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「パーティーゲート」疑惑 英ジョンソン首相のワケ

2022年2月15日 14:49
「パーティーゲート」疑惑 英ジョンソン首相のワケ
2022年2月10日「深層NEWS」より

新型コロナのロックダウン中に首相官邸などで繰り返しパーティーが開かれていた問題で、イギリスのジョンソン首相が謝罪。さらに側近が相次いで辞任。2022年2月10日放送の『深層NEWS』ではイギリス政治に詳しい慶応大学准教授の鶴岡路人(つるおか・みちと)さん、イギリス在住のジャーナリスト小林恭子(こばやし・ぎんこ)さんをゲストに「パーティーゲート」疑惑の問題点やジョンソン首相がこの窮地をどう乗り越えるのかを議論しました。

■英国民が怒る「パーティーゲート」疑惑とは

右松健太キャスター
「去年12月のミラー紙をきっかけに一気に『パーティーゲート』が報じられてきた。連日の報道によって国民感情はどのように変化?」

小林恭子氏
「最初の頃は1回ぐらいということで、政治家がロックダウンの規則を無視して集まっているということもありましたが、去年からずっと続いてますので国民の怒りがかなり高まっている感じです。自分たちに規則を守りなさいと言っておいて自分たちは守っていなかった。二重基準ですよね」

右松キャスター
「イギリスの警察もコロナ対策の規制に違反した疑いで捜査を開始している」

鶴岡路人氏
「ロックダウン自体が法律に基づくものなので、ロックダウンの規則に反すると犯罪ということになるわけです。ただ犯罪といっても、基本的には罰金なんです」
「ただこの問題は、一般市民とは違って首相が、しかも官邸でパーティーをやって罰金払って政治的責任に終わりですかと。まさにここが問われるんだと思います」

■「英官邸で飲み過ぎ!?」

右松キャスター
「英政府は先月、内部調査の報告書を公表。報告書では首相官邸などで10件以上のパーティーが開かれたとしている。この全てにジョンソン首相が参加していたかは明らかになっていないが、官邸ではそもそもパーティーは常態化していたのか?」

鶴岡氏
「イギリスの会社や組織って、意外とオフィスでパーティーをやるんですよね。特にクリスマスパーティーみたいなのは、会社の施設や会議室を使って、みんなでサンタの帽子かぶったりして。ですからその意味では別に首相官邸が平時であれば、別に社会的には特に問題ではないわけですが、ロックダウン中だったということです」
「報告書ではアルコールの消費が多すぎたっていう話をしてるんです。職場でアルコール飲んだのはけしからんという話ではなくて、飲み過ぎがいかんと」
「プロフェッショナルな場にあるべき職場で、アルコールの消費についての明確なルールをしっかり作った方が良いというような話をしているのです」

飯塚恵子 読売新聞編集委員
「(首相官邸の)ここに中庭があり問題の飲酒やパーティーは(赤印)のテラスみたいな場所で行われていたのではと」
「(周辺に)高いビルがあって、ここ狙おうと思うと結構写真撮れるんですよね」

「報告書では非常に怒ってますね。国民全員がコロナで打撃を受けて、みんな我慢してるときにこんなパーティーも絶対正当化できないっていうことを言っています。そしてこういう会合がそもそもコロナ対策で穴を作り、これが世の中にどう見えるかということは、このリーダーの人たちにその思慮がほとんどないと。首相官邸にリーダーシップと判断の欠如があったと」
「やはりコロナは全人類の敵なのだから、みんなで頑張るっていうところが大前提なわけです。そこで選ばれた一定の特殊な人たちが飲酒をしたことに対しては日本でもイギリスでも、怒りは溜まる。政治不信がこの問題の本質だと思います」

■ジョンソン首相はどんなキャラ?

