ゼレンスキー大統領の巧みなSNS戦略と『情報攻防戦』の最前線
3月23日、憲政史上初、国会での国家元首によるオンライン演説を行ったウクライナのゼレンスキー大統領。ウクライナの現状を訴えながら、その国の歴史や社会背景を交える巧みな演説手法が注目されています。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を巡っては、真偽様々な情報が飛び交う情報戦の一面も。"SNS"が現代の戦争においてどのような"武器"となっているのか。3月23日のBS日テレ『深層NEWS』では神戸学院大学教授で、ウクライナ研究会会長の岡部芳彦さん、日本国際問題研究所研究員の桒原響子さんをゲストに、ウクライナへの軍事侵攻『情報攻防戦』の最前線に迫りました。
■ゼレンスキー大統領の"現代の戦争"の戦い方とは
笹崎里菜アナウンサー
「ゼレンスキー大統領が、政治経験がなくとも大統領に選ばれた背景は?」
神戸学院大学教授・岡部芳彦氏
「ウクライナは汚職がひどい時期があり、特に官僚や政治家の汚職というのが多く見られた。その中で『政治経験がない=癒着がない』ということで評価をされることが非常に多いのです」
「もう一つは、(ゼレンスキー大統領は)制作会社の社長、脚本家、劇団の座長、そのメイン俳優でもあるっていうことで、非常にマルチな才能を発揮しているので、その点でも組織を動かすという意味では十分な経験があったと言えるのではないでしょうか」
右松健太キャスター
「ゼレンスキー大統領が、今、戦時下の英雄ともてはやされている一面も。ゼレンスキー氏のパフォーマンスやメッセージを伝える能力への評価は?」
日本国際問題研究所研究員・桒原響子氏
「(ゼレンスキー大統領が)まさに"大化け"をしたというところで、これをプーチン大統領は大きく見誤っていた、つまり過小評価をしていたと思います」
「コメディー俳優出身の新米大統領がリーダーとしての十分な役割を発揮できるわけがないだろうと。もっとウクライナ侵略を素早く終わらせるはずだったのに、いざ侵攻開始をしてみると、力強く国民を鼓舞して、また偽情報には自らの力で打ち消して正しい情報発信をして、国際社会との連携、結束を呼びかける」
「それに対してウクライナ国民のみならず、国際社会も反応をして今では"反プーチン""ウクライナ支持"という世界的なうねりのようなものが出来上がっています」
「それもこれもあらゆる要因があると思うのですが、大きくはやはりゼレンスキー大統領のメッセージ戦略。SNSを使った"現代の戦争の戦い方"なのではないかと思います」
右松キャスター
「2月24日に軍事侵攻が始まって、その直後にロシアが『ゼレンスキー大統領はもう逃げた』というような偽情報を流した。それに対してすぐに最初の反撃として『わたしはここにいる』というメッセージをSNSで発信した」
岡部氏
「首都に残るという決断をメッセージとして配信できたこと。そしてウクライナは"東ヨーロッパのシリコンバレー"と言われるようにIT大国であるが故に、情報がネットなどに伝わりやすかったことが組み合わさって、やはり今のウクライナを支えていると感じています」
■Tシャツ姿に無精ひげのワケ
右松キャスター
「Tシャツ姿で無精ひげを生やしたまま。戦時下のリーダー像という演出として見た方がいい?」
桒原氏
「そうですね。演出効果の一つと見てもいいのではないかと思います。着飾らずに自身の現在のありのままの姿で国民に訴えかけることで、より親近感を湧かせることができます」
「『私はここに残って戦う、みんなも一緒に戦ってほしい』と配信したその時、あわせてゼレンスキー大統領が言っているのが、『自分はおそらくロシアの殺人者リストの一番上にいるのだろうけれども、絶対に逃げない』ということを、自らディスインフォメーションを柔軟に即座に打ち消したということが大きかった。イメージ的にも決して着飾らないというメッセージがこのTシャツ姿にも込められているのではないかと思います」
