“中絶の是非”巡り全米を二分する「論争」に… 容認派と反対派の対立激化
女性が人工妊娠中絶を選択する権利をめぐって、アメリカでは今、容認派と反対派の対立が激化しています。全米を二分する論争、その「最前線」となっている町を取材しました。
◇
14日、アメリカ南部・ミシシッピ州ジャクソン。
中絶反対派
「子供を抱きしめるんだ。殺しちゃいけない」
中絶容認派
「空想の友達と話してるのか? 誰もお前には聞いてないぞ」
中絶反対派
「考え直すんだ。間違った行為だとわかっているはず」
大音量の音楽が響く中、人々が大声をあげる異様な光景が見られました。黒い幕で覆われたフェンスの奥にある人工妊娠中絶を行うクリニックの前です。
人口約300万人のミシシッピ州で、このクリニックが唯一、中絶措置を受けられる場所です。入り口では、カラフルなビブスをつけた「中絶容認派」のボランティアたちが、訪れる女性の誘導や警備を行っています。
記者
「今、クリニックの前に続々と中絶反対派の人たちが集まってきました」
診察日には必ずやってくる、「中絶反対派」の人たちです。中絶容認派は大声をあげたり、大音量の音楽を流したりすることで反対派の声をかき消そうとしますが――
中絶反対派
「子供の人生を考えないのか? その子が死ぬに値する何かをしたか?」
中絶をめぐる対立は、別の場所でも行われていました。
「自分の体のことは、自分で決める!」
15日、ミシシッピ州ジャクソンで、女性たちによる中絶の権利を求めるデモの最中――
中絶反対派
「赤ちゃん殺しだ」
中絶容認派
「自分の体のことは、自分で決める」
デモ隊がいた向かいのビルから、中絶反対派の罵声が飛び、道路を挟んで、デモ隊と中絶反対派との言い合いになりました。
今、アメリカでは、中絶の是非をめぐる対立が激化しているのです。
そのきっかけは、中絶の権利を認める根拠となる1973年の最高裁判決を、過半数の最高裁判事が覆そうとしていることです。ガットマッハ―研究所によると、判断が覆れば、約半数の州で中絶が禁止、または厳しく規制される可能性があるとの指摘も出ています。
この最高裁の動きに対し、全米各地で抗議デモが発生。さらに、アリアナ・グランデやビリー・アイリッシュなど、約160人のアーティストや俳優が、中絶の権利を訴える広告に賛同の署名を寄せました。
バイデン大統領も、「もし、最高裁が実際にこの判断をすれば、かなり過激な決定になる」と危惧しています。
◇
「中絶が認められない」とは、どういうことなのか。私たちは、かつて規制によって中絶を断念した女性に話を聞きました。
規制によって中絶を断念 アマンダさん(34)
「望まぬ妊娠でした。交際相手から暴力を受けて、この州に逃げてきたんです」
以前、別の州で中絶を経験したアマンダさん。逃げた先のミシシッピ州でも簡単に中絶ができると思っていました。しかし――
アマンダさん(34)
「この州で中絶するための法律面などでのハードルの高さを分かっていませんでした。必要な手続きが全てわかった時には、中絶ができる期限を過ぎてしまっていました」
アマンダさんは生活支援を受けるなど経済的にも苦しく、他の州の病院にも行けず、出産せざるを得なかったといいます。
現在は、その時生まれた子供を含め、3人の男の母親ですが、当時の経験から、女性が出産するかどうかを自分で選ぶ重要性を強調しました。
アマンダさん(34)
「私は中絶をし、子育てもしました。選択肢を持つことが大切なんです。親になることは、大きな責任を伴うのですから」
アメリカを二分する、中絶の是非をめぐる論争。最高裁は、早ければ来月にも、最終的な判断を示す見通しです。