勝っても負けても楽しい「ゆるスポーツ」の魅力……小さくしっかりスケールするSmall But Greatsな考え方を重視した事業展開も
今回のゲストは、世界ゆるスポーツ協会・代表理事の澤田智洋さん。“老若男女健障スポーツ”と称し、どんな状態の人でも楽しめるという『ゆるスポーツ』の取り組みを“1分間で社会を知る動画”を掲げる「RICE MEDIA」のトムさんが迫りました。
複雑なポートフォリオ、ゆるスポ澤田智洋とは
澤田さん「普段は広告やマーケティングの仕事をしていて、スーツを着る機会も多いです。
2015年からは“世界ゆるスポーツ協会”を立ち上げています。自分で審判をする機会もあるので笛を常に持っているようにしています。多様な仕事をしていると服装が変になっていくなと(笑)。
個人事業主的な働き方もいくつかしていて、非常にポートフォリオが複雑なんです。今っぽい働き方を させてもらってます。
分散させることがリスクマネジメント的にも1番いいし、いいアイデアを思いつくためには、うろちょろあちこちするってすごく大事だと思っているからです」
澤田さん「ゆるスポーツとは、“老若男女健障スポーツ”と称し、どんな状態の人でも楽しめるものと考えています。
ポイントとしては、スポーツが人に歩み寄るということです。走るのが遅い人が居たとしても決して『早く走って下さい』とは言わないです。
私たちの方で『ゆっくり走って楽しめるスポーツ』を考えますという形で歩み寄ります。
スポーツが得意な人には、見えていない景色があると考えています。つまり、 アメフトが得意ってことになると、そのアメフトが苦手な人が世界にいるかもしれないっていうところに、自分の目線が向かないというか、見なくても済んでしまうと。
僕はスポーツが苦手でした。小学校の体育の授業の時にも、やさぐれていたんです。でも、端っこや、隅っこにいるからこそ気づけた景色があったんです。
『いや待て、スポーツって不完全じゃないかな』と、すごく限られた人しかウェルカムじゃないなと思って“ゆるスポーツ”を開発しました」
事業としてのゆるスポーツの興味深さ
澤田さん「ゆるスポーツの基本的なビジネスモデルは、企業や自治体からの依頼でスポーツを作って納品することや、毎週末のように日本全国でイベント企画の依頼を頂くことで対価をいただいています。
これまでに120競技ほど生み出してきました。
具体例として、富山県の氷見市と開発した『ハンぎょボール』を紹介します。氷見市ではハンドボールが強いこと、ブリが有名なことの2つに着目しました。
ハンぎょボールには、ブリを脇に抱えているほうの手でシュートをしなければいけないというルールがあります。得点を決めると脇に抱えるブリのぬいぐるみが、どんどん大きくなっていきます。
ブリが大きくなるとシュートが打ちにくくなるため、序盤はハンドボール経験者の方が強いんですけど、後半になると初心者の方が得点したり、女性の方が活躍したりと面白い展開が起きていきます。
ブリが次第に大きくなっていくのは、出世魚というところにかけています」
トムさん「PRみたいな部分と、スポーツがどうやって関わってくるのでしょうか?」
澤田さん「ブリをPRしたいならば、手段として動画を用いPR動画を作成することも選択肢としてあると思います。
ですが、ブリをPRしたいという課題を解決するための手段としてスポーツを作るという視点はまだないものだと考えています。
ゆるスポーツによってスポーツが本来持つ“笑顔になれる”みたいなポテンシャルを最大化することで、プロのスポーツカメラマンさんが『こんなに笑顔が多いイベントは初めてです!』と言ってくるようなイベントになるんです。
そうすることで、結果的にブリをPRするための動画よりも、『ハンぎょボール』みたいなゆるスポーツの方が多く拡散されています。
スポーツが苦手な成人って4500万〜5000万人いると言われています。各スポーツメーカーさんに『こういった層をどうして相手にしないのか?』を聞いてみると、コストパフォーマンスが悪いと教えてくれました。
スポーツが今嫌いとか、やってない人に対して新しいシューズやウェアとかを開発することはすごくハードルが高いから、どうしてもスポーツが得意な人、やっている人に向けてマーケティングした方がコストパフォーマンスがいいからとみんなおっしゃるんですよね。
ということは、誰もやってないし、やろうとしてないから、ビジネス的に大チャンスがあるわけだと思ったんです。
僕は当事者で小学校の時の自分がスポーツが苦手という原体験、いわゆる恨みみたいなものがあって、 これって一過性じゃないんです。だから、パッションがあるわけです。
結構勝機を感じていて、世界ゆるスポーツ協会というビジネスとして9年くらい活動しています」
ゆるスポーツをはじめたきっかけ
澤田さん「僕自身がスポーツが苦手というのと、僕には子供がいるんですけど、目が見えないという障害がありまして、スポーツが苦手なお父さんと障害がある子供で公園に行くとできるものが少ないんです。
ボールに鈴が入ったブラインドサッカーというスポーツのボールだったら、かろうじてパス回しができるんですけど、いかんせん僕がスポーツが下手なので、目が見えない子供にまっすぐボールを蹴ってあげられないみたいな親側の問題があったりして(苦笑)。
ある時に、これは多分僕らじゃなくて“スポーツのほうが、悪いんだな”と前向きな逆ギレをしたんです(笑)。
