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特殊詐欺グループに“人気”の東南アジア…なぜ拠点に? グループ元リーダーが語る「ワケ」

2023年12月30日 16:00
特殊詐欺グループに“人気”の東南アジア…なぜ拠点に? グループ元リーダーが語る「ワケ」
特殊詐欺グループ元リーダー・A氏

2023年は特殊詐欺グループの海外拠点の摘発が相次いだ。特に東南アジアは日本の捜査当局の摘発も簡単ではなく、詐欺グループのまさに“楽園”。取材を進めると、かけ子の「トレーニングセンター」や“仲介人”の存在なども浮き彫りになってきた。
(NNNバンコク支局 田中純平)

■特殊詐欺グループの「アジト」とは…東南アジアで拡大

23年11月、カンボジアの首都プノンペンにある地上9階建てのアパートを訪ねた。部屋数は38。プールにジム、サウナもついている。そして、メコン川を望む広い屋上デッキでは、バーベキューも楽しめるという。

特殊詐欺グループは、このアパート1棟をまるまる借り上げ、アジトにしていた。摘発されてから約3か月たっていたが、部屋にはSIMカードの台紙やニンニクなど、アジトにしていた“生々しい痕跡”が残されていた。

23年は、こうした日本へ詐欺の電話をかける、いわゆる「かけ子」の海外拠点が多く摘発された。フィリピン、カンボジア、ベトナム、タイ、マレーシア…。かけ子の拠点は東南アジア各国に広がっている。

摘発が増えた理由について、日本の捜査関係者は「海外当局の動きが急に良くなったわけではない。拠点の数が増えたから、その分、摘発も増えたのではないか」と話す。

一方で、私たちは特殊詐欺グループが海外を拠点にするのは、ここ数年に限った話ではないという証言を得た。

■海外拠点は「10年前から…」 元リーダーA氏が語る“実態”

「10年くらい前から海外の『かけ場』が始まりました」――そう話すのは、特殊詐欺グループの元リーダー・A氏だ。今は30代で会社員だが、17歳のころ、知人の紹介で東京・千代田区のオフィスビルの上階にある会社に入った。

オフィスにはデスクと電話機が並び、数十人の男たちが電話をかけていたという。最初は何か分からなかったが、言われるがまま電話をかけた。そのうち、「詐欺だ」と気づいた。A氏は巧みな話術で多くの人をだまし、「これなら自分でやった方がいい」と考えて“独立”した。

A氏が、かけ子グループを仕切っていると、特殊詐欺グループのコミュニティーの中で、知人から海外拠点の話を持ちかけられたという。

「海外で電話しようと思うんだけど、誰か紹介してくれない?」
「海外だとパクられない(捕まらない)し、人を紹介してくれたらマージン渡すよ」

この時、海外拠点のメリットについて、日本の捜査当局による摘発が難しいこと、家賃が安いこと、パスポートを預かるため末端のかけ子が逃げ出さないこと…などが挙げられたという。A氏自身のグループも中国に拠点を作ることを考えたが、パスポートの取得などが面倒だったため、諦めたと話す。

その後、A氏は関東地方で、かけ子グループを仕切っていたが、17年に逮捕され、実刑判決を受けた。

23年に海外拠点の摘発が相次いだことについて、A氏は「ヘタ打ったな…と。うまくやれなかったんだろうなと思いますけど、たくさん拠点があるから、一部が捕まっているんだと思います」と話し、摘発されたのは氷山の一角にすぎないと指摘する。

■東南アジアを目指すワケ…「トレーニングセンター」も

約382億3900万円――これは23年1月から11月までに日本全国で特殊詐欺で、だましとられた総額だ。

捜査関係者は「国内で1か所に集うかけ子グループは皆無。海外拠点か移動型が主流だ」と話す。その海外拠点の中心は、東南アジアだ。なぜ特殊詐欺グループは東南アジアに行きたがるのか。

東南アジアは、日本に比べて家賃が安い上に、現地当局への“ワイロ”がまかり通る。通信に欠かせないSIMカードも簡単に手に入るし、日本との時差も少ない。さらに、同じアジアの日本人が生活していても目立たないといった利点があるという。そしてなにより、日本の捜査機関が摘発するのが難しい。

また、“闇バイト”の規制が厳しくなる日本と裏腹に、海外拠点は“リゾートバイト”として求人をしているため、比較的、人が集まりやすいという。

しかし、そうやって人を集めても、素人集団が機能するのかという疑問が残る。

関係者によると“リゾートバイト”として東南アジアに来たかけ子の予備軍は、かけ子の「トレーニングセンター」に入って、まず学ぶ。そのトレーニングセンターでは、かけ子予備軍のパスポートを取り上げ、簡単に帰国できないようにするという。

■「捕まって、ほっとした」…かけ子に“葛藤”も

トレーニングを経て実際に犯行に及ぶかけ子の中には「やめたくても、やめられない」という葛藤を抱く者もいる。カンボジアで摘発されたかけ子のうち、数人は「捕まったのは嫌だったが、正直、ほっとした」と供述した。

また、マレーシアで摘発された特殊詐欺グループとみられる日本人のうちの1人は「仕事があると言われてマレーシアに来たら、特殊詐欺だった」と親に連絡し、大使館が現地警察に情報を提供。摘発に至った。

一度手を染めたら、なかなか抜け出すことができない特殊詐欺グループ。「報酬が良いから」と安易に足を突っ込んでから後悔しても、取り返しはつかないのだ。

■カンボジアで暗躍する“仲介人” 捜査当局が摘発目指す

23年はカンボジアで3件のかけ子グループが摘発され、日本に移送された。4月、リゾートホテルを拠点にしていた19人の男を警視庁などが逮捕。5月にはホテルを拠点にしていた7人の男を現地当局が摘発し、そのうち3人を佐賀県警が逮捕。さらに11月には、冒頭のアパート1棟を借りて犯行に及んでいた25人の男が、埼玉県警などに逮捕された。

関係者によると、カンボジアには特殊詐欺の“仲介人”がいるとみられている。表向きは飲食店を営んでいて、メンバーのビザや、かけ場の賃貸物件の世話をするという。日本の捜査当局は、実際に詐欺に手を染めたメンバーだけでなく、“仲介人”も摘発するべく目を光らせている。

警察庁はICPO(=国際刑事警察機構)の会議や国際会議の場で、海外当局へ連携の呼びかけを強めていくとしている。また、各都道府県警に24年4月から「特殊詐欺連合捜査班」を設置し、受け子などの捜査を集中的に行う組織を新設する。

一般市民の良心につけこみ、カネをだましとる卑劣な特殊詐欺。捜査当局は特殊詐欺グループの根絶に向け、2024年も捜査・対策に全力を注ぐ。

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