「豪腕」駐日米大使エマニュエル氏とは
アメリカの新たな駐日大使としてラーム・エマニュエル氏が来日。
2月3日の「深層NEWS」では、元外務審議官で、日本総研 国際戦略研究所 理事長の田中均氏、笹川平和財団 上席研究員の渡部恒雄氏をゲストに、「豪腕」とも評されるエマニュエル駐日大使の手腕を徹底分析。
そして知られざる歴代駐日大使の秘話も。
■「国内政治のプロ」のエマニュエル氏
右松健太キャスター
「エマニュエル駐日大使の経歴をどう見る?」
田中均氏
「この経歴を見る限り、"国内政治のプロ"という感じです。大統領首席補佐官は国内政治の取りまとめ役、(日本の)官房長官みたいなもの。シカゴ市長もそうですし。(一方)外交分野については未知数だと思います」
「国内政治のプロとして評判は、空気を読むのが非常に上手だと。そして物事を取りまとめて、大統領の手柄にしていく、そういう意味で国内政治のプロという感じですね」
右松キャスター
「駐日アメリカ大使に必要とされる資質とは?」
渡部恒雄氏
「渡辺将人氏(北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授)によると、"四つの資質"と。
一つ目は大統領に近いこと。二つ目は、党や議会に影響力があること。三つ目はビジネス界に影響力があること。四つ目が日本のことをよく知ってること。
(エマニュエル氏には)四番目以外は全部あるということです」
「エマニュエルさんは民主党でファンドレイザーとして産業界からお金を集めてきたキャリアで非常に上に行っている。四つ目だけ外交官の経験がない、日本の経験はないということだと思います」
田中氏
「日本から駐日米国大使に何を望むかという観点から見ますと、外務省にいたときに常にそうだったんですが、"日本を助けてくれる人"」
「問題がない時はいいのですが、難しい問題、例えば沖縄問題や、アジアや中国との関係などというときに、エマニュエル大使はバイデン大統領に近い。従って(大統領との)アクセスがある。議会との関係もあるので、日本の(立場の)難しさ、日本が抱えている問題についてきちんと本国にコミュニケートしてくれるということを我々は望んでるわけです。日本の持っている問題をよく理解してほしいという気がします」
■大使における「知日」とは
右松キャスター
「エマニュエル氏"国内政治のプロ"と。一方、知日派ではないのではと」
渡部氏
「必ずしも知日派だけが来ていたわけではない。例えばキャロライン・ケネディ大使は知日派ではなかった。しかし日本に来て、日本のことをきちんと理解した大使だと思います」
「むしろ日本に来てから理解が早いというか、政治の構造がわかり、日本の国益とアメリカの国益がどういうふうに一致しているかというのをよく理解しているということが期待される」
右松キャスター
「日米が連携強化をしなければならない点でバイデン氏と良好な関係のエマニュエル氏は適任?」
渡部氏
「そうですね。大統領との信頼関係があるというのが何より良いわけで、しかもそれ以上に、今、米議会は、民主党共和党で二つに割れている」
「ところが公聴会では前駐日大使のハガティ(共和党上院議員)氏がちゃんとエマニュエル氏を紹介して最後、賛成票を入れています」
「エマニュエル氏は議会の経験がありますから、議会とのアクセスもあるし、超党派的なもともと中道ですから、非常に幅の広い人だと思いますね」
右松氏
「日本とアメリカは信頼関係と、ときには適度の緊張関係も当然必要だと思う。日米関係でやや立場の違う懸案事項があったときに、エマニュエル氏はどのように立ち回ると分析?」
田中氏
「そこが一番大事だと思うんです。利益というのはもちろん同盟国だから、基本的なところは一致するんですけれども、全てにおいて一致しているわけではない。例えば、日米の貿易交渉なんてやっていますと、激しいわけですよ」
「それから、例えば湾岸危機の時に、当時の駐日大使であったマイケル・アマコストという人は、やっぱり日本に厳しい圧力をかけたわけです」
「(日米間の)違いがあるときに大使がアメリカの尖兵として激しい議論をし行動するのか、それとも日本のことをある程度理解をして、『日本の目的もやはりアメリカも理解しなきゃいかんじゃないか』と、そういう働きかけをしてくれるかどうかということによって、やっぱり日米の摩擦っていうのは大きくなったり小さくなったりすると思うんです」
田中氏
「これからの日米関係にとって一番大事なところは、対中関係をどういうふうにしていくかということだと思います」