右松キャスター
「ジョンソン首相は一昨年の3月に新型コロナウイルスに感染して一時、集中治療室に。そして4月下旬に退院。気が緩むのが早いというのが国民の怒りに?」

鶴岡氏
「そうだと思います。ただ他方で、なんとなくハチャメチャな行動をするというところを売りにのし上がってきた政治家でもあるんです。アウトロー的な、人が思わないようなことをやるような」

小林氏
「彼(ジョンソン首相)はすごく冗談ばっかり言う人なんです。非常に人に接するのが上手ですね。高いところからモノを話すのではなくて、自分に話しかけてくれる友達みたいな。ただ真面目でいう感じではないんですよね。テリーザ・メイ前首相のような感じではない」
「国民にとっては面白いことを言ってくれる豪快な感じの首相というイメージでずっとやってきたんです」

■高まる辞任を求める声

右松キャスター
「そんなジョンソン首相ですが、イギリスの調査会社(オピニウム)が成人およそ1000人に調査したところ、62%がジョンソン氏の辞任を望んでいて、83%がジョンソン氏が規則に違反したと考えている」

鶴岡氏
「閉塞感が大きいと思うんですね。実際に経済も他の国に比べて特に悪いわけではないですがやはりコロナの影響を相当受けている」
「なんとなく今まではブレグジットの悪影響というのが、コロナによって隠されてきた。いずれにしても経済はあまり良くないというところが政権に対する意見として反映されている」

「もう一つは最大野党の労働党。スターマー党首のパフォーマンスが最近議会などで特にいいんです。ジョンソン首相を攻撃して追い詰めていくことで労働党の支持率が上がってきている」
「労働党というまともな選択肢が出てきたが故に、人々は安心してジョンソン首相に不信任や辞任というようなことが言えるようになったという背景もあるのだと思います」

■首相側近が相次ぎ辞任する事態

ジョンソン首相の側近は2月3日から4日にかけて5人が辞任しています。
このうち3人は、パーティー問題への関与が指摘されていました。注目は、10年以上にわたりジョンソン氏を支えた最側近で、政策担当補佐官だったムニラ・ミルザ氏です。ジョンソン首相は先月31日の議会で、野党・労働党の党首が検察庁長官時代に、死後に性犯罪が明らかになったテレビ司会者を起訴しなかったなどと発言していました。これを受けミルザ氏は、首相が野党党首を「不当に中傷した」と非難して辞任したものです。

後藤晴菜アナ
「ミルザ氏はジョンソン政権にとってどのような人物?」

鶴岡氏
「ジョンソン首相がロンドン市長の頃からの側近です。これは大きなダメージだと思います。しかもパーティーゲートが理由ではなくジョンソン首相の発言。"嘘"だったものを撤回して謝らないことを批判して辞めると」
「ジョンソン首相の(パーティーゲート)問題のハンドリング、あるいは他の問題に関する立場を批判して辞めるってことになると、ダメージが大きくなるのだと思います」

■ジョンソン首相不信任の行方

今月2日 、保守党の3人の議員が首相への不信任を表明する書簡を保守党の党首選を実施する権限をもつ「1922年委員会」に提出したということです。
書簡が54人分集まると党内で不信任投票が行われます。保守党の規則では、党所属下院議員360人の過半数が賛同すれば、ジョンソン氏の解任が可能です。

後藤アナ
「今後、どれほどの議員がジョンソン首相の不信任に追随すると考えられる?」

鶴岡氏
「まだわからないですが、54人集めないといけないわけで、まだあと40人ぐらい必要だということで、これはあまり簡単ではないと思います」
「ただ今回の特徴的なのは、まだ党内の有力な後継候補が出てきてないということです」
「"ポストジョンソン"としてはトラス外務大臣などいろいろ名前が挙がってますが、今のところ閣内のポストジョンソン候補は何もこの問題に対しては強い発言をしていない。やはりまだ見極めているのだと」

右松キャスター
「ジョンソン政権は新型コロナ対策で規制緩和をしている。これを政権浮揚の一つに利用する?」

小林氏
「2月末あたりにコロナの規制を全部解除すると。これ3月末までの予定だったのを1ヶ月前倒しにすると発表していまして、いまけっこう論争が起きています」
「まさに自分の人気をもう一度回復させるように、また保守党の中にもっと規制解除を早くするべきだっていう声を踏まえることによって、保守党の議員の支持を得るという色々な意味での政治的な目的で宣言したことは明らかだと」

鶴岡氏
「コロナの規制を撤廃して経済復活に舵を切るのは、経済界は少なくともコンセンサスを得られると思います。結果として本当に経済が良くなるんであれば支持率的にもついてくると」
「ただ、やはり今問題のウクライナ情勢などがある中で保守党は内輪もめをしていて本当にいいんですかと。国民に対して、国際社会に対してどう映るかというのはしっかり考えなければいけない局面だと思います」

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