安倍元首相が残した「遺産」と今後の日米関係は・・・バイデン・トランプ両政権の元高官に聞く
安倍元首相の死去をうけ、バイデン政権やトランプ政権の元高官に、安倍氏の業績や日米関係に与える影響について聞いた。
■「安倍氏は中国の脅威をいち早く認識」ジョンストン前NSC東アジア部長
「ホワイトハウスでアジア政策取り組むスタッフたちには大きな衝撃が走っている」
こう語るのは、先月まで、ホワイトハウスでNSC=国家安全保障会議の東アジア部長を務めていたCSIS=戦略国際問題研究所のジョンストン日本部長だ。
安倍元首相を、「日本をアジアの指導的立場に戻すことを自身の使命と考え、包括的な戦略によってそれを実現した。日米同盟に変革をもたらした人物だった」と称えた。
ジョンストン氏が特に指摘した業績は、安倍元首相が、海洋進出を強める中国の脅威に、いち早く警鐘を鳴らしたことだ。
「安倍氏は、中国が国際秩序に対する潜在的な脅威であるといち早く認識し、それに対処するために『自由で開かれたインド太平洋戦略』を考案した」
また、集団的自衛権を限定的に行使できるようにした平和安全法制など、安倍政権が行った日本の防衛力強化も、「当時は物議を醸したが、現在ではその必要性について、日本国民のかなり強い支持を得ている。安倍氏のリーダーシップの成果でもある」と賞賛した。
その上で、ジョンストン氏は、日米関係は今後も盤石だと強調した。
「安倍氏がこのような形で亡くなったことは、日米関係にとって大きな損失だ。しかし、彼の『遺産』は生き続け、日米関係はこれからも強いままだろう。それが彼の仕事の結果だ。バイデン大統領と岸田首相は、非常に緊密に連携しているが、それは安倍氏が8年の在任中に築き上げた基盤の上に成り立っている。ホワイトハウスはそのことに大きな敬意を払っている」
■「クアッド首脳会議は安倍氏のビジョンの現れ」マクマスター元大統領補佐官
一方、「安倍氏は日本を世界の舞台の中心に据えた」と賞賛するのは、安倍元首相と蜜月関係を築いたトランプ前大統領の補佐官を務めた、ハドソン研究所のマクマスター日本部長だ。
安倍・トランプ両首脳の最大の功績として挙げたのは、ジョンストン氏と同じ「自由で開かれたインド太平洋」の概念の提唱だ。
「トランプ前大統領と安倍元首相の間の最大の成果は、『自由で開かれたインド太平洋』のビジョンを現実のものにしたことだと思う。先日の東京での日米豪印4か国の枠組み『クアッド』の首脳会合は、安倍氏のビジョンの現れであり、安倍氏強調したすべての分野で、クアッドの協力が強化されていた。また安倍氏のもとで、日本は透明性を持ったインフラ投資の基準を設定するリーダーとなった。それは中国の略奪的な融資慣行とは対照的なやり方だった」
さらに、安倍氏が中国に偏りがちな製品供給網=サプライチェーンにいち早く警鐘を鳴らすなど、「経済・技術開発の分野でも先見の明があった」と指摘した。
その上でマクマスター氏は、ロシアのウクライナ侵攻が起きた今、圧力を強める中国に対抗するために、日米同盟の重要性はこれまで以上に高まっていると強調した。
「安倍元首相は、力によってのみ本当に平和を維持することができることを理解していた。私たちはウクライナでそのことを身をもって体験した。私たち全員が協力して防衛力を強化し、中国の侵略に対抗できるようにすることが非常に重要だ。世界中に危機が連鎖する可能性がある今、日米関係、日米同盟がこれまで以上に重要なのは誰の目にも明らかだ」