台湾で「寄付」なぜ集まるのか? “台湾人は寄付が好き” 震災で見えたワケ
今月3日に発生した台湾東部沖を震源とする地震。現地に取材に入ると、被災直後にも関わらず、多くの物資が寄付として集まっていた。今年1月の能登半島地震でも、台湾から多額の寄付が送られた。なぜ台湾の人々はこんなに「寄付」するのか、背景を探った。
(NNN上海支局 渡辺容代)
■あれもこれも寄付…「台湾の避難所」のナゾ
彩りがよく、栄養バランスの整った弁当。おやつの時間には温かいピザやお菓子が並ぶ…。今月3日、台湾東部沖で起きた地震では、発生からわずか3時間で避難所の受け入れ体制が整えられたという。私たちが取材に入った避難所でも、民間団体が食事や日用品の配布のほか、マッサージや健康相談を行っていて、被災者が少しでも快適に過ごせるようにという配慮が随所に感じられた。
さらに驚いたことに、ここで配られる物資はほとんどが「寄付」でまかなわれているという。避難所の運営を行っていた花蓮市役所の担当者によると、地域の弁当店や慈善団体、個人など様々な人が持ち込むという。理由を問うと、「台湾人は寄付が好きだから」。実際、今回の地震で台湾政府が財団法人を通じて集めた募金は、4月16日時点で45億円(9.6億台湾ドル)に上っている。
■救助隊にも東洋医学の“吸い玉” 疲れを癒やすボランティア
今回の地震では、一時700人以上が孤立していた。最も多くの人が取り残されていたのが東部の景勝地・太魯閣峡谷周辺だ。急峻な地形に加え、地震による落石などが相次ぎ救出作業は難航。救助隊の疲労は相当とみられ、前線本部では消防隊員らが交代で休息を取る様子も見られた。
その一角、屋外に設置されたテントをのぞくと、ある隊員は額に治療用のハリを刺し、ある隊員は肩に東洋医学の”吸い玉”を着けるなどの施術を受けていた。この施術をしているのも、慈善団体のボランティアだという。こうした団体は避難所でも活躍していて、運営資金の半分以上は寄付でまかなわれているケースが多いという。
■日本で災害が起きるたび台湾からの支援が…台湾に根付く“寄付文化”
台湾の人々の支援の先は、台湾だけにとどまらない。2011年の東日本大震災では200億円以上が、今年1月の能登半島地震でも25億円を超える寄付金が日本に送られた。
台湾の社団法人の調査によると、2022年に台湾で集められた寄付金総額は約3400億円(716億台湾ドル)だった。台湾の2人に1人(50.6%)が寄付を行ったことになり、1人あたりの寄付金額は平均で3万円あまり(7125台湾ドル)だったという。台湾の人々には寄付の習慣が根付いているといえよう。
■寄付のワケは…「『国』として認められず…“自分の身は自分で守る”」
台湾出身で日本学術振興会・茨城大学特別研究員として日本と台湾の地域防災について比較研究している李フシンさんに、台湾で寄付が浸透している理由について聞いた。
「まずは宗教が深く関わっていると思います。台湾で信仰心が厚い人は多く、『いいことをすれば、いいことが返ってくる』という思想が社会に浸透しています」
台湾では、仏教、道教、キリスト教など様々な宗教が信仰されていて、災害時には宗教団体が被災者支援に関わることも多い。今回、取材した避難所でも、「仏教慈済慈善事業基金会」という仏教系の団体がベッドなどを提供し、地元政府と連携して避難所運営を進めていた。
さらに李さんは、台湾の歴史や政治環境との関連を指摘する。
「台湾は様々な国から支配を受けてきました。また現在も多くの国から『国』として認められていません。中国からの圧力もある。自分たちで身を守らなければならないという環境の中で、助け合いの精神が育まれたのです」
また、日本をはじめとした外国へ支援を行うのも、「いざというときにはお返しとして外国からの支援を受けられる…という期待がある」と分析しているという。
「国際的に孤立した状態が長く続いた台湾人にとって、外国への援助は1つの“作戦”なのです」
■「自分よりもっと大変な人に」…被災者の願いがつなぐ支援
地震で被害の大きかった東部・花蓮では、9階建てのビルが大きく傾き、1人が死亡した。ビルは地震の2日後には解体作業が始まり、住民はホテルなどでの暮らしを余儀なくされていた。
このビルの9階に住んでいて、家財道具など全てを失ったという女性は、自らが被災しながらも身寄りのない高齢の被災者のサポートを行っているという。インタビューにも気丈に応えていた女性だが、今後の生活再建について聞くと、「考えても仕方がない…」と声を詰まらせた。
そんな女性も、給付される支援金については「自分よりもっと大変な人に使ってほしい」と話す。台湾に根付く寄付の習慣は、こうした他者への思いやりが支えているのだと感じた。