ロシアの経済制裁耐久力は?制裁のカギとなる物資は
ウクライナ侵攻が始まって以来、米欧日などはロシアに対して金融やエネルギーなど様々な経済制裁を科しています。当事者それぞれに痛みを伴う制裁はロシアの戦意をくじくことはできるのでしょうか。5月19日放送のBS日テレ「深層NEWS」では、ロシアNIS経済研究所所長の服部倫卓さん、経済評論家の加谷珪一さんをゲストに今のロシア経済の状況やロシアの制裁耐久力、そして経済制裁のカギとなる物資とは何か、徹底議論しました。
■ロシア国内のインフレは
右松キャスター
「ロシア国内ではインフレが続いていますが、物価上昇は食費に比較的お金がかかる低所得者層を直撃します。ロシア経済の現状をどう見ていますか?」
服部倫卓氏
「今日読んだニュースで驚いたのは、ロシアのオレシキン経済補佐官が『ロシアは近いうちにデフレになる』と。『3月の前半の極端すぎた値上がりが元に戻って、値下がりしていく局面に入っていくだろう』というようなことも言っています」
「デフレまでいくかどうか分からないですが、インフレが3月前半だけでほぼ収束したことは事実です。ルーブルレートもだいぶ落ち着きましたし、いわゆるハイパーインフレに陥っているような現状では全くありません」
■ロシアの経済制裁「耐久力」とは
右松キャスター
「ロシアは2014年のクリミア併合から経済制裁を受け続けています。ロシアが持っている経済制裁の耐久力をどう見ますか?」
服部氏
「長い歴史を見ても、そもそも経済制裁というものがある国の行動やレジーム(体制)を変えるということは現実的には難しいと言われています」
「ロシアという国自体がさまざまな革命、世界戦争、飢餓、市場経済への転換など、いろいろ難しいことを経験してきて、国民が何十年か一度に来る危機への耐性ができているというのはやはりあります。例えば、経済危機が迫っているという予感がすると、あれこれ食品を買いだめしたり、ロシア国民は『ダーチャ』という簡単な別荘を持っていて、そこで野菜を育て自給自足の生活をしたり。中高年以上は『いざというときは』というライフスタイルや知恵が備わっているということがいえます」
右松キャスター
「ロシアの国家としては、経済制裁などに対する耐性はどうなのですか?」
加谷珪一氏
「ロシアは旧ソ連崩壊後、一時期は自由主義経済的なものを目指した時期があったのですが、特にクリミア侵攻後、西側諸国から制裁を受けたので、その後、プーチン政権はこれまで輸入調達したものをできるだけ国内産に切り替えるという政策を続けてきました」
「国民も比較的危機に耐えうるマインドを持ち、産業構造もあまり海外に依存しない体制を作ってきたという面があるので、制裁をかけている側からすると非常に厄介なんですが、ロシア経済は意外と持ちこたえてしまうのです」
「また、ロシアの中央銀行総裁が非常に優秀な方で、制裁が加えられた直後に、金利の大幅な引き上げから、外貨への厳しい制限など、矢継ぎ早に政策を繰り出して、これが功を奏してしまっています。ルーブルも落ち着き、今のところ、なんとか耐えられていると思います」
右松キャスター
「通信簿を付けるのは難しいですが、軍事侵攻以降、世界各国はロシアに対するさまざまな制裁を行っていますが、いまの段階での効果はどのぐらいあると見ていますか?」
加谷氏
「政治的にはそれなりの効果があったのですが、実際にロシア経済にダメージを与え、戦争行為をやめさせるとか、ロシアの体制をひっくり返すとかというところを最終目標にするということを前提にすると、70点には届いていない印象です」
右松キャスター
「いまは原油価格もガス価格も上がっています。エネルギー制裁で輸出量を絞ったとしても、取引価格が高いのでロシアにおける利益はどう見ますか?」
加谷氏
「そうなんです。これは痛し痒しでロシアからの原油、天然ガスを禁輸すればロシアにはダメージにはなるのですが、当然供給量が減りますから全世界的にさらに資源価格が上がります。そのときにロシアがわずかでも輸出ができていれば、ロシアはその分は儲かってしまうという形になりますから、抜け道を完全にふさがないとやはり100%の効果は得られないのです。いまその矛盾点が露呈してきている感じだと思います」
■経済制裁の長期的効果は「イノベーション低下」
右松キャスター
「いまロシアの若い国民の海外流出が指摘をされています。また海外企業も撤退し、優秀な人材が少なくなると、イノベーションや生産性の低下も考えられます。制裁の効果は長期で見ていくべきなのでしょうか?」
加谷氏
「むしろ経済制裁の本当の効果はおそらくそちらの方が大きいだろうと思います。ただ目先、ロシアを封じ込めなければいけないということがあるので、悠長なこと言っていられるかという意見も当然あるかと思いますが、やはり経済制裁をかけることの最大のメリットは、かける側からすれば長期的な成長の原動力を抑えることができるということになります。いまはなんとかロシアは耐えていますが、これが5年、10年というスパンで見ると、相当イノベーションなどに影響があるはずです」
■半導体の調達が戦争継続の可否に影響?
