現地日本人が直面したミャンマー医療崩壊
6月以降、新型コロナウイルスの感染が急激に広がり、クーデターの混乱もあって、医療崩壊に陥ったと指摘されるミャンマー。ヤンゴンで人道支援にあたる日本人女性がNNNの取材に対して語ったその実情とは…(NNNバンコク支局 平山晃一)
■事務所スタッフ5人が全員感染でパニック
ヤンゴンの事務所で、一緒に働いているミャンマー人スタッフが5人いますが、先月、全員がコロナに感染、もしくはコロナのような症状で倒れました。在宅ワークに切り替えていましたが、次々とスタッフが感染していき、感染経路はわかりません。自分以外が全員感染し、自分も、いつそうなるかわからないという不安もあって、パニック状態でした。
「熱が出た」とか「陽性になった」というだけではなくて「親戚が亡くなった」、その数日後に「あの人も亡くなった」というような連絡も毎日のように来ていたので、非常に深刻な状況でした。
■酸素を待つ間に亡くなるケースも 医療崩壊の実情は
知人が看病をしていた家族は、コロナの陽性の診断を受けていたんですけれども、どこの病院にも入院を受け入れてもらえませんでした。病状が悪化しても、家で看病するしかなく、酸素ボンベを何本もかき集めて、1本使ってる間に、他のボンベを充填するために走り回っていました。しかし、最終的に酸素が切れてしまって、次の酸素ボンベが到着するのを待っている間に、その家族は亡くなりました。
別の知人は、両親が体調不良でコロナのような症状が出ていたのですが、病院はいっぱいで受け入れてもらえず、結局、診断しないまま最終的に亡くなりました。遺体を引き取りに来てくれたボランティアの方に検査をしてほしいと依頼をしたんですが、やはり余裕がなくて、両親がなぜ亡くなったわからないまま、その方自身も、まだコロナと戦っている状況です。
■ミャンマーの感染者数 発表をはるかに上回る?
ミャンマーで発表される感染者数が、実態を反映していないことは間違いないと思います。私の働いている事務所で感染した5人の中に、公的な機関で検査を受けた人は1人もいません。そのため、5人とも、統計に反映されていません。迅速診断キットが薬局で手に入るので、自宅で検査をしている人が圧倒的に多いです。
■貧困層の診療には課題も
不服従運動に参加して職場を放棄している医療関係者への支援もしていますが、彼らは、軍に見つからないように、訪問診療をしたり、電話での診療を続けたりしている人もいます。医師が話していたことですが、例えば、電話での診療をする際に、その診療費がたとえ無料でも、電話代がないなど、経済的にかなり苦しい状況にある家族も多くいるそうです。
■医療崩壊でも…市民は医療関係者の不服従運動を支持
この医療崩壊の状態でも、不服従運動に参加している医療関係者たちが病院に戻るべきだと言っている人は、まわりには誰もいません。医療は足りないけれども、不服従運動は続けるべきだという相反する気持ちを市民は持っていると思います。
■軍を通した支援はいらないという声も
ワクチンや酸素ボンベなど、国際的な支援もありますが、市民や民主派からは、軍を通した支援だったら、支援してくれない方がいいというような声があるのも事実です。それは軍に関わる人たちが優先的に利益を得て、市民には届かないんじゃないかという危惧と、軍による統治の正当性を強めてしまうんじゃないかという懸念もあります。市民は、軍を通さない形でどうにか支援をしてほしいという希望を持っていると思います。