バイデン政権で朝鮮半島は…揺れる韓国
日本や韓国などとの同盟重視を打ち出すアメリカのバイデン政権。早速、中国は同盟にくさびを打ち込む動きをみせ、韓国は大国の狭間に揺れている。東アジアはどう変わっていくのか。ソウル支局の原田敦史支局長に聞きます。
■韓国政府はバイデン政権をどう見ているか?
韓国としては、北朝鮮との対話という意味では、トランプ政権のようなトップダウンでの急な進展は期待しにくいものの、“従来型の外交に戻る”という意味では、一定の安心感を持っていると思います。
文在寅大統領はバイデン政権の発足に合わせた会議で、「米韓関係をより互恵的な同盟に発展させる」と強調しています。つまり、同盟重視のバイデン政権に同調し、関係構築を急ぐ方針です。
こうした姿勢の背景ですが、トランプ政権時代に在韓米軍の駐留経費の問題などでギクシャクした米韓関係を正常なものに戻そうという意味もありますが、加えて、文政権の事情も大きく絡んでいると思います。
文政権にとっての最優先課題は、やはり、北朝鮮です。バイデン政権には北朝鮮に積極的に関わってもらい、米朝、さらに南北会談へとつなげていきたいと考えている。
ただ、文在寅大統領の任期は残り1年あまりです。会議で文大統領自身も「最後の1年という覚悟」と述べ、北朝鮮政策に「最善の努力を傾ける」と強調したことからも、この1年で「レガシーを残したい」という考えは強いと思います。
■文在寅政権は、その北朝鮮政策でどのようなシナリオを描いているか?
キーワードは「オリンピック」で、ここには日本も密接に関わってきます。
2018年に平昌オリンピックがあったが、この時、金与正氏が韓国を訪問し、南北の融和ムードが一気に高まりました。間もなくして南北首脳会談が行われ、史上初となるシンガポールでの米朝首脳会談につながるという強烈な成功体験があります。
その後、南北関係は急速に冷え込み停滞していますが、文政権にはこの夏の東京オリンピックでも「あの五輪外交の成功を再演したい」という思惑がある。ただ、そのためにはホスト国の日本の協力が不可欠です。
去年後半から、文大統領が日韓関係を改善させる意思を明確に示しています。その理由として、やはり同盟を重視するバイデン政権に言われる前に、日韓関係をどうにかしなければという事情もありますが、同時に「五輪外交」というシナリオも対日政策に影響していると思います。
つまり、文政権の場合は米韓関係も日韓関係も、「北朝鮮政策」から“逆算”されて来ている側面が大きいといえます。
■その文政権のシナリオはうまくいくのか?
日本側もこうした思惑は分かっていますし、冷ややかな見方が大勢です。
日本政府は、まずはいわゆる元徴用工の問題、慰安婦訴訟の問題で具体的にどのような解決策を提示してくるのか、文政権の本気度を見極めようとしている。
また、米韓関係でも近く試金石となりうる予定があります。例年春にアメリカと韓国は合同で軍事演習を行っていますが、当然、北朝鮮は反発します。
文大統領は年頭の記者会見で、この軍事演習について「必要なら北朝鮮と協議する」と北朝鮮側に配慮する姿勢を示しました。しかし、当然、アメリカは同盟強化のために演習は必要との立場です。
言わば「同盟の本気度」を試される“踏み絵”のような状態で、文政権は難しい判断を迫られています。
■米中対立の中で、韓国は中国との距離感はどうしようとしているのか?
ここも韓国は、難しい立場。早速、中国は韓国にアプローチをしかけています。
26日夜、習近平国家主席と文大統領は電話会談を行いました。韓国メディアの報道では「中国側が要請して」行ったということですが、韓国はアメリカとの会談の前に、中国と電話会談をしたことになります。
韓国大統領府の関係者は「中国側との電話は、新年の挨拶で、性質が違う」と釈明していますが、韓国メディアからも米韓同盟重視と言いながらこの順序はどうなのかと疑問の声が出ています。
内容についても、韓国側は北朝鮮政策について中国から「南北対話への支持が示された」と強調していますが、中国側の発表ではこの部分の言及は一切ありませんでした。むしろ中国側は「韓国と共に多国間主義に取り組む」と強調していて、韓国がアメリカに寄りすぎないようくさびを打つ狙いがあったとみられます。
(1月27日放送『深層NEWS』より)