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“まるで文革”…中国ゼロコロナ政策が大転換 「白紙革命」が残したものとは

2022年12月30日 10:00
“まるで文革”…中国ゼロコロナ政策が大転換 「白紙革命」が残したものとは
北京の市街地で起きた抗議デモ。多くの若者が白紙を手に声を上げた。2022年11月27日深夜

約3年にわたり続いてきた中国のゼロコロナ政策。容赦ない隔離措置や行動制限は厳しさを増し、現代版「文化大革命」とも言われた。しかし、中国全土に広がった「白紙革命」を機に事態は急転した。看板政策が事実上破たんした習近平政権は、試練を迎えている。
(NNN中国総局 森本隼裕)

■ゼロコロナと「文革」

中国は「建国の父」毛沢東の生誕から129年を迎えた。故郷・湖南省韶山(しょうざん)では2022年も、巨大な毛沢東像の前に大勢の市民が集まり礼をささげた。韶山では今も毛沢東を崇拝し、神格化する風潮が根強い。

2022年は「毛沢東」にまつわる言葉が目立った。第20回中国共産党大会では、習氏が毛沢東と並ぶ地位や称号を手にするのか注目された。中国メディアや党幹部は習氏を「人民の領袖(りょうしゅう)」と持ち上げた。「領袖」はかつて毛沢東をたたえた言葉とされる。

そんな中、特に印象に残ったのは「文革」だ。習氏の権威強化が進む中、異論を許さぬ息苦しい社会状況に「文化大革命」を想起する人も多かった。その象徴が、ゼロコロナ政策だ。強権的な行動制限は長らく人々を萎縮させてきた。SNSでは、防護服姿の当局者の横暴ぶりが目に余った。集団隔離のため住民を家から引きずり出す動画などが出回る。彼らは文革期の「紅衛兵」になぞらえ「白衛兵」と呼ばれ、習指導部の看板政策を忠実に実行した。ネットでは「文革2.0」という言葉も飛び交った。

■母親“密告”の元紅衛兵「まるで文革」

「まるで文革のような、信じがたい現象が起きています」――元紅衛兵で、現在は弁護士として活動する張紅兵さん(69)は11月中旬、このように懸念を示していた。

紅衛兵とは毛沢東を熱烈に支持して文化大革命を推進した青年組織。「革命」の名の下、10年にわたる暴力・破壊行為で多くの犠牲者を出し、終結後も中国社会に深い傷を残したとされる。張さんは文革に熱狂していた16歳の頃、家庭内の雑談で毛沢東を“批判”した母親を自ら密告。母親は逮捕され、銃殺されたという。張さんは2013年にメディアで母親への懺悔を公開。「私の理性を失った稚拙な行動により傷つけた全ての人に謝罪したい」と語った。

「あの悪夢のような体験を、未来の世代が二度と繰り返さないことを願っています」

張さんは現政権や政策への評価は語らなかった。ただ、ゼロコロナの中国社会には文革期と似た風潮も感じたという。

「防疫に関わる警備員やボランティアは、ひとたび赤い腕章と防護服を身につけると大きな権力を手にします。まるで昔、赤い腕章と軍服を身につけた紅衛兵のようです。“緊急事態”という口実で、個人の自由を思い通りに制限しています」

「いくつかの地域では一方的に通行を遮断し、病院を閉鎖します。身勝手に都市を封鎖し、市民の移動を制限する。こうした行為は文革と極めて似ており、正常な社会秩序を破壊するやり方です」

「感染対策」の名の下では、家財や農作物なども容赦なく処分される。こうした粗暴な手法も文革期の混乱を想起させたという。張さんは「衛生当局が(不正を)厳しく取り締まると表明したので、それを期待したい」と付け加えた。ところが、その1週間後、異例の事態が起きた。

2022年11月下旬頃から中国全土で抗議デモが相次いだ。ゼロコロナ政策を批判し、一部では「習近平は退陣しろ」などと一線を越えた内容も。「文革は要らない、改革がほしい」との声も上がった。言論統制を皮肉って白紙を掲げる動きも広がり、「白紙革命」と呼ばれた。

発端となったのは、10人が死亡した新疆ウイグル自治区ウルムチ市でのマンション火災だ。感染対策の封鎖措置で住民が避難できなかったとの指摘がSNSで拡散。当局側は否定しているが、コロナ規制による悲劇は過去にもあり、市民の怒りは頂点に達した。

実はこの頃、各地の居住区(団地)レベルでは、住民が団結して抗議し封鎖解除を“勝ち取る”という現象が起きていた。声を上げたことによる成功体験は次々とSNSで共有され、大規模な抗議デモの下地になったとみられる。

「3年」というのも1つのキーワードだ。ゼロコロナが始まってもうすぐ丸3年。SNSには「3年耐えた。まだ我慢しろというのか」などと、失望の声が数多く投稿されていた。デモの参加者で目立ったのは大学生を含む若者だ。VPN(仮想プライベートネットワーク)でネット規制を回避し、情報を共有している者も多い。中国でデモに加わるのはリスクもあるが、コロナ不況に伴う就職難など見通せない将来への不安も大きかった。

■「白紙革命」が残したもの

習指導部は看板政策の転換を迫られた。感染者数の実態把握を事実上放棄し、入国者の隔離義務の撤廃を決めるなど、「ゼロコロナ」の柱が次々と崩壊した。抗議デモの前から「緩和」を模索する動きはあったが、これほど極端な方針転換にはデモの影響があったのではないかと指摘する声も多い。

もちろん政府側も黙ってはいない。抗議デモ直後から各地に警察を大量配備し、沈静化を図った。香港メディアなどによると、デモの参加者が相次いで連行され、取り調べを受けているという。VPNの使用を取り締まる動きもあり、圧力は強まっている。

今後も「白紙革命」が命脈を保ち続けるかは未知数だ。しかし、抗議を通じて政策を転換させたという「実感」は、人々の記憶に刻まれたのではないか。

周回遅れで「ウィズコロナ」を模索し始めた中国では、早くも感染爆発と医療崩壊の危機に直面しており、新たな火種となりかねない。3年間で大きく傷ついた経済状況に国民の不満はくすぶり続けている。政権3期目が本格スタートした習氏にとって、2023年は試練の年になりそうだ。