私たちの近くで進む“力による現状変更” 戦争の予兆を見逃さない 報道局長・伊佐治健
約80年前の8月15日、あの戦争は終わりました。日本人の犠牲者は310万人にのぼります。「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」広島の原爆死没者慰霊碑には、戦争という過ちを繰り返さないことへの誓いが刻まれました。それは、戦後間もない日本人の未来への「誓い」。
しかし、いま、世界では戦争が起きています。あの戦争の終結から80年。戦争をした国に生まれた私たちが、その「誓い」の意味を改めて考えます。
3年前の12月、ヨーロッパの国際会議から戻った政府関係者が、声を潜めて口にした言葉はいささか大げさに聞こえました。
「ロシアは本気だ。“第3次世界大戦”になるかも知れない」
翌年、ウクライナ侵攻は想像をはるかに超える全面的な攻撃で始まりました。国際社会の平和と安定を守るはずの国連安全保障理事会・常任理事国のロシアが、武力による領土侵略を堂々と行い、第2次世界大戦後の国際秩序は根底から揺らいでいます。3年目にはついにアジアから、北朝鮮兵士も戦闘に加わって、世界戦争の恐れは現実味を帯びてきました。
そんな緊張感のもとで迎える戦後80年。 “力による現状変更” の試みは私たちのすぐ近くでも進んでいます。
台湾、フィリピンの近海で、中国が軍事的威圧を強め、武力衝突の危機に日本の平和も脅かされています。軍事的つばぜり合いが、やがて偶発的な衝突を招き、最後は意図しない戦争に突き進んでしまう事があることも、歴史の教訓です。
“いまを、戦前にさせない” ために、報道の仕事にたずさわる私たちが今やるべき事は何か。
戦争体験者に取材を続けると同時に、戦争の予兆を毅然として見逃さない。80年前、事実を隠し、戦争をあおり立てたメディアの罪もよく心に刻んで、伝えるべき事、残すべき映像を力の限り発信したいと考えます。