密着:地方再生の切り札?「古民家活用」
築100年を超える古民家をホテルやレストランに改装し、観光客を呼び込む取り組みが注目されている。地方再生や観光振興の切り札として期待される「古民家の活用」の現場に密着した。
菅官房長官は12日、兵庫県篠山市の、のどかな山あいの集落にある一軒の古民家を視察した。この古民家は、空き家だったものをNPO法人が7年前に宿泊施設として改装したものだ。
続いて菅官房長官は、明治時代の銀行経営者の住居を改装し、去年10月にオープンした古民家ホテルを視察した。最近では外国人観光客の利用者も多く、全国的に注目されているという。
菅官房長官が古民家ホテルを視察したのには、理由があった。
政府は、訪日外国人4000万人という目標達成の切り札として、古民家の活用を進めるためのチームを立ち上げた。その有識者の一人として招かれたのが、古民家再生事業を行っている村田哲太郎さん(36)だ。
村田さんは、宮崎県日南市の「まちなみ再生コーディネーター」徳永煌季さん(29)と共に、同市の中央にある飫肥地区で古民家再生の事業を行っている。飫肥地区は江戸時代に城下町として栄え、武家屋敷など今も当時の町並みが残り、「九州の小京都」とも称される。
2人は元々、外資系金融機関に勤務していた。古民家再生事業を始めたのは、リーマンショックのきっかけを作ってしまったという罪悪感からだった。
村田さん「地域に貢献するとか、そういった仕事をすることで、より喜びを得るような仕事をしたいと思ったのが大きかったですね」
飫肥地区は今、大きな問題に直面している。現在、空き家が約80軒あり、その数は年々増えている。築100年以上の文化的価値のある古民家も15年以上空き家となっていたため、取り壊すことになった。
こうした古民家を再生させるには、修繕費用などで約5000万円もかかり、全ての古民家を再生することは難しいのが現状だ。
増える空き家の問題と、価値のある建物の維持・保存。これを同時に解決できるのが、古民家の活用だいう。ある古民家は20年以上空き家だったが、高級旅館として来年春にオープンする予定だという。
古民家再生事業が始まったばかりの飫肥地区だが、他にも深刻な問題があった。
日南市では港を整備した去年から外国のクルーズ船の入港が急増し、飫肥地区を訪れる外国人観光客の数も増えている。しかし、日南市を訪れる観光客が消費する額は1人平均わずか1600円ほどだ(2014年日帰り観光客)。
中国人観光客が殺到していたのは、車で数分ほどのコンビニエンスストア。ここで大量のカップラーメンやお菓子をお土産として購入したり、食事を済ませたりする人が多い。
飫肥地区には宿泊施設が1つもなく、観光客が買い物や食事を楽しめる場所が不足していて、地域経済の活性化に十分結びついていない。そこで、古民家を再生して観光客がお金を使ってくれる受け皿を作ろうというのだ。
徳永さん「こちらが私の最大の課題であります旧飯田病院でございます。飫肥城に次ぐ飫肥のシンボルとして、観光施設として再生させていきたいと考えています」
飫肥地区にある35年間空き家状態の大正時代の貴重な洋館。診察室などが残る建物だが、ここを高級レストランとホテルが併設する施設に再生しようという計画だ。
政府も各地で始まった古民家再生事業を後押しする方針で、政府系の機関による支援を検討しているという。
菅官房長官「(古民家再生事業の)立ち上げの財政支援というんですかね。国も公も応援しているのだという、そうしたことも含めて、そういう仕組みを作ることが大事だと思っています」
「古民家の活用」は地方を救う切り札になるのか。本気の取り組みが求められている。