培養肉ルールなく販売できず…今なぜ必要?
環境への負荷が少なく、“ミライの肉”とも呼ばれる培養肉。実用化に向け国内でも開発が進められていますが、そこには大きなハードルがありました。
◆「まだ食べてもらえない」料理 理由はその材料
ミシュランガイドで8年連続一つ星評価を受ける大阪市の料理店『日本料理 雲鶴』。いま、この店で開発中の料理が──
野間祐一記者
「マスク越しでも伝わるような肉のいいにおいがします」
できあがったのは『鶏肉の焼きつくね 薄葛仕立て』です。
野間祐一記者
「さっそくいただきます」
島村雅晴料理長
「これまだ食べてもらうことができないんです」
せっかくの料理を販売できない。その理由は、材料にありました。
──これは何ですか?
島村雅晴料理長
「これは培養肉です」
培養肉とは、体内から細胞だけを取り出して、体の外で細胞を培養させて作る代替肉の一種です。通常の肉よりも環境負荷が少なく、“ミライの肉”とも呼ばれていますが──
島村雅晴料理長
「一番の課題としては、認可の問題があります。培養肉に対するルール作りというものがまだできていません」
◆培養肉の研究・開発へ、料理長が『ベンチャー企業』立ち上げ
安全基準などのルールがないため、現在、販売はできませんが、実は、店の上で“あること”をしていました。
厨房での割烹着姿から着替えたのは、白衣です。
島村雅晴料理長
「ここはラボです。ここで培養肉の研究をしています」
自ら培養肉の研究・開発を行うため、去年、再生医療の会社と一緒に培養肉のベンチャー企業を立ち上げた島村さん。
島村雅晴料理長
「こちらが鶏の細胞、こちらは牛の細胞を培養しています」
一見、シャーレの中には何も入っていませんが、顕微鏡で見ると、青い枝のようなものが。これが鶏の細胞で、およそ1か月半で直径2センチほどの肉になるといいます。
◆培養肉の量産化へ “フォアグラ”増殖の仕組みで市場の活性化を
そして、市場の広がりを見据え培養肉の量産化を目指しているところも。来年中に“培養フォアグラ”の発表を目指しているのは、神奈川・藤沢市の『インテグリカルチャー』。研究施設の中には、およそ5000万円かけてつくられた装置があります。
川島一公CTO「これ基本的に動物の体の中と思ってください」
4つのタンク1つ1つが動物の臓器を再現しているといいます。そして、水や食品添加物から作られた培養液をここで循環させると──
川島一公CTO「できるのがフォアグラを作るための培養液。つまり成長因子をたくさん含んだ培養液ができます」
詳細は企業秘密とのことですが、この培養液と肝臓の細胞を合わせることで、フォアグラを増殖させることができるそうです。
こちらの会社では、この仕組みを食品メーカーなどに供給して、市場全体の活性化を狙っています。
◆急がれるルール形成、自民党にも動き…なぜいま培養肉は必要か
民間での開発が進む中、急がれるのがルールの形成です。自民党は、来年1月、松野官房長官を会長とした議員連盟を立ち上げ、培養肉の安全性や流通について議論を行う予定です。
官民で動きはじめた培養肉。なぜ、いま必要なのでしょうか。
培養肉業界の提言とりまとめを行っている多摩大学ルール形成戦略研究所の吉富愛望アビガイルさんは、「今後、人口増加ですとか途上国の経済発展によって、食肉需要が確実に伸びてくる。一方で食肉に関しては、さまざまな課題があるといわれていて、例えばそのうちの一つが環境負荷」と話します。
従来の食肉の生産には、多くの温室効果ガスの排出を伴いますが、培養肉には、家畜の飼育頭数を減らし、温暖化を押さえる可能性があるといいます。
吉富愛望アビガイルさん
「培養肉というのは、環境負荷も気になるし、ただ一方でお肉も食べたい方の、新しい選択肢になると考えています」
2040年には、世界の食肉市場の35%が培養肉になるとの試算もあり、この技術に期待が集まっています。
吉富愛望アビガイルさん
「いま私たちが当たり前に食べているウナギですとかマグロの中には、絶滅危惧種に指定されているものもあります。今後の世代が引き続きマグロとかウナギを食べ続けられるように、培養シーフードなども普及していけたらいいと考えています」
細胞培養の技術で、シーフードや木材なども作れるといいます。培養肉が私たちの食卓に上るのも、そう遠くはなさそうです。