安保法制特別委、審議開始~政治部長が解説
日本の安保政策の大きな転換につながる審議が衆議院の安保法制特別委員会で本格的に始まった。安倍政権はこの夏までにまとめて成立させる強い姿勢を見せており、与野党が早速、激しく対立している。
27日の『デイリープラネット』「プラネットView」は「安保関連法案、本格審議始まる」をテーマに、日本テレビ報道局・政治部の伊佐治健部長が解説する。
安全保障法制安保関連法案は、10本以上の法律を改正したり新たにつくったりするもの。野党側は一つの国会でやるなんてむちゃだと反発しているが、安倍政権はこの夏までにまとめて成立させる強い姿勢を見せている。
その内容は、これまで歴代内閣が認めてこなかった集団的自衛権の行使を認め、自衛隊の海外での活動を地球規模で拡大するという日本の安全保障政策を大きく転換する。
27日はまず、民主党の岡田代表が、これまで認められていない、自衛隊が外国の領域の海に入って武力行使する可能性についてただした。
岡田代表「日本人を助ける船が、その相手国から逃げてくる。その領海の中で襲われて、米艦が襲われている。その時、自衛隊は何もしないのか」
安倍首相「(他国の)領海における行動については、新3要件(※)との関わりはあるが、一般に海外派兵は認められないという基本的な考え方、原理があるということは、合わせて申し上げておきたい。極めて慎重なあてはめを行っていくわけですが、基本は一般に許されていないということは申し上げておきたい」
※武力行使 新3要件
・国の存立、国民の生命自由など、根底から覆される明白な危険
・国民を守るため他に手段はない
・必要最小限
安倍首相はこのように、たとえ集団的自衛権の行使を限定的に認める新3要件にあてはまっても、基本的には行かないという考えを初めて示した。ただ、例外としてホルムズ海峡での機雷掃海を改めてあげたが、「他の例というのは念頭にはない」と強調した。
27日は特に、「リスク」についての議論が白熱した。きっかけになったのは、中谷防衛相の先週の記者会見での発言だった。
中谷防衛相「今回の法整備で隊員のリスクが増大することはない。抑止力が高まり、法整備によって得られる効果は残るリスクよりもはるかに大きい」
自衛隊の任務が拡大する中で、リスクはこれまでと変わらないと本当に言えるのかどうか。27日はこんな論戦があった。
維新の党・柿沢未途議員「同盟国のアメリカはじめ、他の国々と責任を分かち合いながら、日本と世界の平和と安全のために、求められる協力や貢献を果たす。これが避けられない日本の役割である。そういう場合も私はあると思います。となれば、派遣される自衛隊が自ら生命の危機を伴うようなリスク、海外の任地において、武器使用に及び、他国民を殺傷するような策を取らざるをえない、そういう場面に直面するリスク、今よりやっぱり高まるでしょう。また、自国が攻撃されていないのに自衛隊を派遣すれば、それによって相手国から敵国と見なされて、日本国内を含め攻撃を受けるリスクが高まる。それらのリスクを認めた上で、しかし、日本と世界の平和のために必要なのが今回の安保法制なら、真正面から説くべきではないでしょうか。自衛隊員やその家族は、こんな説明ではますます不安になるばかり。やるべきことをやる。その結果、一定のリスク、この増大は国家として引き受ける。安倍総理も本心ではそう決めているのでは。それを真正面から語るべき」
安倍首相「リスクとは何か、考えていく必要がある。その中で、なぜ平和安全法制を整備するのか。我が国を取り巻く安全保障環境がいっそう厳しくなり、国民にとってリスクは高まっているわけです。例えば北朝鮮は数百発の弾道ミサイルを持ち、それに搭載できる核の能力を高めている状況がある。そして中国の台頭、南シナ海や東シナ海での行動もある中において、我が国の領土、領海、領空を守っていく中で、リスクが高まっている。このリスクを低減させていくのが、私たちの任務。この任務を背負っているのが、正に自衛隊の諸君。当然その中において、日米の同盟を強化していく。そして抑止力が高まっていくことで、我が国が攻撃されるリスクは低減してくるのであります。後方支援する際にも、新たな法制の中でも、自衛隊員のリスク低減のための措置など、最大限配慮するのは当然のことですし、自衛隊の諸君も訓練において、プロフェッショナルとして、現場のリスクを低減させるための訓練に日々励んでいる。それでもなお、もちろんリスクは残ります。そのリスクを背負っていくのが自衛隊の諸君であり、我々は彼らに改めて敬意を表したいと思うわけですが、私たちはまず、全体のリスクを低減させる法制を成立させたい」
安倍首相は、先週の党首討論では「リスクとは関わりがない」と述べていたが、26日から「リスクは残る」と、その存在自体は認める姿勢に変わった。一方で、自衛隊員のリスクが「高まる」ことは否定し続けている。政府の答弁要領でそのラインを守ることが決まったようで、今後も平行線に終わる可能性がある。
一方で強調するのは「国民のリスク」で、27日は、閣議決定の際の会見では一切言及しなかった中国を名指しして、東シナ海、南シナ海での行動などをあげた。
今回の法整備によって、中国に対するけん制の意味での日米同盟の抑止力を高める一方で、アメリカから期待される地球規模の自衛隊の活動拡大の中で、血を流す国際貢献の覚悟が問われるという議論がある。
今後注目すべき点としては、リスクについては政府の答弁次第で国民の理解も一歩進むが、逆に不用意な発言で議論がストップする恐れもある。政府関係者は、自衛隊員に死傷者が出るリスク、自衛隊員が他国で人を傷つけるリスク双方について、「新しい任務が広がれば、新しいリスクに直面するのは当然だ。自衛隊員は常にリスクを負っている。感情的な議論になってほしくない」と語った。
27日も入り口のところで議論が停滞してしまった感がある。心配されるのは、表面的な入り口論で論戦が終わってしまい、しっかり詰めておくべきPKO(=国連平和維持活動)類似業務などの危険性など、実際に自衛隊が出て行った場合の現実的な議論が深まらないで終わってしまうことである。今後の議論は政治の責任が問われる。