右松キャスター
「今後、自給自足国家になっていくのでしょうか?」
服部氏
「ロシアには中国やインドのようなパートナーがいますので、完全に閉ざされた世界ではないにしても、グローバル経済の主流からは隔絶された、ジリ貧の国になっていくと思います」
「1つ付け加えたいのは、もちろん制裁は中長期的な打撃がいちばん大きいと思いますが、実は短期的にもそれほど捨てたものではありません。例えば、ロシアは何でも資源は国内にあるから自分たちで何でも作れるという思い込みみたいなものが非常に強いんですが、実はカギとなる半導体や部品などの物資を輸入に依存している例は非常に多いのです」
「実は制裁が始まって各企業はいままで在庫の手持ちの原料や部品で生産を続けてきたのですが、5、6月ぐらいになるとそろそろ尽きて、いよいよ生産活動が厳しくなるということが連鎖的に広がり、ロシア経済がどんどん落ち込んでいくということはかなり現実的に起きうることだと思います。それはもちろん軍需産業にも言えて、それによって戦争継続能力が低下していくということを考えられるので、短期的にもそれほどまだ絶望することではないと思います」
右松キャスター
「『産業のコメ』と言われる半導体分野でロシアがこのまま輸入ができなくなるのは大きいですか?」
加谷氏
「非常に大きいはずで、ロシアも相当警戒しています。自動車部品や電子機器、半導体は中国とドイツから輸入しているのが多いのです。言い方を変えると、中国とドイツがどれだけロシアに戦略物資を提供しないかでロシアに対する打撃は相当変わってきます」
読売新聞 飯塚恵子編集委員
「フィンランドの中央銀行であるフィンランド銀行付属の研究機関『BOFIT』は先週10日に発表した最新報告書で、かなり深刻な見通しを示しました。ロシアがこのまま輸出入の双方が禁じられ、国際経済からのデカップリングが続けば、最悪の場合、GDPが33%落ち込むという数字を出しています」
「報告書は『海外からの禁輸によるダメージを最も受けるのはハイテク産業。輸入部品が供給不足で調達できず生産が激減。また、輸出が禁じられることで石油精製、木材、炭鉱業も深刻な影響を受けつつある』ということで、かなりのダメージは起き始めているという分析です。今後の注目点として『現状は欧米先進国による制裁が中心だが、今後、新興国が制裁に加わればさらに大打撃となり対応が注目される』とも指摘しています」
右松キャスター
「ASEANもなかなかロシアに対して一枚岩になれない現状があります。世界観や歴史観で戦っているともいわれるプーチン大統領の戦意をくじくことは?」
服部氏
「そもそも合理的な計算よりも、非合理な判断や思い込みによって始まった戦争ですので、なかなか難しいですね。プーチン大統領自身がというよりも周りの側近や『オリガルヒ』などロシア経済を形づくっているエリートの人たちが『もうこれはダメだ』というように観念していくように仕向けるということしかできないのかなと思います」
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