「1日100万回接種目標」“おおむね達成”も残る課題
堀内ワクチン担当相は国会で1日100万回接種の目標について「おおむね達成できた」と強調した。しかし、高齢者施設での接種や職域接種など課題は多く、更なるスピードアップが求められる。
■1日100万回目標「接種回数増やせないと政権もたない」
新型コロナワクチンの3回目接種が進まないことを受け、岸田首相は2月7日、関係閣僚に対し1日100万回接種を目指すよう指示を出した。
政府はこれまで「1,2回目の時の1日100万回は2つの接種をあわせた数。あの時よりも今回の方が伸びている」(官邸関係者)と強調するなど、目標設定に消極的だった。
しかし、野党だけでなく与党内からも「接種をペースアップさせるため目標を定めるべきだ」という声が上がり、政府は一転して、目標を設定することとなった。
岸田首相は、方針転換の理由について「接種を加速させないと政権がもたない」と周辺に語り、接種の遅れへの強い危機感から事務方にワクチン接種の進捗を毎日のように報告させたという。事務方から、ある自治体の接種回数が前日よりも減っていると説明を受けた際に「その自治体はすでに対象者がだいたい打ち終わっているからではないか」と誤りを指摘するほど各地のワクチン接種状況が頭に入っていたという。
■接種遅れに“焦り”その原因は?
そして、目標を掲げた約1週間後。
「本日VRS(ワクチン接種記録システム)への入力ベースで、2月15日における前日からの増加回数が約110万回となったと報告を受けており、接種のペースは着実に加速している」(岸田首相)
VRS(ワクチン接種記録システム)での接種回数は、数日分がまとめて入力されることもあるため、その日1日の接種回数を反映したものではない。政府関係者も「この日は3連休で入力されていなかったものが計上されたのではないか」と分析する。政府内ではまだ1日100万回の目標には届いていないとみられていた。
思うように接種回数が伸びない要因の1つが、高齢者施設での接種が進んでいないことにあった。高齢者施設にいる高齢者などへの接種は1月から本格的に始まっていた。しかし、2月16日の夜、岸田首相周辺は「こんなにも高齢者施設で接種が進んでいなかったとは思わなかった。必要なワクチンは送っていた。完全に誤算だった」と怒りを露わにした。多くの施設で接種が進まない原因は、厚労省と自治体と高齢者施設、それぞれの認識のズレにあった。
ある政府関係者は「施設側は『接種が前倒しになっているのを知らなかった。接種券がないと打てないと思っていた』と言ってるのに対し、厚労省は『自治体を通じて周知している』と言っていて食い違っている。厚労省にはもう一度自治体を通じて連絡するようにした」と解説する。別の政府関係者は「自治体は『施設側から手が挙がらなかった』高齢者施設は『自治体からの呼びかけがなかった』と、お互いが責任をなすりつけている」と嘆いた。
また、高齢者施設では、入所者本人や家族の同意を得ることに時間がかかったことや、この時期に施設でのクラスターが急増していたことも接種の遅れにつながったという。
■職域接種の“前倒し”も…
政府は、さらに接種を加速させるため、企業や大学などの職域接種の開始を急いだ。当初は、3月開始を目指していたが、2月12日に岸田首相が羽田空港を視察するタイミングに合わせて、航空会社に職域接種を開始させる形で、半月ほど早めてスタートさせた。
しかし、職域接種の申し込み件数は政府が思うように増えていない。1,2回目の接種時は、職域接種は4044会場で実施されたが、3回目接種では、1月31日時点で、2575会場と伸び悩んでいる。こうした状況に、政府も、申し込みの条件を1会場あたり1000人以上から、500人以上に緩和した。
ワクチン接種を担当する政府関係者は「前回、職域接種を行った際にワクチンがなかなか来なかった企業や、職域接種を申し込んだのに、保留にされた企業があった。企業側は計画が立たないものに対して希望することはできない。今回は条件を緩和した上、希望した企業などには必ずワクチンを配ると約束することで参加企業を増やしたい」と意気込んだ。しかし、2月28日時点で、2801会場と、ほとんど増えてない。職域接種の加速も今後の大きな課題だ。
1日100万回接種の実現について国会で問われた堀内ワクチン担当相は「VRS=ワクチン接種記録システムで、直近では1日130万回程度までペースアップしてきた。1日100万回の目標はおおむね達成できていると認識している」と強調した。一方で、政府分科会の尾身会長は、感染が思うように下火にならないのは高齢者と子供に感染が広がっていることに加え、3回目接種が遅れていることも原因の1つだと説明した。
1日100万回という目標はゴールではなく、先月末までの接種対象者のうち、打ち終えたのは約68%に留まっている。接種のスピードアップに向け、政府にはこれまでのワクチン政策を検証し、課題を洗い出し、改善を続けることが求められている。