人がスポーツに合わせすぎてたんじゃないかな?ってことに気づきました。
どうして気付いたかというと、福祉業界では 医療モデルと社会モデルという考え方があってそこから着想に至りました。
非常に単純化していうと、医療モデルというのは、 障害は個人に宿るという考えで、社会モデルは障害は社会に宿るという考えです。
社会モデルの考えに乗っ取ると、個人に障害があるわけじゃないんだから、社会を変えればいいじゃんとなります。
例えば、段差なくせばいいじゃんとか、エレベーター設置すればいいじゃんみたいな考えが非常にざっくり言うと社会モデルの考えです。
それを元々知っていたので、スポーツにも社会モデルの考えを応用して、人じゃなくて スポーツできない人がいるというのは、スポーツ側の機能障害という風に価値転換すると、変えるべきは人間じゃないと思いました。
人間が変わるべきだったら、(更に早く走るために)走り込んだり、ボールを投げ込んだりすることになると思います。
そうじゃなくて、社会やスポーツ側に障害があるとしたら、解決方法として“人が変わるのではなくて、社会やスポーツの方を変えるんだ!”と思いました。
その気づきがきっかけで、ゆるスポーツを始めることにしたんです」
ゆるスポーツの今後
澤田さん「結構グローバル展開も進めているので、世界中にどんどん展開したいねって思いはあるんですけど、実は夢に縛られすぎないようにしています。
例えば、9年前に設立した時に、じゃあ9年後までに120個新しいスポーツを作るんだみたいな、KPIやKGIみたいな指標を掲げた時に、それこそ義務っぽくなっちゃうじゃないですか。
この120競技というのは、あえてそういうゴールとかを定めなかったからこそ、気づいたらここまで来ちゃったみたいな感じなんです。
だから、夢よりもコンセプトの方が大事だなと思っています。
大切にしているのが、ゆるスポーツというコンセプトなんです。つまり、誰もが楽しめる・笑いながらできる新しいスポーツジャンル。
コンセプトである、ゆるスポーツということだけを掲げてるんです。そうすると、コンセプトがユニークで強ければ、結構思わぬ展開というのを引き寄せてくれるようになったんです。
今日紹介した事例というのも、設立当初は全く想定していない物ばかりでした。ゴール設定をしていなかったからこそ、遠くに来られていると感じています」
トムさん「ゆるスポーツは海外展開も考えているんですか?」
澤田さん「ゆるスポーツは海外での実績も結構あって、ヨーロッパとかアジアとかでも結構展開しています。
今もいろんな国とフランチャイズ化できないかみたいな話を進めています。
でも、別に僕らは急いでるわけじゃないんです。僕たちとしては運営とか運用も大事にしていて、例えばさっきの『ハンぎょボール』も審判がどんなふうに場を仕切るかというのも結構重要な要素になってくるんです。
スポーツ畑でずっとやってきました!!みたいな指導者の人が入ってしまうと、ファールとかに過度に厳しくなりすぎてしまったりとかして、せっかく緩い優れたコンテンツを提供してるのに、トータルの体験価値としてはハードになっちゃうことがよくあるんです。
だから、審判のあり方とか、イベントの空気の作り方も含めて、僕らもかなり緻密に設計しています。
そういうことが体系化・言語化できる部分と、できない暗黙知の部分が結構あったりします。だからコンテンツが面白いからと言って、すぐさま輸出できるかというと、そういうものではないんですよね。
食品とか飲料よりも、もっと生っぽいと思っています。だからその辺は丁寧に、 そういう場作りや、空気作りも理解してできる力があるみたいなところに委託したいと思ってるので、今いろんな国の人たちと話してるんですけど、そこは結構慎重にやってます」
小さくしっかりスケールする大切さ
澤田さん「私たちが大切にしていることの1つに『sbgs』という考え方があるんです。
Small But Greatsの略なんですけど、小さいからこそ偉大だみたいな意味合いです。事業をやっていると『もっとスケールしなよ、資金調達しなよ』みたいなことを結構僕らも言われるんです。
僕らはスケールよりもスモールを大切にしていて、ちゃんと僕らがハンドリングできる範囲で僕らが提供するものの価値を最大化するってことをすごく大切にしています。
だから、いたずらにスケールを求めてしまうと、数字は伴うかもしれないけど、逆に言うと10年スパンで見ると損失の方が大きいんじゃないかとか、そういうことも考えています。
だから、スケールよりスモールみたいなものはすごく意識しています。
もちろんそれは、『スケールしない』という極端な発想じゃなくて、 放っておくとスケールしちゃうものだからこそ、それに対抗するためにもスモールという軸を持つようにしています。
だから、スケールはするんだけど、スモールを大事にした上で、ちゃんとスケールするということをすごく意識しています。
だから、そういう基軸みたいなものは、いつも忘れないようにしています。そうしないと、あっという間にこういう事業とか、コンテンツって崩壊していきますからね」
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本記事は、日テレNEWS NNN YouTubeチャンネルメンバーシップ開設記念番組「the SOCIAL season1」の発言をもとに作成されています。