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自然界で分解されない“永遠の化学物質”

2021年12月20日 13:01
自然界で分解されない“永遠の化学物質”

「永遠の化学物質」として知られるPFOA(有機フッ素化合物)の使用をやめる取り組みが世界中に広がっています。1人の弁護士が長年、巨大企業との闘いで暴いた「永遠の化学物質」による有害性。実話が映画化され、モデルの弁護士に話を聞きました。

2016年1月6日のニューヨーク・タイムズ紙にある記事が掲載されました。アメリカのウェストバージニア州で起きた環境汚染問題をめぐり、1人の弁護士が十数年にわたって大手化学メーカー・デュポン社との闘いを繰り広げてきた軌跡が報じられました。

その記事に驚いたアメリカの実力派俳優で、環境活動家でもあるマーク・ラファロさんは、もっと多くの人に知らせたいという思いから、その実話を映画化しました。題名は「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」です。

1998年、弁護士ロバート・ビロットさんは、農場を営む男性からデュポン社の工場からの廃棄物によって土地を汚され、19頭もの牛を病死させられたという訴訟依頼をうけました。

デュポンが発がん性のある有害物質の危険性を40年間も隠蔽(いんぺい)し、その物質を大気中や土壌に垂れ流してきたというものです。やがてビロットさんは7万人の住民を原告団とする一大集団訴訟に踏みきります。

しかし強大な権力と資金力を誇る巨大企業との法廷闘争は、真実を追い求める弁護士を窮地に陥れていくものでした……。

■環境汚染を起こした「永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)」の正体とは?

日本テレビのオンライン・インタビューに応じた弁護士ビロットさんは、「訴訟開始から1年後の1999年、裁判所から届いた膨大な廃棄物資料の中に“PFOA”という謎めいたワードに気付いた」と話します。

PFOAとは、「ペルフルオロオクタン酸」の略称で、人工的に作られた有機フッ素化合物で、水や油をよく弾くものの、自然界で分解されないことから「永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)」として知られています。

1950年代以降、調理器具や防水製品のコーティング材として重宝されました。しかし、1970年代以降、発がん性をもち、胎児が吸収すると低体重児として生まれる危険性があることが、アメリカやEU(=欧州連合)での研究で明らかになりました。

粘り強く調査を進めたビロットさんは、「デュポンが“PFOA”を材料の一つとして作った『焦げ付かないフライパン』は世界中で大ヒットした。利益を追求するあまり、“PFOA”の危険性を隠蔽し続けていた」といいます。

ビロットさんが20年以上、デュポンとの闘いを続けた結果、「永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)」の有害性が人々に認識され、その使用をやめる取り組みは、いま世界中に広がっています。

2019年、“PFOA”は国際条約でもっとも危険なランクの物質として認定され、日本では今年10月に経産省が“PFOA”の製造や輸入を禁止にしました。

■日本にも「永遠の化学物質」の汚染が広がっているとの指摘

「この『永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)』による環境汚染は、決してアメリカ・ウェストバージニア州という限定された地域で起きたものではない。世界中で問題となっている。アメリカのほかの州にも、ヨーロッパにも、そして、日本の沖縄米軍基地や化学メーカー工場周辺にも問題になっているとの報告がある」とビロットさんは訴えます。

日本国内では、フッ素樹脂製品の大手メーカーのダイキン工業によると、2015年12月末に“PFOA”の製造を中止しました。その前に作られたフッ素加工のフライパンには“PFOA”が入っていたという指摘があります。

また、“PFOA”の製造工場の周辺に流れる地下水に環境省が定める目標値の数十倍の“PFOA”が検出されたとの自治体による調査報告があります

世界各地で広がる「永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)」のリスク認識と対照的に、日本では、多くの人が「永遠の化学物質」という言葉すら耳にしたことがありません。

2019年に製作された映画「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」は12月17日に日本で公開。映画のモデルになっている弁護士ビロットさんは「映画の日本上映をきっかけに、もっと多くの日本人に、この問題を身近に感じてもらいたい」と期待を寄せています。

『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』
12月17日(金)、TOHOシネマズ シャンテほかロードショー
配給・宣伝:キノフィルムズ
(C) 2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.