【ルポ 米中間選挙】「ポスト・トランプ」最有力候補のデサンティス・フロリダ知事 取材で見えたその「人気」の実態とは?
11月8日に投開票を迎えるアメリカ中間選挙。トランプ前大統領の動きが注目される中、今回の選挙戦では「ポスト・トランプ」を争う野党・共和党の有力候補らも頭角を現している。NNNは、「最有力」とされる、フロリダ州のデサンティス知事を取材。その人気の実態を探った。
◇◇◇
■フロリダで大人気 選挙集会ではオリジナル・テーマ曲まで
10月下旬の土曜日。フロリダ州中部・ポークシティの郊外にある、自然豊かな結婚式場には、長い行列が出来ていた。フロリダ州知事のロン・デサンティス氏(44)の選挙集会に参加する支持者たちだ。
11月8日の中間選挙で、2期目の当選を目指すデサンティス氏。陣営の報道担当者は、日本メディアが集会を取材するのは初めてではないかという。「デサンティスグッズ」売り場では帽子が人気で、幼い子どもを連れた親も目立つ。トランプ氏の集会などではあまり見ない光景だ。
数百人の支持者が詰めかける中、登場がアナウンスされると、知事のために地元・フロリダ出身のバンドが作ったオリジナル曲が流れる。大歓声が上がる中、デサンティス氏は、グッズの帽子を支持者に投げながら登場した。
「4年前に初当選した時は、他の州で子供たちが1年半も学校に行けず、人々の自由が奪われ、ワクチンを強制するようなことが起きるとは誰も思わなかった」
冒頭から、バイデン政権のコロナ対策を批判するデサンティス氏。その後もガソリン価格の上昇やインフレ対策の失敗、不法移民の増加など、矢継ぎ早に政権批判を繰り返した。
「11月8日に、(議会下院の過半数を奪還し)ペロシ下院議長(民主党)を引退させる」
こう気勢を上げると、支持者らも大歓声で応じた。
■きっかけはコロナ禍…「超保守的政策」連発し頭角
日本ではまだ知名度の低いデサンティス氏だが、アメリカでは今や、トランプ前大統領に次ぐ人気を誇る「次期大統領の有力候補」だ。フロリダ州に限って言えば、トランプ氏の人気を上回る。(サフォーク大学とUSATODAYの共同世論調査、22年9月)
頭角を現すきっかけとなったのが、2020年の新型コロナウイルス感染拡大だ。フロリダ州は他の州に先駆けて、ロックダウンなどの行動制限を解除。感染者・死者が急増したものの、学校や経済活動の再開が早まり、結果的に州の経済のスピード回復につながった。
さらにワクチン接種や、マスク着用の義務化に反対。移民政策をめぐっては、不法移民を飛行機で東部の州のリゾートに送り込み、バイデン政権を慌てさせるなど、「保守強硬派の知事」として一気に知名度を上げた。
中でも賛否両論を呼んだのが、7月に知事の肝いりで施行された「ゲイと言ってはいけない法」だ。小学3年生以下に対し、LGBTQなど、性の多様性に関する教育を制限するこの法律。性的マイノリティーへの差別を助長すると抗議デモが多発した。
一方で、「小さな子どもに性自認に関する教育は早すぎる」という知事の主張を、保守派の親たちは支持。
フロリダで去年発足し、今や全米に広がる保守系の母親たちの団体「Moms For Liberty(自由を求める母親たち)」は、知事に賛同し、学校の図書室に「ゲイと言ってはいけない法」などに違反する本がないか監視、あれば撤去する活動を展開している。
また、取材した中には、公立学校が「親の知らないところで医療(新型コロナのワクチンに関する説明)や、性自認に関する教育を一方的に押しつけている」と不信感を持ち、子どもに学校をやめさせたという母親もいた。娘(9)は現在、自宅などでオンライン教材を使って勉強する。
こうした親たちは、「子どもに何を教えるかは、学校ではなく、親が決める」と訴える知事の政策を支持している。
■「賢いトランプ」の異名、そのワケは
アメリカメディアはデサンティス氏のことを「賢いトランプ」「トランプ2.0」などと評している。その「賢さ」には2つの側面がある。
