ以上に良いことはありません。我々は、より良い未来のために協調すべきです。それが私の願いです。