×

国際女性デー:祖国思うウクライナ人京大生「私たちは強い」日本の女性向けに起業

2022年3月8日 20:20
国際女性デー:祖国思うウクライナ人京大生「私たちは強い」日本の女性向けに起業
京都大4年で起業家アンナ・クレシェンコさん
3月8日は国際女性デーです。祖国ウクライナを思い、京都で勉学と経営に励む女性が居ます。京大4年生で起業家のアンナ・クレシェンコさん。祖国の戦渦に眠れない日々を過ごす彼女は、女性の思春期から更年期まで寄り添うアプリ開発など、女性の悩み解決に奮闘しています。

■空手きっかけに来日・京都へ

京都大学法学部4年生のアンナ・クレシェンコさんは、国立オデッサ大学を卒業後、空手をやっていた縁で好きだった日本へ。2018年に京都大学入学。当初は外交官希望でしたが、留学中にウクライナに住む従姉妹が産前うつになった事をきっかけに、女性の健康を支えたいと起業しました。

そこには米国シリコンバレーで知った「社会的起業」という概念があり、女性特有の健康やメンタルヘルスという「社会的課題」に日本で挑戦したいと考えたといいます。

■社会的課題に挑む

2020年12月に起業したFloraでは、女性の思春期から更年期まで各ライフステージでのカラダの悩みに寄り添うサービスを提供しています。アンナさんは日本には悩みを言いにくい文化があり、正しい知識で理解を深めることで、環境が変わればと話します。

■家族がいる祖国「ウクライナ人には強いDNAがある」

アンナさんはウクライナ南部の港町オデッサ出身。日本テレビに見せてくれた動画には和気あいあいと家族で食事する様子が映っていました。いま毎日、祖母や母と連絡をとると言いますが、ウクライナで起きていることは「悲しいし、怒りもあるし、信じられません」と声を詰まらせます。「一瞬にして生活が変わった」ことに心身ともに疲弊し「早く終わって欲しい、止めなければいけない」と訴えます。

祖国の家族を思うと寝られない日々だというアンナさん。多くの友人が避難をよぎなくされています。そして次に家族に会えるのはいつになるのか見えません。「故郷で会える日を望みますが、ダメなら移住してでも家族に会いたいです」

国外に脱出せざるを得ない人が急増するなかウクライナの人たちの国民性を問うと。「過去の歴史でも多くの大変なことが起き、にもかかわらず(ウクライナ人は)生き残った人たちです。DNAには、そういう強さがあると思います」「第二次世界大戦でも舞台になりましたが地理的な位置からしても、強い人しか住んでいません」と静かに話します。

■日本の人の気持ちが心強い

いまの心の支えは日本の人たちの優しさだと言います。「周りは素敵な人に恵まれていて。ウクライナのためにと給料を寄付した従業員も居ます。人の気持ちを感じ、それだけで心強いです」

現在25歳。3月に大学を卒業したあとは起業家として女性のケアに頑張りたいと話します。

■日本女性の“孤独”を救いたい

コロナ禍で増えたとされる「健康の悩み」や「鬱(うつ)」。そのなかでも産前・産後のうつは女性ホルモンの影響を受けるとされます。こうした女性のカラダの変化はメンタルに影響するため、女性特有のカラダについて理解が大事だと言います。

ただ日本の女性は「自分の気持ちを周りの人に表現したくない人が多い」とアンナさんは話します。
「世界中にそういう人はいると思うのですが、日本にはそういう人の割合が高いと感じます。自分が苦しんでいることを誰かに言ったら弱いと思われる恐怖があるのではと思います」「産前産後うつになりやすい方々は自分だけがダメ、な母親だ、自分だけが時間をつくれていない、と思いがちです。意識が高い人たちが産後うつになりやすいです」

厚生労働省などによると、産後うつは、出産から起こる疲労やストレス、脳内神経伝達物質やホルモンの変化が関係するとされますが、詳細は分かっていません。産前うつも産後うつも、初めての妊娠・出産だけではなく2人目の子供の場合も起きうるとされます。

実際にアンナさんの従姉妹は2人目の子供を妊娠中に産前うつを発症、体調を悪化させ子供を亡くしたといい、彼女の夫は航海士で不在が多く、孤独を感じていたのではと話します。

■女性の孤独を防ぐには?

Qどう解決?

「産前産後うつなどメンタル不調を発症している人たちは“孤独感”が大きな課題です。だからひとりとセラピストではなくグループをつくって所属感を感じ、他の人たちも同じ事を感じていると理解してほしい」と語ります。

本人の置かれている環境を変えるためには①自身も周りも、メンタル不調を発症している人が多く居ると知ること②そしてメンタル的な苦しさを感じている人は、周りに声かけ、助けを求めて良いと感じること、が大事だといいます。

現在アンナさんの会社では、助産師などが参加するオンライン講座のほか、ヨガや瞑想など自分と向き合う時間のサービス、大阪大とのAIを使った情報提供アプリの開発、ユーチューバーなどの参加もある性教育を行っています。

■更年期ケアに注目“見落とされた年代”

アンナさんは3月、月経・妊活アプリFloraの改訂版をリリースしました。健康に関する情報に特化し、美容など「女性はこう」というジェンダーバイアスを取り除きたかったと話します。

そして年内に開発を目指すのが「更年期ケア」のアプリ。月経や妊活に対応したアプリは他にも存在するものの、更年期対策のアプリは見当たらず、年内のリリースを目指しています。「更年期にフォーカスした理由は、最近40代50代の女性が増えている一方で、かなり見落とされている年齢ではないかと思ったからです」。カラダの変化を記録し、症状をやわらげる食事やヨガなど解決策を準備し、各自に合ったものを提案したいと話します。

未開拓のフェムテック市場そして「孤独」という現代の病。コロナ禍で改めて環境を見直し、自分らしく過ごせることにつながれば、と願っています。

アンナさんは大学卒業後4月からは経営に集中します。日本の知恵とウクライナのIT技術を融合させ、いつか将来、日本で花開き始めた女性向け事業が「ウクライナの女性も救う」ことになればと夢を描いています。