トランプ氏、活動再開 影響力の「実情」は
6月5日、およそ3か月ぶりに大規模集会で演説し、表舞台での本格的な政治活動を再開したトランプ前大統領。いまなお共和党内に大きな影響力を持つとされるトランプ氏は、中間選挙、さらにその先の2024年の大統領選挙まで、その力を維持できるのか――
(NNNワシントン支局 渡邊翔)
■3か月ぶりの演説で「本格再始動」中間選挙に向けゲキ
6月5日夜のノースカロライナ州グリーンビル。州の共和党大会に集まった大勢の支持者らは、おなじみの登場曲とともにトランプ前大統領が登場すると、大きな拍手で迎えた。
本格的な活動再開の「第1弾」と目されたスピーチで、トランプ氏は冒頭から、来年秋に行われる中間選挙に向けたゲキを飛ばした。
「アメリカの生き残りは、共和党員をあらゆるレベルで当選させられるかにかかっている。来年の中間選挙から始めなければならない」
トランプ氏の演説は、毎回「敵」を設定し、痛烈に批判することで、聴衆を熱狂させるのが特徴だ。今回も最大の「敵」であるバイデン政権を「中国に屈し、アメリカは世界の舞台で屈辱を受けている」とばっさり切り捨てた。
ただ、演説での一番の標的は、自身の政権から引き続き新型コロナウイルス対策の専門家トップを務めるファウチ首席医療顧問だった。
■「武漢流出説」再燃を利用 専門家トップを痛烈批判
新型コロナウイルスの起源をめぐっては、ここに来て「武漢ウイルス研究所からの流出説」が再び注目されている。
2019年11月に武漢ウイルス研究所の研究者3人の体調が悪化し、病院で診療を受けていたとするアメリカの情報機関の内部報告書の内容が報じられ、さらにその後、バイデン大統領が情報機関に、ウイルスの起源に関する追加調査を指示したからだ。
こうした流れに乗る形で、トランプ氏は自らの政権当時、ウイルス流出説に否定的だったファウチ氏に批判の矛先を向けたのだという。
「民主党といわゆる専門家は、ウイルスが中国政府の研究所で発生したことをようやく認めつつある」「ファウチ氏は、ほぼすべての問題で間違っていた。しかし、ウイルスの出所を否定したことが何より一番間違っていた」
一方で、自らの政権でのワクチン開発への投資が「世界中で多くの命を救った」と成果をアピールしたトランプ氏。
ウイルスを拡散させた責任をとらせるために、「中国で生産されたすべての製品に100パーセントの関税を課すべきだ」などと持論を展開した。
去年の大統領選挙をめぐっても、「民主党は選挙を盗んだ」などとおなじみの主張を繰り返し、およそ1時間半にわたって「トランプ節」が続いた。
■落ちない共和党内での影響力 一方で世間の関心は低下か
トランプ氏は、今後も全米各地の集会で演説を検討しているとされ、来年11月の中間選挙に向け、表舞台での活動を増やし、影響力を誇示する狙いだ。
しかし、本当にトランプ氏は、今もなお強い影響力を維持しているのだろうか。
最近の出来事を見ると、「共和党内での影響力は依然強いが、世間の関心は落ちている」というのが定説だ。
例えば5月、トランプ氏の弾劾訴追に賛成し、その後もトランプ批判を続けていたリズ・チェイニー議員(チェイニー元副大統領の娘)を、下院共和党が党ナンバー3の役職から解任した。
さらに、1月6日の議会襲撃事件に関する調査委員会を設置する法案も、上院共和党の反対で事実上の廃案となっている。
共和党が今もトランプ氏を擁護するような動きを見せるのは、中間選挙に向けてトランプ支持派の票をつなぎ留め、トランプ氏に「刺客候補」を擁立されるのを避けるため、という見方が大勢だ。
一方で、世間の関心の低下を示すのが、ソーシャルメディアでの発言を禁じられたトランプ氏が、自らのウェブサイトに立ち上げた「短文投稿ブログ」が、わずか1か月で姿を消したことだ。
アメリカメディアによると、トランプ氏のウェブサイトの閲覧数は、ブログ立ち上げ後も1週間で400万回程度。9000万人近いツイッターのフォロワーを抱えていた大統領当時とは雲泥の差で、怒ったトランプ氏が終了を命じたと報じられている。
世論調査もこうした傾向を反映しており、NBCの4月の世論調査では、全体でのトランプ氏の支持率は32%と大統領退任時の1月の調査(40%)から大きく下落している。
あるアメリカ政府関係者は、共和党内でもトランプ支持は「確実に下がっている」と話し、こんな例えをしてみせた。
「ボールを弾ませた時と同じだ。バウンドが、前より高くなることはない。だんだんと下がっていく」
■「ポスト・トランプ」候補始動も「トランプ次第」変わらず
こうした中、2024年の大統領選を見据えて、「ポスト・トランプ」の候補と目される政治家たちが動き始めている。
トランプ前大統領と同じ週にニューハンプシャー州の共和党の集会に登場したのはペンス前副大統領。
今年1月6日の連邦議事堂襲撃事件を「暗黒の日だった」と振り返り、「トランプ前大統領とは退任後、何度も話しているが、連邦議事堂襲撃事件で意見が一致する日が来るかはわからない」と語った。
これに対し、トランプ氏は冒頭の演説の日、再びペンス氏とタッグを組んで大統領選挙に立候補する可能性を問われ、「副大統領候補について議論するのは時期尚早だ」と明言を避けている。(FOXニュース)
また、ポンペオ前国務長官も2024年の大統領選への出馬を見据えて積極的な発信を続けていて、先週末もテレビ出演で、新型コロナウイルスの起源について、「未解決の疑問がまだ多くある」などと発言している。
ただ、この2人は共にトランプ政権で幹部だったため、もしトランプ氏と距離を置けば、トランプ支持者の強い反発にさらされるリスクがつきまとう。
トランプ氏個人を応援する熱狂的支持者のような「岩盤支持層」もない。
アメリカ政治に詳しい早稲田大学の中林美恵子教授は、「トランプ政治」の後に、「ポスト・トランプ」候補が台頭する難しさをこう表現する。
「リーダーは、熱心な支持者に受けるメッセージ性やアピール力を持っていなければなりません。混沌(こんとん)とした時代において、トランプ流のシンプルさ、非常識を超えて耳目を集める力、人々の怒りや恐怖に訴える力、有言実行ぶり等は、なかなかマネが難しい」
有権者の支持が陰りを見せても、トランプ氏が見せた強烈な“リーダーシップ”がポスト・トランプの候補を縛る“呪縛”となるというのだ。
政権交代から半年近くたっても、共和党はトランプ氏の影響力に振り回される日々が続いている。