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侵攻で奪われた“家族の時間”…「パパが大好きだよ」 ウクライナに残る“父”案じドイツで生きる母子の1年

2023年2月28日 18:28

ウクライナから国外に避難している人は800万人以上に上り、多くの人が今も家族と離ればなれの暮らしを余儀なくされています。祖国に残る父親の無事を願いながらドイツで懸命に生きるウクライナ人家族の1年を追いました。

   ◇

ドイツ西部のケルン。アルテムくん(10)と妹のヴィカちゃん(6)はウクライナからこの街に逃れ、避難生活を続けています。

今月13日、私たちとの9か月ぶりの再会となったアルテムくんは、この日のために練習してきたという日本語で出迎えてくれました。

アルテムくん
「おはようございます。わたしのなまえはアルテムです」

橋本雅之記者(NNNケルン)
「おぉ、すごい! 日本語、覚えてたんだ!」

祖国ウクライナに残る父親と離れ離れになって、1年。2人はあの日、ウクライナで見た光景を、今もはっきりと覚えています。

   ◇

侵攻が始まった去年2月24日、アルテムくんたちの自宅近くで撮影された映像には、ロシア軍のものとみられるヘリコプターが低空飛行し、黒い煙が立ち上っている様子が映されています。

私たちは去年3月、ポーランドの避難所でヴィカちゃんに話を聞きました。当時5歳だったヴィカちゃんは「ウクライナでは夜、眠れないし、落ちついてごはんも食べられない…」と訴えていました。

親子の心を支えていたのはーー1人でウクライナに残る父親とのテレビ電話です。

母親
「元気にしてる?」

父親
「元気だよ。今は外出禁止令が出ている」

戦争がなければ、家族4人で過ごせた時間…。

アルテムくん
「パパ、僕たちは元気だよ」

父親
「パパも元気だよ」

母親の肩に顔をうずめ、アルテムくんは泣き出してしまいました。

母親
「泣かないで。避難生活にも少しずつ慣れるよ」

母親のタティアナさんは、夫の「子どもたちを守るため、できるだけ遠くへ逃げてほしい」との言葉で、ドイツへの避難を決めました。

アルテムくんはケルンに来てからも、戦争の記憶に悩まされてきました。

アルテムくん
「ドイツが占領され、人がどんどん死ぬ夢をみた…」

避難するたび、ロシア軍の爆撃にあう夢――戦争によって、10歳の心は深い傷を負っていました。

   ◇

それでも親子3人、見ず知らずの土地で手を取り合って歩んできた1年。きょうだいは現地の小学校に通い始め、必死にドイツ語を学んできました。教室でヴィカちゃんは、ドイツ語で数字を数える勉強をしていました。

ヴィカちゃん
「アハツェーン (18)、ノインツェーン (19)、ツヴァンツィヒ (20)」

教師
「素晴らしい!」

先の見えない避難生活で2人が楽しみにしているのは、週に1回のダンス教室です。アルテムくんが見せてくれたのは、ウクライナの伝統的なダンス。「ウクライナのダンスは、心の支えです」とアルテムくんは笑顔で話します。

ふるさとのウクライナでは、ロシア軍によるインフラ施設への攻撃で停電が相次いでいます。電波状況も悪く、ウクライナに残る父親との電話はつながらないことが増えました。

この日、久しぶりにテレビ電話が通じました。家族が最も大切にしている時間です。

母・タティアナさん
「ヴィカは前歯が抜けたのよ。ほら、パパにも見せて」

アルテムくん
「(空襲警報は)減ったの?」

父親
「空襲警報は毎日あるけど、もう慣れたよ。怖さを感じなくなった」

アルテムくん
「でも、空襲警報は空襲警報だよね…」

アルテムくん
「僕たちはパパが大好きだよ」

母・タティアナさん
「あなたが恋しいわ」

父親
「僕も君たちを愛してるよ」

戦争に奪われた時間は、あまりにも長すぎました。アルテムくんとヴィカちゃんは“早く戦争が終わるように”と、ドイツの教会に通っています。

ヴィカちゃん
「元の生活に戻れることを願っています。ウクライナがロシアに勝ちますように」

アルテムくん
「戦争が早く終わるように、と、パパもみんなも自由に国を出られるようになってほしいと願っています」

家族4人、またウクライナで暮らせる日はいつ来るのか――1年がたつ今も、離れ離れの生活が終わる兆しは見えないままです。