女性問題省の元職員「20年前の暗闇に」
イスラム主義勢力・タリバンは、女性の地位向上を目指して設置された、アフガニスタンの女性問題省を閉鎖しました。20年前、初代の女性大臣が「夢」とまで語っていた女性の人権改善。これまで積み上げた努力が無に帰すことに、元職員は絶望感を抱いています。
■15分あまり一気に語った思い
私たち女性は、社会的にも経済的にも文化的にも、独立した状況ではなくなりました。夫が働くだけでは、6人の家族を養うことはできません。子どもたちの将来は希望に満ちていましたが、残念ながら私は家にいて、彼らのために何もできません。
もし国際社会が何もできないのであれば、この20年の成果はゼロになります。アフガンの人口の半数以上は女性で、家にいてはアフガンの発展はありません。もちろん前政権にも問題はありましたが、少なくとも女性は働くことができました。私たちは、男女差別をなくすために20年間苦労してきましたが、いまではすべてが終わりました。
女性問題省は、仕事を再開するべきです。職員は家族を養うために働いていました。アフガンの女性の多くは紛争で夫を亡くし、家族を養っています。彼女たちが働けなければ、家族は空腹のために死んでしまうでしょう。
ご存じのように、アフガンの経済状況は非常に悪く、人々は銀行の前に並んでいます。給料なしで何日かはしのげるかもしれませんが、ずっとは無理です。国際社会はアフガンを助けるべきで、その支援は本当に貧しい人たちに分配されるべきです。
そして、支援を必要としている人を認定するのは、女性問題省の仕事でした。私はその仕事に取り組んでいました。アフガンの女性を助けたかったのですが、私は自分の命を守るために家に閉じこもっています。
私たちは危機に直面しています。女性が営んでいた手工芸品の事業は止められ、経済的に大きな損害を被っています。誰がこの責任を取ってくれるのですか?アフガン政府ですか?女性にとって良かったものをすべて壊したタリバン政府ですか?私たちは国のために働くことに人生を捧げてきましたが、残念ながら私たちはみんな家にいます。
タリバンがカブールを征服した日、私は職場にいました。午前10時ごろ職場から逃げ出し、タリバンに狙われないように車を使わず、歩いて午後6時ごろに帰宅しました。私はとても怖かったですし、誰の助けもありませんでした。政府の高官は、政府が崩壊することを知っていましたが、私たちに準備するようには言いませんでした。その日、家に帰り着き、私は“終わった”と思いました。
私は教育を受けていて、アフガン女性の将来のために重要な役割を果たしたいと思っていましたが、仕事、収入、社会的地位を失いました。娘が学校に行けないことにも苦しんでいます。タリバンは女性を抑圧するかもしれませんが、子どもたちに罪はありません。タリバンは学校を閉鎖し、将来を暗いものにしました。
この20年間で多くの成果がありましたが、いまでは20年前の暗闇に戻っています。いま国際社会が何もしなければ、私たちの人生は死んだも同然です。ですから、私は国際社会にアフガンの女性を支援するよう強く要請します。国や政府は、女性なしに前進できません。
■「飢えて死ぬくらいなら、直接殺して」
タリバンがカブールに進攻しておよそ20日間、女性問題省の職員は誰も家を出ませんでした。その後、男性職員の何人かが職場に行きましたが、タリバンは許可がないと言って、ゲートから入れませんでした。ついには女性たちも集まり、ゲートの前で抗議活動を行いました。私も顔を隠して彼女たちに加わりました。スローガンは、私たちの仕事と給料を取り戻したいというものでした。私たちは「飢えて死ぬくらいなら、直接殺して」と訴えました。しかし、結果は変わりませんでした。
別の日、タリバンは女性問題省の看板を下ろし、かわりに勧善懲悪省の看板を置き、イスラム法に違反した者への罰を決めました。彼らはすでに女性問題省の建物にいて、職員はそこにいません。女性問題省は完全に奪われてしまいました。
私たちが20年以上前に経験したこの組織は、女性が夫なしで、または、未婚の男性と一緒に出掛けたら、ムチで打ちます。髪を覆うヒジャブを着用していない女性を、ムチで打ちます。彼らは暴力的で危険な省庁を復活させたのです。誰もがショックを受け、恐れています。彼らは女性は沈黙するべきだと言っているのです。
かつてのアフガンの女性は状況を受け入れ、沈黙していました。しかし、アメリカ軍が駐留したこの20年で、アフガンの女性は変化し、発展してきました。私たちは治安の問題を抱えていましたが、女性たちはより良い未来のために奮闘してきました。
民主政権下で、女性の10%以上が指導者として働き、29%以上が公務員になり、17%以上がメディアで働いていました。これは女性が信じられないほど成功を収めたことを意味しています。しかし、残念ながら、いまはゼロになりました。アフガンはいま、誰も想像できない暗黒時代に戻っています。
■「国際社会がアフガンの女性にとって唯一の希望」
私の将来はタリバン次第です。タリバンが許せば、私は仕事に戻ります。しかし、私がみるに、環境は整っておらず、以前とは変わってしまいました。街でタリバンを見れば、みんな銃を持っています。誰がこのような状況で生きていくことができますか?どうやって仕事を続けることができますか?
もし、私の子どもの未来が暗いなら、娘が学校に行けないのなら、私は国を出るべきです。もちろん祖国は恋しいし、何かを失うことになりますが、子どもたちの将来のために、私はアフガンを去るべきです。
国際社会が、アフガンの女性にとって唯一の希望です。女性問題省を復活させ、女性を仕事や学校に行かせるべきです。これをタリバン政府にさせることができるのは、国際社会だけです。アフガンの女性のために、何か手を差し伸べてくれることを願っています。
(NNNバンコク支局 杉道生)
「アフガンからの声#10」
*写真:抗議デモをやめさせようとするタリバン戦闘員