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【専門家に聞く】米ペロシ議長“訪台”報道で中国反発 衝突の可能性は? 習指導部が狙う“台湾統一のシナリオ”は…

2022年8月2日 21:49
【専門家に聞く】米ペロシ議長“訪台”報道で中国反発 衝突の可能性は? 習指導部が狙う“台湾統一のシナリオ”は…

アメリカのペロシ下院議長の台湾訪問が報じられる中、反発する中国軍が活動を活発化させています。中国・台湾関係に詳しい専門家は、「中国側は弱腰と見られないよう軍事的パフォーマンスで警告してくるが、本当の米中対立に発展しないよう十分に制御する」との見方を示しました。

【中国・台湾関係に詳しい東京外国語大学 小笠原欣幸教授の話】

──中国の反発の原因は?

「米国の上下両院の議員が台湾を訪問し(台湾の)蔡英文総統と会談することはこれまでも何度も起こっていることだが、今回は(ペロシ下院)議長ということで、中国がアメリカから台湾への関与のレベルが上がったとみていることが(反発の)大きな理由になる。また、最近は各国の議員団、特にヨーロッパの議員の台湾訪問が相次いでいる。中国からすればこういう展開は非常に望ましくないと考えていて、今回、ペロシ議長の訪問がそのままやり過ごされることになると、いろいろな国の議員や議長が続々と台湾を訪問することにつながりかねないとの警戒感を持っているので、ここで大きく釘を刺しておこうと動いて来ていると思う」

「中国の国内事情もある。この秋に習近平中国共産党総書記(国家主席)の三選がかかる党大会が控える。党大会を前に弱腰であると見られるのはどうしても避けたいので、今回は強く警告を行って、実際にペロシ議長が訪問した場合には強い行動に出る可能性が高いとみている」

──中国共産党の党大会が秋に控えていることが習近平指導部の行動に与える影響は?

「2つの異なる影響を与えるとみている。ひとつは、党大会前に弱腰と見られては大変なので、強い警告の行動を行ってくる。しかし同時に、党大会とは中国共産党にとっても習主席にとってもものすごく重要なイベント。党大会では習主席が10年やってきた様々な成果を大々的にアピールする予定になっている。その中にはアメリカとの関係や、台湾統一に向けての成果などをアピールする予定になっている。ところがその直前に、今回の議長訪問をきっかけに台湾海峡危機や米中の軍事的対立までに仮にエスカレートしたとすると、習近平が『これまでうまくやってきているじゃないか』と言っていたのが崩れていくことになる。習近平にとっても計算外の事態が出てこないとは限らない。これが習近平指導部にとっては 一番警戒すべきことだと思う。(ペロシ議長の訪台には)決して弱腰だと見られないように大きな(軍事的)パフォーマンスで台湾やアメリカに対して警告をしてくる。一方で、それが本当に米中の、特に軍事的対立に発展しないように十分制御して動いてくると私はみている」

「むしろ心配するべきなのは、共産党大会で習近平が三選を確保した後、これからの5年間がまさに台湾統一に向けて動いていく時期になる。ペロシ議長の台湾訪問があろうとなかろうと、中国の台湾への軍事的圧力は強まる状況にある。我々もこの2、3日の状況の展開だけを注視するのではなく、これから5年間、統一に向けた圧力が強まると見据えておいて、どう抑止するのかをしっかりと取り組まなければならない」

──現場レベルでの偶発的な衝突の可能性は?

「(仮に偶発的な衝突があれば)たしかに大変な事態に発展していくと思うが、中国で党大会を控えて、そのような事態が発生するのは習近平本人にも望ましくないし、そういう動機がない。アメリカにも(エスカレートさせる)動機はない。基本的には制御されると私はみている」

──バイデン政権でアメリカの対台湾政策に変化は?

「バイデン政権がこれまでの政権と異なっている点は、中国が台湾統一に向けてかなり動きそうだという警戒感が高まってきていて、黙っていると中国が力ずくで台湾統一を成し遂げてしまう可能性が高くなっている(と認識していること)。だから抑止をより重視するようになってきている。これがいまのバイデン政権の台湾に関しての中国への姿勢の基本だ。アメリカが台湾を重視しているとメッセージを発することがものすごく重要。バイデン政権になってからも議員や大統領自身がいろいろな形で台湾関与のメッセージを出している。中国からするとそれは認められないと考えるので、どうしても摩擦は避けられない」

──中国の現状の台湾政策は?

「中国は台湾の平和的統一というのをずっと大方針として鄧小平以来掲げている。習近平も平和的統一と言い続けている。もともとは、台湾の中に親中政権を打ち立てて、その台湾の政権と統一に向けた協議を進めていき、台湾が納得するという形をとって統一に持ち込むのが中国共産党のシナリオだった。ところが、台湾の民意というものが統一はいやだというのがもうはっきりしてしまった。この先、台湾で何回選挙をやっても、親中派が政権につくということは考えられなくなっている。中国共産党もだんだんそこを認識しはじめていて、特に軍事的な圧力を強めて、台湾の政権も民意も丸ごと屈服させる、中国と統一する以外にないという風に思わせる、こういうやり方にシフトしてきている。これは専門家の間で『強制的平和統一』と呼んでいる。こういうやり方が今の習指導部が狙っている台湾統一のシナリオだと思う」

──台湾側は今回のペロシ議長訪問をどう見る?

「今回のペロシ議長の訪問に関しては、台湾がすごく積極的であったというよりも、ペロシ議長の方がかなり強い意思を持って動いていたという状況が見えてきている。台湾としては、淡々とペロシ議長の訪問を迎え入れるスタンスだと思う」

「それから中国が今過剰に反応して様々な脅迫的な声明を発表したりしているが、台湾はこういう中国の脅迫にはもう慣れている。蒋介石の時代から70年以上、中国の脅迫を受け続けてきている。その中で、台湾の一般の人々は、中国の脅迫にいちいち踊らされていては仕方がないというのを身をもって(理解している)。そして、いちいち反応することが中国の思うつぼにはまるということもよくわかっている。だから台湾の社会の反応は冷静であり、これは非常に重要」

「習近平指導部にとっても今の状況が望ましくないことはわかっていると思うが、だからといって台湾統一を諦めるのかというとそうはならない。私たち台湾の近くにいる日本としても非常に重要な、目を背けることのできない現実だと思う」