タリバン女性抑圧の“象徴”「勧善懲悪省」に密着取材 恐怖支配の実態とは
■復活した勧善懲悪省…どんな組織?
今年8月、私たちは首都カブールにある勧善懲悪省の建物を訪ねた。道を挟んだ反対側に大きなショッピングモールもあり、繁華街の一角に位置していた。敷地を囲む高い塀には、女性たちに全身を覆うブルカの着用を呼びかける看板。今回私たちは、反イスラム的な言動を取り締まる職員たち、いわゆる宗教警察官のパトロールへの密着取材を許可された。
勧善懲悪省は20年以上前の旧タリバン政権時代、イスラム法の極端な解釈に基づき、テレビや映画、音楽といった娯楽を禁止し、女性に全身を覆うブルカの着用を義務づけるなど、厳しく取り締まっていた。むち打ちといった暴行や公開処刑も実施するなど、恐怖支配の象徴的な存在だったとされている。2年前のタリバン暫定政権発足時に復活し、女性に対して目以外の顔を覆うことや1人での遠出を禁じる命令を出したり、最近では美容室の閉鎖を命じたりして恐怖支配を強めている。
復活した勧善懲悪省の建物があるこの場所、実は前民主政権時代には女性の地位向上のために設置された「女性問題省」があった。当時は多くの女性職員が働いており、施設内には託児所も設けられていたという。女性の権利を守っていた役所が、今では女性を抑圧する役所に置き換わってしまったのだ。
■タリバン復権で結婚式に変化も…
部屋で簡単な打ち合わせを終えると、職員らは清廉さを意味するという白衣を身につけて車に乗り込んだ。途中で武装した警察官も合流し、物々しい雰囲気に。取材をする私たちにも緊張感が走った。
まず彼らが向かったのは結婚式場。非常にきらびやかな場所だ。アフガンでは前民主政権時代、豪華で大人数を集める結婚式を行う風習が広がった。男性と女性の招待客でホールが分けられていて、職員はホールを隔てる壁をチェックしていた。女性用ホールの音や声が漏れないように、勧善懲悪省の指示で防音壁が設置されたのだという。
アフガンの結婚式をめぐっては、こんな圧力も。タリバンは「若者を惑わせ不道徳」だとして、音楽を事実上禁止しており、取り締まりを強化している。今年6月、勧善懲悪省が結婚式における音楽の演奏禁止を改めて通達した。これまで厳しい取り締まりは行ってこなかったが、結婚式場から押収した楽器を燃やす写真を公開するなど厳しい姿勢をとっている。
かつては音楽であふれ、盛り上がっていたアフガンの結婚式。式場の関係者からは「結婚式で音楽がなかったら、結婚式と葬儀の違いは何なのか」といった不満の声が上がっていると地元メディアは伝えている。
■慌てて顔を隠す女性も…
勧善懲悪省の職員は街中でも監視の目を光らせていた。大通りを走る車1台1台をチェックし、違反がないか確認していく。
勧善懲悪省の職員
「音楽を聴いていなかったか?」
市民
「聴いていませんよ」
勧善懲悪省の職員
「音楽を聴くことは罪だからな」
市民
「私はイスラム教徒だから知っていますよ」
音楽のほか、近親者以外の男性が女性と横並びで座っていないかを確認していた。通りかかった車の女性が、職員に気づくやいなや慌てた様子でスカーフをずらし顔を隠す様子も。市民に恐怖が植え付けられているとも感じる場面だった。
■恐怖支配の実態は…
今回、勧善懲悪省の職員が私たちに見せたパトロールの様子は、あくまでメディアにみせるためのパフォーマンスに過ぎない。実際は、少し髪が見えていたといった理由で女性に暴行を振るったり、時には身柄を拘束するケースもあるという。
美容室の閉鎖命令直後、ひそかに営業していた美容室に結婚式を控えた花嫁が訪れ、女性美容師とともに逮捕されたケースもあったと伝えられている。勧善懲悪省の報道官は、女性の権利に関する命令は女性を守るためのものであり、抑圧ではないと繰り返し主張しているが、言葉と現実とのギャップには戸惑うばかりだ。
白衣姿の職員によるパトロールは、まだ街中で頻繁にみかけるというものではない。それでも勧善懲悪省は今年6月、監視強化のために新たに200人の職員を採用すると発表した。宗教警察官らによるパトロールのほかにも、タリバンは街中に数多くの検問を設置している。治安維持が名目だが、実態は市民の監視の意味合いも強いと感じた。タリバンによる恐怖支配の復活で、多くの市民、特に女性たちは恐怖にさいなまれている。