「日本はアメリカに安全保障を依存しているから、安全保障面については日米の同盟関係強化する、すなわち日本の防衛力を向上させていくということが基本なのだけど、日本は大きく中国のマーケットに依存してるわけです」
「これから例えば経済安全保障ということで、中国との経済関係を規制していかなければいけないというときに、そこに日本とアメリカのインタレストが違ってくる可能性がある。そういうときに、実は同盟国って言っても内部では激しいやりとりするんですよ、外には出ませんけど。そういうときに大使が果たす役割が実は大きいんですね」
■田中均氏が語る駐日大使秘話
右松キャスター
「歴代の駐日大使で印象に残っている方は?」
田中氏
「2人のお話をさせていただきたいんですが、1人がウォルター・モンデール大使。もう1人はハワード・ベーカー大使です」
「モンデール氏について、1996年に普天間返還の合意を作ったときに、まさに(当時の)橋本首相とモンデール大使の間で発表した。
そのとき私は、北米局の審議官で、カウンターパートであるカート・キャンベル氏と中身は全部詰めていたんですが、やっぱりこういうことというのは総理大臣が発表しなきゃいけないです」
「総理大臣のカウンターパート足りうる人はアメリカ大統領なんだけれども、大統領は来なかったわけで、それを代わりするのは大使です。駐日米大使との間で発表してもらうことによって非常に重きをなした」
「モンデールさんはずっと我々がやってることをよく見ていただいていた。普天間返還だけではなくて、その他沖縄の問題について、最もモンデールさんが良く理解しようとしてくれた。ものすごく助けてもらった」
田中氏
「それからもう1人はハワード・ベーカーさん。私達が小泉首相の訪朝というのをやっていた時、アメリカがものすごく反対したんです」
「特にラムズフェルド国防長官とか、ネオコンと言われた人たちです。チェイニー副大統領とか。そのときにやはりベーカーさんが日本のことをよく理解していた。『(日本には)拉致問題があると。したがって、小泉さんが北朝鮮に行くということは必要なことなんだ』ということを、ずっと私達がやっている交渉を彼は全部知っていた」
「それで、まさに彼が、ブッシュ大統領との間で『日本の言うことは聞く必要があるよ』という仲立ちをしてくれたんですよね。ですから、アメリカの副大統領以下、閣僚が反対してるときに、べーカーさんは日本の考え方をよく理解して、ブッシュ大統領との間でね、仲立ちをしてくれたということで、そういうことって当時一切外には出てないです」
田中氏
「ハワード・ベーカーさんについてもう一つ。(北朝鮮による拉致被害者)曽我ひとみさんのご主人でジェンキンスさんはアメリカの脱走兵だったのです。(注)」
(注:チャールズ・ジェンキンス氏・・・アメリカ軍の兵士として韓国に駐留していた際に脱走し北朝鮮に渡る)
「脱走兵だから、裁判を受けて、相当長い懲役にしなきゃいけない(と言われた)」
「で、この人なんですよね。ベーカーさん、俺に任せろって言ってくれた」
「一旦、ジェンキンスさんは軍服を着て、出頭し、アメリカで裁判を受け、それがものすごく軽微な1ヶ月の禁錮刑に処されてそれでディスチャージ(解放)された。そして日本に来て曽我ひとみさんと一緒に暮らすことになった。全部この人が取り仕切ってくれた」
「そういうことも世の中には広く知られてないけれども、やっぱり私達は駐日米大使がやった功績っていうのは、大きいと思いますよ」
■駐日米大使の心に残る「後悔」
渡部氏
「私はトーマス・フォーリー大使」
「駐日大使の任期が終わりワシントンの日本大使館でお会いした時、フォーリーさんに『お疲れ様でした』という話をして、『(日本は)どうでした?』みたいな話をしたときにまず開口一番、『いや、一つ後悔があって。それは私が任期中に日本の高校生の命を奪ってしまったことだ』と言っていた。これはえひめ丸事件。(注)」
(注:えひめ丸衝突事故・・・2001年愛媛県立宇和島水産高校(宇和島市)の実習船「えひめ丸」がハワイ沖で米原子力潜水艦に衝突され沈没し、実習生ら9人が死亡した事故)
「フォーリー大使と軍の責任者が頭を非常に低く下げて」
「お詫びは練習したって話もあるぐらいなんですけど、ただパフォーマンスだけじゃなくてフォーリーさんは、任期が終わってからも、『あれだけが心残りだ』って本当に思ってくれていた。それは、別にみなに言ったわけではなくて私に個人的な話として言った」
「もちろん私は尊敬していますし、アメリカ人もフォーリーさんを政治家として尊敬してますけど、そういう人がやはり大使になるんだと、私は非常に感銘を受けました」
深層NEWSはBS日テレで月~金 夜10時より生放送