フィリピン、領有権を争う島に暮らす人々
中国やフィリピン、ベトナムなどが領有権をめぐり争っている南シナ海の島々。NNNのカメラは、その島々で暮らす人々の姿を独占取材した。
大小700もの島々が散らばる南シナ海の南沙諸島。豊かな漁場であり、また石油などの天然資源があるとみられることから、中国やフィリピン、ベトナムなどが領有権を主張し、争っている。NNNは特別な許可により、海軍の補給船に同乗し、フィリピンが実効支配する島々を撮影する機会を得ることができた。
出港から3日目、大海原にぽつんと居住施設がある、なんとも奇妙な風景に出くわした。サンゴ礁の実効支配のために、ここで兵士が暮らしているという。一面に広がる美しい光景、まさに絶海の中にあるといった雰囲気だ。魚が干してあるところを見ると、自給していることもうかがえる。
兵士の任期は約3か月。その間、本土の家族との会話は、衛星携帯電話を使って週に1回、数分間が許可されているだけという。駐留部隊の隊長は、「魚を捕ったり、見回りしたりで忙しいよ」「でも、家族は恋しいね」と、話す。
取材班が、次に向かったのはラワック島。遠目には海上に浮かぶ平べったい小島だったが、島から聞こえてきたのは「ギャーギャー」という、ものすごい数の海鳥の鳴き声。うるさくて人の話し声も聞こえないほどだ。足元の草むらには無造作に海鳥の卵が落ちており、その近くには軍の居住施設がある。何千、ひょっとしたら何万にも達すると思われる数の海鳥。耳をつんざくような鳴き声は1日中止むことはないという。こんな環境でも兵士たちはしたたかに生き抜いている。落ちていた海鳥の卵も、食料として活用されていた。
この島で真夜中に、神秘的な光景に出会うことができた。ウミガメの産卵だ。きれいな砂浜が広がるこの地域の島々では、しばしば産卵のため上陸するウミガメの姿が見られるという。美しい自然がありのままの姿で残る南シナ海。しかし中には、「領土問題の最前線」であることを改めて思い起こさせる島もある。
フィリピンが実効支配しているパローラ島。その目と鼻の先には、ベトナムが実効支配している島がある。軍事施設化が進んでおり、灯台や電波塔などの施設も確認できる。島の周辺にはベトナムの漁船などもよく姿を現すという。駐留部隊の隊長によれば、漁業は許可しているが、島には上陸させないようにしているという。
兵士以外の一般市民が住んでいる島もある。本土から約400キロ離れたパグアサ島だ。100人あまりの市民が暮らしているが、ほとんどは公務員か建設労働者。実効支配を強化するためのいわば“政策移民”なのだ。本土で仕事がなく、生活できないため、公費で給料や食料が保障されたこの島に移住した人も多いという。島では、太陽光パネルによる発電施設や子供たちの通う学校など、住民生活のための施設整備が少しずつ進んでいる。町長は、豊かな自然を生かし、漁業と観光をベースにした町の発展を考えているという。
各国の領有権主張が入り乱れる南沙諸島。美しい海に観光客の歓声が響く日はやってくるのだろうか。