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【詳報】NHKネット業務を検討する総務省の会議 「スマホあれば受信料支払え」という議論にはならなさそう スマホアプリが焦点に?

2022年9月22日 15:38
【詳報】NHKネット業務を検討する総務省の会議 「スマホあれば受信料支払え」という議論にはならなさそう スマホアプリが焦点に?
NHKのネット業務について総務省の有識者会合が議論を開始。懸念払しょくのため、「『スマホを持つだけで受信料支払い義務化』といった議論は行わない方針を早めに打ち出すべきだ」との発言も出ました。2時間にわたった初会合の中身を解説します。

   ◇◇◇

総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」の下に置かれた「公共放送ワーキンググループ(WG)」の初会合は9月21日午後5時から2時間、開催された。

冒頭、寺田総務大臣らが挨拶。事務局(放送政策課企画官)が昨今の状況を簡単に説明したのち、野村総合研究所の松下東子氏が1万人アンケートに基づいた「日本人のメディア利用行動」を解説した。

松下氏は、
▽コロナ禍でテレビ視聴時間は伸びたが、直近ではコロナ前の水準まで下がっていること
▽スマホ普及が(若年層だけでなく)50代で9割程度、70代でも半数以上に達していること
▽TVerなど「テレビ局のネット進出」は若年層にも受け入れられつつあるが、YouTubeやAmazonプライムビデオの規模には達していないことなどを指摘した。

このあと、WGの構成員10人が発言した。発言の一部を紹介する。なお、趣旨を損なわない範囲で言葉を補ったり、発言順を入れ替えたりしている。

■「ネットでのNHKの役割は? 具体的議論を」

大谷和子氏(日本総合研究所 執行役員)
「野村総研の定点観測の結果、Z世代が1日5時間近くもネットを見ていることには驚かざるを得ない。2018年のNHK調査では『自分が知りたいことだけ知っておけばいい』という意識を持つ人が20代で4割超。世の中全体の危機だ」
「NHKネット業務を放送法における『必須業務』とするか、『(放送を補完する)任意業務』とするかといった大雑把な議論は卒業すべきだ。NHKの長期的ビジョンを考えるための制度的枠組を検討すべきだ」

落合孝文氏(渥美坂井法律事務所 シニアパートナー)
「アテンションエコノミーが広がる中、『必ずしも収益につながらないが信頼性ある情報』を発信する重要性は高まる」
「民放・新聞との競争の中、NHKが何をして良いか悪いか、しっかり議論することが重要だ。アーカイブス提供の教育利用、ニュース、防災など、公共性の高い情報。国際放送は民放と競合しないので積極的に考える価値がある」

■「経営委もガバナンス改革が必要だ」

宍戸常寿氏(東京大学大学院 教授)
「日本では、ジャーナリズムに裏付けられた公共的動画配信が遅れた結果、健全な情報空間に若者が参加できず、海外サービスに左右されたりする危惧される状態。NHKに先導的役割をさせることで、民放も含め公共的情報が適切に供給され、健全な世論が形成されることが必要だ」
「三位一体改革は、NHKを『やるべきことはやり、不要なことはやめる組織』にしていく、ということと理解している。NHK経営委も含むガバナンス改革が必要だ。NHKに報告させ、この場で議論するべきだ」

瀧俊雄氏(マネーフォワード 執行役員)
「テレビ×ネットの対立軸でとらえず、『テレビを見ながらネット検索』など掛け算で使われていることも意識したい。ネットの欠点を克服する方向にも期待を持つべき」
「減りゆく経済的資源の中、『報道がフェアになされていると納得できる状況』を作ることが公共的価値だ」

林秀弥氏(名古屋大学大学院 教授)
「どの市場の、どんな事業がNHK肥大化・民業圧迫につながるか、個別具体的に分析することが議論前進の第一歩になる。NHK経営委が自律的に制限する仕組みを持つ必要があり、そのための制度を議論するべきだ」

「民業圧迫の懸念ある分野は、本来業務化から外すか実施時期を遅らせるべきだ。放送法20条2項三号の『B to B to C 業務』は公正競争への影響を個別具体的にみていかないといけない」

■「国家介入否定」から「役割を果たすべき」に

曽我部真裕氏(京都大学大学院 教授)=欠席のため事務局が代読
「かつては情報空間への国家介入は否定的評価がされてきたが、(フェイク情報の流通などで)国家が『情報空間の環境整備』のため一定の役割を果たすべきだと考えられている」

山本隆司氏(東京大学大学院 教授)=WG主査代理
「ジャーナリズムに基づくNHKが、ネットを使って、ネット空間でどのような役割を果たしていくべきか明確にする必要がある」
「海外の制度を参考にする必要がある。画一的規制は避けるべきだ」

■「スマホあるから受信料」は問題外 焦点はアプリか

また、長田三紀氏(情報通信消費者ネットワーク)は、「『スマホを持っているんだから、NHK受信料を負担してくださいね』なんていうのはまったくの問題外だ。このWGは、そうした検討をする場ではないことを早い段階で確認していただきたい」と発言。

WG構成員ほぼ全員が同じ趣旨の発言をしており、「NHKを見られるテレビがあれば受信料支払い義務」という、地上波放送における現行の仕組みをそのままネットに当てはめるような議論は行わない方針が確認された形だ。

ただし、林秀弥氏(名大院教授)は、NHKアプリをインストールする行為は、NHKのネット配信を「積極的に受信できる環境を整えている」として、将来的に受信料契約の対象にするか「議論自体はしてもいい」と主張。議論を率いる「主査」の三友仁志氏(早稲田大学大学院 教授)も賛意を示した。

■主査「“業界の問題”に矮小(わいしょう)化せず国民のための議論を」

三友主査は「WGでの議論を『業界の問題』として矮小化してはならない。国民が受けとる情報の中身が、よりリッチになるよう議論を尽くすべきだ」と呼びかけた。

10月17日の次回WGには、内山隆氏(青山学院大学 教授)が経済学者の立場から、また、曽我部氏(京大院教授)が憲法学者の立場から、それぞれプレゼンテーションを行う予定になっている。

公共放送WGは今後、毎月1回のペースで開催し、NHKや民放連、新聞協会からのヒアリング、また、英BBCのネット業務など海外事例の研究も行う。12月に論点整理を行い、来年6月ごろ、最終報告をとりまとめる方針だ。

(政治部総務省担当記者 氷室興一

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