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【解説】イスラエル軍“部隊撤収”の動き…なぜ? 停戦や人質解放、今後は?

2024年4月8日 22:34

イスラエルとイスラム組織「ハマス」との戦闘が始まって半年。これまでになかった動きが出ています。イスラエル軍はガザ地区南部から部隊の大部分を撤収させました。この動きの背景には、何があるのでしょうか。NNN元カイロ支局長で中東地域も担当していた、日本テレビ国際部の富田徹デスクが、次の3つのポイントを中心に詳しく解説します。

1. なぜイスラエルは撤収したのか?
2. 停戦と人質解放はどうなるのか?
3. 今後の行方は?

■ガザ地区では人口の半分、約110万人が「壊滅的な食料不足」

パレスチナ自治区・ガザ地区を実効支配している「ハマス」とイスラエルとの戦闘が始まって半年。民間人を含め、多くの死者が出ています。

ガザ地区保健当局は、これまでにガザ地区で3万3000人以上が亡くなった、と発表しています。

食料危機も深刻で、国連世界食糧計画などによると、ガザ地区では人口の半分にあたる約110万人が「壊滅的な食料不足」に苦しんでいるということです。また、国連は、これまでに27人の子供が栄養失調で亡くなった、とも発表しています。

■イスラエル軍、南部ハンユニスから地上部隊の大部分を撤収

一方、ガザ地区には、イスラエルから連れ去られた人質が、今もなお130人以上拘束されています。

こうした状況のなかで、今回、イスラエル軍は、南部ハンユニスから地上部隊の大部分を撤収させた、と発表しました。

ガラント国防相は「南部ラファでの任務を含む、今後の任務に備えるために撤収した」としています。

■イスラエル軍 なぜ“部隊撤収”? 背景にアメリカの存在か

鈴江奈々キャスター
「富田さんに、次の3つのポイントについて話を聞きます。

1. なぜ、イスラエルは撤収したのか?
2. 停戦と人質解放はどうなるのか?
3. 今後の行方については?

まず1つ目ですが、イスラエル軍が撤収の動きを見せているのは、どんな背景が考えられるのでしょうか」

日本テレビ・国際部 富田徹デスク(NNN元カイロ支局長)
「イスラエルは、ずっとハマスの殲滅を目標としてきました。そういうなかで、撤収ということになると、これはやっぱりアメリカの意向も影響しているのでは、という見方もあります。

というのも、イスラエルの大きな後ろ盾になっているのがアメリカですけど、今月1日、イスラエル軍の空爆で、ガザで食料支援を行っていたアメリカのNGO団体の職員ら7人が亡くなる事件がありました」

日本テレビ・国際部 富田徹デスク
「これにはバイデン大統領も怒って、ネタニヤフ首相との電話会談で、『容認できない』と強い口調で伝えました。

そして、イスラエルの今後の対応次第では、ガザ情勢をめぐる“アメリカの政策を変更するぞ”というふうに警告…つまり、場合によっては“もう味方してやらないぞ”と突き放すような態度にまで出ました。

これにはイスラエル軍も、報道官の会見で『事件を最も深刻に受け止めている』というふうに謝罪しました」

鈴江キャスター
「この半年のなかで、イスラエル側が謝罪する、謝罪の言葉というのは、あまりなかったようにみえますが…」

日本テレビ・国際部 富田徹デスク
「あまりなかったですね。これは異例だと思います。私が昔、取材していたときも、イスラエル軍はどんな状況にあっても常に強気というか、こういう率直な謝罪というのは異例だなと感じました。

この、軍の一部撤収も、こうした一連の対応の一環である、という可能性もあると思います」

森 圭介キャスター
「それだけバイデン大統領の警告が効いている、ということ?」

日本テレビ・国際部 富田徹デスク
「そうですね。その可能性はあると思います。イスラエルは周辺のアラブの国々を全部敵に回しても平気、あるいはヨーロッパやアジア、世界中のいろんな国から批判されても、最後の最後はアメリカさえ味方であったら平気、というのが基本姿勢です。

実際、ロイター通信などによると、アメリカからイスラエルへの軍事支援は、年間38億ドル、6000億円近くにのぼっています。イスラエルにとって、アメリカは最大の軍事支援国でもあるということです」

鈴江キャスター
「今回の撤収がアメリカの影響も考えられる、ということですね」

■イスラエル国内で“人質解放”求める声 交渉材料の1つに?

鈴江キャスター
「続いて2つ目のポイント、停戦と人質解放についての影響は、どうみますか?」

日本テレビ・国際部 富田徹デスク
「これは、交渉を前に進める1つの材料になりうる、ということはいえます。軍の撤退というのは、ハマスが人質解放の条件として求めてきたものでもあるんです。

また、イスラエル国内でも、家族を人質に取られている人々などが“早く交渉を前に進めてくれ”と大規模なデモを開いていて、ネタニヤフ政権に対する批判も高まっているという状況です。

イスラエルとしては、全面撤退というのはなかなか応じられないけれども、人質解放を勝ち取るために、兵力を減らすポーズを見せる、という狙いもあったとみられます」

鈴江キャスター
「エジプトで行われているところでは、仲介者の、当局者の話として、“進展があった”という情報もあるんですが、これはあまり楽観はできないんですか?」

日本テレビ・国際部 富田徹デスク
「これは、この交渉をめぐってはいろいろ進展があったという報道が出たり、あるいは交渉が明日にも始まるといわれておきながら始まらなかったり、いろいろあります。まだちょっと予断を許さない状況だと思います」

■“ハマスせん滅”を目指すとみられるネタニヤフ政権 再び戦闘激化の可能性?

鈴江キャスター
「そして、3つ目のポイント、今後の行方については、どうみていますか」

日本テレビ・国際部 富田徹デスク
「これもなかなか見通せないんですが、アメリカや人質交渉への配慮で一時的に攻撃拡大を控えたとしても、ネタニヤフ政権は“ガザ地区で、ハマスを根絶やしにするまでは、この作戦は終わらない”というスタンスは変わっていないとみられます。

そしてそのためには、やはり最終的にガザ地区の一番南にあるラファまで侵攻して追い詰めないといけない、というのが基本方針になっています」

斎藤佑樹キャスター
「ということは、今回イスラエル軍は撤退したものの、ガザ地区で再び戦闘が激化する可能性もあるのでしょうか?」

日本テレビ・国際部 富田徹デスク
「これは十分考えられると思います。これだけは、アメリカが何と言おうと、イスラエルはラファ侵攻にこだわる、という可能性があるからです。

いま、ラファには、北から逃れてきた多くの避難民が集まっていますが、ここで戦闘が行われれば多くの犠牲が出ると心配されています。

イスラエルは今回、ラファの少し北にあるハンユニスから部隊を撤収させたので、“ラファからそこに移ってきてもいいよ”と呼びかけています。

そのため、こういう(ラファに避難民が)集結の状況を解消した後に、再び大攻勢(をかける)というのも十分考えうる、という見方も出ています」