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ウクライナと台湾…バイデン氏中露二正面か

2022年1月2日 17:01

「再び世界の灯台になる」大統領が就任式で語ってから1年。アメリカ自身の羅針盤が狂い始めている。コロナ死者80万人超、インフレで苦境が続く。「民主主義を取り戻す」航海で、バイデン号は視界不良に。その霧は濃くはなれど、晴れることはなさそうだ。
(NNNワシントン支局長 矢岡亮一郎)

■コロナ・物価高…支持急落で焦るバイデン氏

「バイデン政権は想像を超えるスピード感だ」。ワシントンの外交筋は語る。2022年最大のイベント、11月の中間選挙での勝利に向け、大統領は成果を急いでいる。

その「焦り」が露呈したのが、21年8月末のアフガニスタンからの撤退だった。山岳地帯が多いアフガンでは冬場、タリバンの動きは鈍る。にもかかわらず「夏の撤退」を決断したのは、同時多発テロから20年という節目を意識した「政治的動機」だった。しかし、撤退間際のカブール陥落、そして13人の若き米兵が犠牲になる「追い打ち」に国民は激しく動揺した。アフガン撤退を境にバイデン大統領の支持は急落、不支持が逆転した。

そして国民の「政治不信」の根源は、バイデン政権の新型コロナウイルス対策に他ならない。年の瀬、コロナ死者数は80万人を超えた。21年の死者数は、トランプ政権下の20年を上回る。バイデン大統領は夏の独立記念日に「ウイルスからの独立は近い」と宣言、ワシントンの夜空を彩った希望の花火を、人々はマスクを外して見上げた。「期待を裏切った落胆」は激しい。


■ウクライナ侵攻あるか…ホワイトハウス内は「ナーバス」に

濃霧の中の航海を続けるバイデン号。内政のみならず、外交でも荒波にもまれそうだ。

「年明け早々にもロシア軍が17万5000人規模でウクライナに軍事侵攻か」。ワシントン・ポスト紙がスクープしたロシアの暴挙への懸念が強まる中、バイデン大統領は、米軍単独での派遣を「検討のテーブルにない」と即座に否定した。ただ政権関係者は「ホワイトハウスはかなりナーバスになっている」と話す。

外交筋の間では「バイデン政権のロシアへの出方を、習近平氏はじっと分析している」との見方も出ている。「ウクライナと台湾」を重ね合わせ、シミュレーションの参考にしているというわけだ。

ジョンズ・ホプキンス大学のケント・カルダー教授は「バイデン政権に“ウクライナと台湾”に同時に対応する余裕はない。しかし、2つの問題に直面することになる」と22年のバイデン外交を展望する。


■ウクライナと台湾…バイデン氏避けたい中露「二正面」

バイデン政権にとって、アフガン撤退は「中国との競争に集中するため」(サリバン補佐官)だった。しかし「アメリカが中国だけに集中することは難しい」との見方も日増しに強まっている。「ウクライナでの対応を誤れば、アメリカの国際的信用は失墜する」との声さえ上がる。

一方で、NATOに加盟していないウクライナにアメリカの防衛義務はなく、そもそも台湾との単純比較もできない。ただ、中国・ロシアがお互い呼応するかのように台湾・ウクライナへの軍事圧力を強めていることで、バイデン政権は中露「二正面」を迫られつつある。

果たしてウクライナ侵攻のタイミングはいつなのか。かつてロシアは08年、北京夏季五輪の最中にグルジアに侵攻した。一方で14年のクリミア侵攻は、ソチ五輪の閉幕直後だった。今回は“盟友”中国に配慮して、北京冬季五輪の期間は外すのか。バイデン氏は、年の瀬のプーチン氏との電話会談に続き、年明けも外交を通じた侵攻回避を模索することになる。


■2022年、米中関係どうなる?

米中両国は秋に中間選挙、5年に一度の党大会と大イベントを控える。専門家の間では「米中ともに関係を安定させたいフェーズだ」との見方で一致する。

アメリカン・エンタープライズ研究所のザック・クーパー上席研究員は「秋までは協力姿勢が続く可能性がある。軍事行動は起こしにくい状況だ」と語る。一方でカルダー教授は「米中は対立を避けたいだろうが、習主席は党大会に向け『強さ』を誇示しなければならない」とも指摘する。「台湾にすぐに軍事侵攻することは考えにくいが、北京五輪が終わった3月以降、圧力が強まる可能性もある」と懸念を示した。

台湾をめぐる懸念は、軍事的圧力だけではない。孫子の兵法通り「戦わずして勝った」香港の先例もある。台湾にはワクチンなどで露呈した“脆弱性”もみられる。「中国に付け入る隙はいくらでもある」(外交筋)状況だ。


■バイデン大統領訪日…第2回クアッド首脳会合開催へ

中国に向けては「波風を立てない」とみられるバイデン政権だが、インド太平洋での同盟強化は、着実に前に進める。春にもバイデン大統領の日本訪問を実現させ、日米豪印クアッド首脳会合を開きたい考えだ。またASEAN首脳をワシントンに招く計画も進む。米中の「草刈り場」になりつつある東南アジア各国への働きかけにも一層力を注ぐ。

一方で、バイデン大統領が100以上の国・地域を招いてオンラインで主催した「民主主義サミット」は22年、対面開催を目指す。「招待国の線引き」の曖昧さに「次はどの国が呼ばれるのか、参加するのか」疑心暗鬼も生んでいる。「アメリカに付き合わされて」「やめれば良いものを」と白けたムードも漂う。「理想の民主主義」という灯台を目指すバイデン号に、どれだけの国が伴走するのか、距離を置くのか、危うい航海が続く。


■トランプ氏「影の主役」か…11月にバイデン政権“中間評価”

11月の中間選挙では、バイデン政権のコロナ・経済対策への審判が下る。24年の大統領選出馬を目論むトランプ前大統領が「影の主役」となる可能性もある。自身の応援で候補者が勝てば存在感を高め、負ければカリスマ性にケチがつく。どの候補を応援するのが「得なのか」、踏み絵を踏ませながら慎重に見極めていくものとみられる。選挙結果次第では、バイデン大統領のレームダック化が始まり、いよいよ船も沈み始めることになる。