■SNSで感情に訴える戦時下の世論作りとは
右松キャスター
「身近なSNSで巧みに発信することはポピュリスティックになりやすい側面もあると思う。感情に訴えかけやすい。これが一つの現代の戦争の風景なのかもしれないと見たときに、どのような観点から見ていくべき?」
桒原氏
「(SNSは)ウクライナ国民の世論作りのみならず、世界の世論作りに大きな影響を与えただろうと思います」
「ゼレンスキー大統領のSNSでの呼びかけによって国民の士気が非常に高まり、支持率が2021年末から3か月程度で、3倍に跳ね上がったということがあり、戦時下に力強いリーダーシップで、しかも彼こそが英雄なのだというような声も高まっています」
「また国際社会を見渡してみると、プーチン大統領に対してかねてからポジティブな発言をしていた、例えばFOXニュースのキャスターのタッカー・カールソンやトランプ前大統領もアメリカでは『プーチンの崇拝者』なんていう言い方をされていましたが、彼らの当初のプーチンに対する賞賛をのちには撤回をするといった現象が起きています」
「それはやはりSNSが『ウクライナ支持、反プーチン』という世界的なうねりを作り出していて、逆のことを言いづらい状況を作り出したというような見方ができると思います」
■ウクライナの情報攻防戦の裏にアメリカ
読売新聞飯塚恵子編集委員
「情報戦というのは一般的に2種類あると思います。一つは、中長期戦の世論工作。これは主に最近はSNSが舞台になっています。様々な偽情報を流して人々にその混乱や事実誤認、不信感、不安感を生むというものです」
「先日もゼレンスキー大統領が『撃ち方やめ』というふうに言っているディープフェイクと言われる偽情報が流れました。すぐにゼレンスキー氏が反論し、『そんなこと言ってない』と否定しました。最近ではウクライナが化学兵器を作っているという情報もウクライナや国際社会を混乱させる手口です」
「もう一つは、瞬間的なハッキング。社会機能を破壊するものです。メールやデータなどを壊して、社会インフラや金融システムを動かなくさせる。ロシアはこの2つを組み合わせ複雑に混ぜながらウクライナ攻撃をしているのです」
「一つだけ、この情報戦で大きな変化があるのが、アメリカが今回はウクライナの背後にいることです。様々な軍事情報などを先に公開しロシアが繰り出してくる世論操作的な偽情報の先手を打って混乱を最小限に食いとめているのです。ウクライナは情報戦という意味ではアメリカの支援を受けて更にパワーアップしているというふうに言えると思います」
右松キャスター
「ゼレンスキー大統領の情報発信という武器を手にして行っていく戦略のどこに注目?」
岡部氏
「各国の議会で演説をしながら、共感を得ているので、これは続けていくのだと思いますが、一方で情報発信をしつつも、やはり今は戦争ですので、実際にこの戦争を終わらせないといけない」
「大統領として戦争指導をし、外交、あるいは停戦交渉も絡めながら、戦争を終わりに近づけていくというのが彼の今のプライオリティーとしてやらなければいけないことだと思います」
桒原氏
「これからもゼレンスキー大統領は最も効果的なメッセージの発信手法を用いながら自分の国の国民の結束を固めつつ、また国際社会の結束・連携を継続強化させていくと考えます」
「もう一つ重要なのがロシアからのディスインフォメーション(=偽情報)の脅威です。国民を疑心暗鬼にさせるだけではなく、社会を分断してしまうほどの危険がある大きな脅威です。その脅威に立ち向かうためにディスインフォメーションの対抗策として自らの即時の情報発信。そして、国際社会との協力の呼びかけによって、ディスインフォメーションを抑止していくということに期待したいと思います」
「また日本はこの点での対策がなかなか進んでいないので、ゼレンスキー氏の手腕から学ぶべきところが多くあると思います」
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