1つ目は、その経歴だ。幼少期から野球に打ち込み、リトルリーグ時代には世界大会にも進出したデサンティス氏。その後はイエール大学とハーバード大学ロースクールを卒業。海軍に入隊し、イラク派遣を経験するなど、エリートコースを駆け上がってきた。幼少期を過ごしたフロリダ州ダニーデンの住民は、「幼いころから賢い子どもだった」と話す。
また幼なじみの男性は、アメリカメディアの取材に対し「当時から、彼の目標はアメリカ大統領になることだった」と語っている。
2つ目は、野心を胸に秘めながら、戦略的に共和党内で支持を獲得していった、その手法だ。
2012年、下院議員選挙に当選したデサンティス氏は、まずトランプ氏に接近し、「トランプ派」の一員に。2018年のフロリダ州知事選では、幼い子どもに「トランプ名言集」を読み聞かせる様子を映したCMを作った。トランプ氏への忠誠をアピールする選挙戦で、得票率わずか0.4ポイント差で勝利し、知事の座を手に入れた。
ただ、トランプ氏に迫る人気となった現在では、距離を置いているとの報道が目立つ。また、知事としてさまざまな過激な政策を発表する際には、「敵を作る」手法で、保守派の支持を獲得している。
たとえば、「ゲイと言ってはいけない法」をめぐっては、法律に反対するディズニー社と対立。州内にある「ディズニーワールド」を自治区のように運営できる特権を廃止して「報復」した。
また、たびたび大手メディアの報道を「偏っている」と批判。記者会見では記者の追及に逆質問で反撃するなど、「戦う知事」を巧みに演出している。発言や行動にもトランプ氏のような「予測不可能さ」はない。
こうした点が、「賢いトランプ」という評価につながっているようだ。
■24年大統領選へ「布石」着々 他州の候補応援も
知事2期目に向けて、盤石の選挙戦を展開するデサンティス氏。全米各地で共和党候補の応援にも入るなど、徐々に2024年大統領選挙への野心を隠さなくなっている。知事選の候補者討論会では、対立候補に「4年の任期をまっとうするか」と問われ、明確な答えを避ける場面もあった。
さらに、私たちが取材した集会では、トランプ氏を意識した発言も。「なぜもっとツイートしないのかと言われるが、私は政治評論家ではなく、リーダーなのだ」と語り、SNSを多用するトランプ氏を暗に批判した。両者の緊張関係を反映してか、最終盤の11月6日にフロリダ州で行われるトランプ氏の選挙集会には、デサンティス氏は出席しない見通しだ。
■デサンティス氏はトランプ氏を超えるのか?集会で見えた「差」は…
着々と勢いを増すデサンティス氏。ただ、取材を通じて「トランプ氏との一騎打ちで本当に勝てるのか」という疑問は消えなかった。両者の集会の大きな差は、支持者の「熱量」だ。議事堂占拠事件で議会に押し寄せたトランプ支持者のような「絶対的な忠誠心」は、デサンティス支持者の言動からは見えない。
「デサンティス氏が大統領選に出馬すれば支持する」と語る人がいる一方、「2024年に、トランプ大統領の下で副大統領になってほしい」「まだ若い。2028年の大統領選でも間に合う」などの意見も少なくなかった。
「トランプ派」から出発したデサンティス氏は、その支持層がトランプ氏と重なる。2024年大統領選に向けて、トランプ氏の動向に大きく左右される状況は変わっていないのだ。
また「ゲイと言ってはいけない法」など、超保守的な政策を連発する中で、州内の分断は「文化戦争」と呼ばれるほどに深まっている。将来的に大統領選に勝利するためには、共和党支持層だけでなく、無党派層にも支持を拡大する必要があるが、今のままでそれができるかは未知数だ。
こうした中、今回の中間選挙では、トランプ氏・デサンティス氏ら「保守強硬派」とは一線を画す「穏健保守派」のヤンキン・バージニア州知事も各地に応援に入り、支持を拡大。
また、「トランプ派」のアリゾナ州知事候補、レイク氏が「トランプ氏の次期副大統領候補」として急浮上、今後、デサンティス氏とトランプ支持層を奪い合う可能性もある。
2024年にむけて、トランプ氏を本当に脅かす存在が現れるのか。11月8日の中間選挙は、次期大統領選にむけたレースのスタートでもある。
(ワシントン支局・渡邊翔)