【解説】ロシアに「焦り」か……ウクライナ西部攻撃で狙う“三重苦”、プーチン大統領“疑心暗鬼”? 諜報トップ軟禁の報道も
ロシアが、ウクライナ西部への攻撃を始めました。西側諸国につながる位置にあるため、今後激化も懸念されます。一方、ロシア諜報部門トップの軟禁が報じられるなど、内部分裂の可能性も指摘されます。両国の停戦協議は4回目となりましたが、今後の行方は――。
■キエフは…ロシア軍支配の状況
有働由美子キャスター
「14日朝時点のウクライナの状況を整理すると、ロシア軍の支配地域には、ほとんど変化は見られません。首都キエフで、ロシア軍が攻撃再開に必要な戦力を確保するのに時間がかかりそうだとも分析されています」
「注目なのはウクライナ西部、ポーランドとの国境から約25kmの場所にあるヤボリウです。ここに軍事施設がありますが、ロシア軍が新たにミサイル攻撃をしました。ロシア政治に詳しい慶応義塾大学の廣瀬陽子教授にうかがいます」
■西部へ攻撃…3つの「目的」
有働キャスター
「ウクライナの西部に攻撃を始めたことも含めて、廣瀬教授はロシアの焦りを感じるということですが…」
廣瀬教授
「ロシアは、キエフが思い通りに陥落できないので、非常に焦っていると思います。西部の攻撃については主に3つの目的があると思います」
「まず、ヤボリウの施設は、西側(諸国)からの軍事的な補給拠点です。軍事拠点というよりも、補給の面でロシアが警戒していると思います」
「数日前に(ロシアの)外務次官が、『欧米からの補給もロシアの攻撃対象とする』と言っているので、まさにそれを実践した形かと思います」
「また、西側からの経路は、キエフへの(食料や物資などの)補給路という意味でもとても大事です。キエフにまだ多くの人がいますが、兵糧攻めのようになってしまっています。食べ物などが届かないということもとても心配です」
「さらに、ポーランドに逃げる人も(ウクライナ)西側を通るので、非常に重要な経路です。そこに攻撃が加わるというのも厳しいところで、ロシアとしては『三重苦』をウクライナに与えるということで、西側の攻撃がさらに今後ひどくなる可能性があると思います」
■市長“拉致”カメラに…思惑は
有働キャスター
「市長が相次いで拉致されたという情報があります。南東部の街メリトポリの市長が連れ去られているとみられる映像が防犯カメラにも残っているほど、白昼堂々と連れ去るのは何か狙いがあるのでしょうか?」
廣瀬教授
「このような政治的な人はシンボル的な意味合いもあり、拉致することで、ウクライナ人の心が折れるということもあると考えられます」
「政治に携わる人の拉致が広まると、他の市の市長らも活動を手控えていくことがあると思います。そういうことによって、全体的にウクライナの士気を下げていく効果があるとみられます」
■4回目の停戦協議、進展の可能性は?
有働キャスター
「日本時間の14日午後6時前から、ロシアとウクライナの4回目の停戦協議が行われました」
小野高弘・日本テレビ解説委員
「今回はオンラインで行っています。どのタイミングで撮ったものか分かりませんが、写真を見ると、ウクライナの代表団は考え込んでいるようにも見えます」
「その1人は『今はそれぞれがそれぞれの立場を積極的に表明している。コミュニケーションは取れているが、難しい』とツイートしています」
「今もロシアが変わらず要求を押しつけ、それに対しウクライナが拒否するのが続いているようです。ただ変化の兆しもあり、双方から『何らかの合意ができるかも』という発言が最近になって出ています」
廣瀬教授
「(進展として)今考えられているのが、作業部会を作るということです。それができると、個別具体的な話がかなり少人数でできるので、具体的に少しずつでも進展がみられる可能性があるのでは、ということが期待されています」
有働キャスター
「具体的にはどんなことでしょうか?」
廣瀬教授
「例えば停戦を一時的にも行うなどですが、根本的にはウクライナとロシアの両方の言い分が相当食い違っているので、なかなか厳しいものがあると思います」
■FSB部門トップら“軟禁”か
有働キャスター
「気になる、プーチン政権内部の話も出てきています」
小野委員
「プーチン大統領に正確でない情報を報告したとして、ロシアの治安機関『FSB』(連邦保安局)で、ウクライナでも工作活動をしていたとみられる諜報部門トップのセルゲイ・ベセダ氏らが軟禁されていると、ロシアの独立系メディア『メドゥーザ』が報じました」
「長くFSBを取材してきたジャーナリスト2人の情報として伝えたものです。プーチン大統領はかつてFSB長官を務めていたので、信頼していたとみられます」
「今回、この部門がプーチン大統領を怒らせないよう、聞き心地の良い情報ばかりを報告していた。その結果、キエフ攻略などが思うように進まず、プーチン大統領が誤りに気付いて、懲罰として軟禁したと伝えられています」
■疑心暗鬼に…プーチン氏の判断は?
有働キャスター
「独立系メディアが伝えた情報ということも含めて、どう受け取っていますか?」
廣瀬教授
「ロシアの中でも、内部分裂的なものが広がっている可能性があると思います。このような情報が外に漏れるのは、プーチン大統領にとっても決して良いことではありません」
「そして、今回のことでFSBの情報には疑心暗鬼になり、今後、軍の情報総局であるGRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)にプーチン大統領の依存度が高まるのではないかとも言われています」
「FSBとGRUはもともと関係が良くありませんでした。お互いに、いかにプーチン大統領に気に入られるかで得点稼ぎをし合っていたところがあります。ここでロシア国内の乱れも露呈されてしまった形になると思います」
有働キャスター
「内部が乱れてくると、今後プーチン大統領の判断・決断には何かブレが出てきたり、変わってきたりするのでしょうか?」
廣瀬教授
「おそらくGRUの方がより、戦況に即した正しい情報をインプットしていくと思うので、判断としては、よりましになる可能性はありますが、プーチン大統領の疑心暗鬼のようなものが拡大することで、むしろブレにつながっていく可能性もあると思います」
(3月14日『news zero』より)