対立激化…トランプ氏を猛追するデサンティス知事の勢いは本物か?現地取材で考えた
来年行われるアメリカ大統領選をめぐり、野党・共和党の候補者レースが早くも白熱し始めている。「大本命」のトランプ前大統領を、デサンティス・フロリダ州知事が猛追しているのだ。その勢いはトランプ氏を脅かすことができるのか。両者の集会を取材し、両陣営の現状と課題を分析する。
(ワシントン支局・渡邊翔)
■支持者熱狂も・・・空席目立つトランプ氏の演説会場
「トランプは2024年に大統領になるだけじゃない。永遠だ。この群衆を見てくれ、トランプ派は強く、強固だ!」3月4日、全米最大の保守派イベント「CPAC(保守政治行動会議)」の最終日。トランプ前大統領の演説を聞こうと多くの支持者が詰めかけ、興奮した様子で我々のカメラに語りかけた。
イベントの大トリとして登場したトランプ氏。バイデン政権下のアメリカの現状を「衰退した国家」と批判し、2024年の大統領選を「最後の決戦」と位置づけた。
「2016年、私は『私はあなたの声になる』と宣言した。今日私は、『私はあなたのための戦士であり、あなたのための正義だ』と付け加える。私は不当な扱いを受け、裏切られた人たちのための『報復者』だ」
支持者の大歓声に、ときおり満足げな表情を浮かべたトランプ氏。ただ、会場後方には空席が目立っていた。
■「トランプ集会」と化した全米最大の保守派イベント
CPACは本来、穏健保守派も含めた幅広い保守政治家らが集まり、共和党支持者らがそのスピーチに耳を傾ける。しかし今年の登壇者には、トランプ氏の元側近であるスティーブ・バノン氏、「トランプ氏の副大統領になり得る」と支持者から評される元保守系キャスターのキャリー・レイク氏、さらに「ブラジルのトランプ」の異名を持つボルソナーロ元大統領など、トランプ派・保守強硬派の人物がずらりと並んだ。
一方、例年出席する共和党の上下両院幹部や、次期大統領選の有力候補は軒並み欠席。中でもトランプ氏に次ぐ人気を誇るデサンティス・フロリダ州知事は、別の保守系団体が全く同じ時期に主催したイベントに出席した。アメリカメディアは「トランプとデサンティスがそれぞれのイベントのヘッドライナーとして競い合う」などと盛んに報じた。
共和党内の分断があらわになった今回のCPAC。ある外交筋はその様子をこう評した。「恐ろしい集まりになったという印象だ。保守派の集まりではなく、トランプ派の集まりになっていた」
■「大統領図書館」で講演・・・デサンティス氏、全米各地訪問で準備着々
このトランプ氏の演説の翌日、私は西部カリフォルニア州にいた。デサンティス知事が、自伝の出版を記念した講演を行うのだ。その舞台は「ロナルド・レーガン大統領図書館」。大統領図書館は、大統領が退任後、在職中の記録を保管し、功績を紹介するために建てられるが、特にレーガン図書館は、大統領専用機「エアフォースワン」の実物が展示されるなど、圧倒的なスケールを誇っている。
1000人ほどの聴衆で埋まった会場にデサンティス氏が登場すると、大きな拍手と歓声があがり、会場は熱気に包まれた。
「我々はフロリダ州が、(ロックダウンや行動制限によって)人々の権利が制限され、生活が破壊されるような暗黒世界になることを拒んだ。人々を職場に戻し、州内のすべての学校を(早期に対面で)再開させた」「小学2年生に『性別は選べる(=性自認の多様性)』と教えるのは間違っている。フロリダ州では、そのようなことは起こらない」
トランプ派のいち議員だったデサンティス氏が知事として台頭するきっかけとなった「新型コロナウイルスへの対応」や「超保守的な教育政策」。こうした看板政策に言及すると、聴衆はスタンディング・オベーションで応えた。
デサンティス氏はまだ大統領選への出馬を正式表明していないため、内容は知事としての業績のアピールが中心だ。しかし「大統領」を象徴するエアフォースワンの側に立つ姿は、その「意欲」を雄弁に語っているように感じられた。
講演後「いつ2024年大統領選に関する発表をするのか?」と声をかける私を一瞥し、会場を後にしたデサンティス氏。「デサンティス大統領」を共和党支持者が期待する理由は、参加者のひとりのこの一言に集約される。
「デサンティスのような候補なら、トランプには投票しないという無党派層、さらには保守的な民主党支持者の一部の票も取れるかもしれない」
3月に入り、「自伝の出版ツアー」と題して各州を回るデサンティス氏。共和党の大統領予備選挙が最初に行われるアイオワ州に入るなど、着々と出馬に向けた布石を打っている。
■それでもなお強い「様子見」の雰囲気 トランプ氏は攻撃強める
一見すると、勢いに乗っているようにも見えるデサンティス氏。しかし、共和党の予備選を想定した米メディアなどの世論調査では、トランプ氏が依然として大きくリードしている。例えば2月後半のFOXニュースの調査では、トランプ氏43%、デサンティス氏28%。2月以降、トランプ氏がデサンティス氏との差を広げる調査も出てきている。有力政治サイト「アクシオス」は、トランプ氏がオハイオ州の列車脱線事故現場を視察したことや、直近に訪問した州で、小規模な地元の飲食店をサプライズ訪問するなど、今までにない動きを見せたことがプラスに働いたのではないかと分析している。
また今回、2人の集会から見えたのは、トランプ氏の牙城を崩すことの難しさだ。CPACはトランプ氏が支持を広げられず、党全体を掌握できていない現状をあらわにしたが、同時に岩盤支持層の変わらぬ強い結束も示した。さらに、デサンティス氏の講演に参加した共和党支持者からも「まだトランプのことも支持している。デサンティスに十分な力があるかどうか、見極めないといけない」「トランプは多くのことを成し遂げたけど、デサンティスはまだフロリダだけだ」などと、様子見の姿勢を示す声が目立ったのが印象的だった。トランプ氏の元側近バノン氏は私に「デサンティスは良い男だが、外交経験もないだろう。いまは”戦時”なんだ」と指摘したが、出馬前で政策の全容が見えない点も、見極めが難しい理由のひとつだ。
こうした中、トランプ氏は最近、自身のSNSで「彼が知事になる前からフロリダの業績は良かった」などとデサンティス氏を盛んに攻撃している。また、年明け以降の集会ではほぼ毎回、デサンティス氏の看板政策である「教育」に言及。「親の権利のために戦う」「子どもたちに我々の歴史と伝統を教え、自分たちの国に再び誇りを持てるようにする」などと、デサンティス氏と同じような路線の主張を行い、争点の打ち消しを図っている。
フロリダ州議会の会期が終わる5月以降に、出馬表明を検討しているとされるデサンティス氏。それまで最短でもあと3か月。トランプ氏の攻撃をしのぎ、予備選でトランプ支持層を引きはがすことができるのか、真価が問われるのはこれからだ。