ワクチン第1世代は「不完全の可能性」 英
新型コロナウイルスの感染第2波が深刻化したことでワクチン開発への期待がますます高まっている。こうしたなか、イギリス政府のワクチン開発担当のトップは比較的早い段階で実用化に至る“第1世代のワクチン“について「不完全になる可能性が高い」との認識を示した。イギリスといえばWHO=世界保健機関も期待を寄せるオックスフォード大学と製薬大手アストラゼネカのワクチン開発が行われる“最前線”。ワクチン開発の難しさが改めて浮き彫りになっている。
■“強い免疫反応”期待が高まる有力候補ワクチン
オックスフォード大学とアストラゼネカが共同開発するワクチンは臨床試験の最終段階まで進んでいる。7月には18歳~55歳の健康な被験者に“強い免疫反応”が確認されたと発表された。また英フィナンシャル・タイムズ紙は10月26日、このワクチンについて「高齢者への臨床試験でも同様の強い免疫反応が確認された」とする関係者の話を報じている。圧倒的に重症化のリスクが高い高齢者に効果があるとなれば、新型コロナウイルスと戦う大きな武器となる。開発が成功すれば日本にも1億2000万回分が供給されることで合意しているこのワクチン。激しい開発競争をリードするイギリスのワクチンがいつ実用化されるのか世界が注目している。
■しかし…「第1世代は不完全になる可能性が高い」
こうしたなか10月27日、医学誌ランセットにイギリス政府のワクチン開発担当部門のトップのケイト・ビンガム氏のコメントが掲載された。
この中でビンガム氏は「ワクチンは現在のパンデミックから脱する唯一の手段」と述べている。しかし、一方で「第1世代のワクチンは不完全なものになる可能性が高い」と述べている。第1世代のワクチンは「感染を予防するものではなく症状を抑えるものになる可能性がある」というのだ。もちろん私達が普段うけているインフルエンザのワクチンも感染を完全に防ぐことはできない。世界中が第2波に苦しみ、コロナ禍の出口が見えない中で、ワクチンの開発成功に過度な期待を持ちすぎないようクギを刺した形だ。
ビンガム氏はまたワクチン開発が成功した場合でも「全ての人に効果が期待できない可能性や長期間の効果を期待できない可能性もある」と強調している。不完全なものになるとすれば第1世代のワクチンでどこまでウイルスを抑え込めるかは不透明だ。
■前例のないスピードで進めるワクチン開発の難しさ
ワクチン接種による健康被害は絶対に避けなければならない。「早くワクチンを」という流れの中でアメリカ大統領選挙ではワクチン開発を“政治利用”するような発言もみられた。
中国やロシアでは、完全な手続きを終えないまま、ワクチンが広く接種され始めている。安全よりスピードが重視されかねない雰囲気を懸念した製薬会社9社は9月8日、「ワクチンを接種した人の安全と健康を最優先する」との声明を発表。開発のライバルである製薬会社が共同声明を出すことは異例だった。
「いつワクチンができるのか?」メディアで働く私達も友人や家族からよくこの質問を受ける。アストラゼネカのCEOは被験者に重い副反応の疑いが出て臨床試験が中断された際「ワクチン開発ではよくあることでいつもと違うのは世界が注目しているという点だ」とコメントした。ワクチン開発の一挙手一投足を世界が見つめている。
しかし、今行われているのは、通常数年単位の時間がかかると言われるワクチン開発を短期間で実現しようという前例のない試みだ。WHOのテドロス事務局長は「これほど急速に研究開発を促した疾病は歴史上ない」と述べているが、当然思い描いたようには進まない。「早ければ9月にも実用化」と伝えられていたオックスフォード大学とアストラゼネカのワクチン開発も「10月中」「今年中」と徐々にずれ込んでいるのが現実だ。またイギリス政府に新型コロナウイルス対策の助言を行う首席科学顧問は開発が成功したとしても一般的に普及するのは来年の春以降との見通しを示すなど、私達の手に届くまではまだ時間がかかりそうだ。
■“不完全”でも前に進む
ヨーロッパを中心に第2波が広がる中でワクチン開発成功に希望をもつ人々の思いは高まっている。前述のビンガム氏の発言は、ワクチンにウイルスを強力に抑え込むほどの効果が無かったとしても健康面のリスクを排除したうえで接種が行われるのが現実的、という考えを示したものだろう。
現実的な選択肢を探る道はワクチン開発だけではない。経済や人々の精神への影響を考え、どの道が最善なのか、世界各地で様々な手法の感染対策が取られている。そのどれも完璧なものではなく手探りの状態だ。直ちにウイルスを消し去る魔法が無い限り試行錯誤は続く。