【解説】「安倍氏の悲劇を利用」国葬に批判も 岸田首相の国葬への“強い思い”の背景は?
政府は22日の閣議で、安倍元首相の国葬を9月27日に実施すると決定しました。こうした中、「安倍氏の継承者」を印象づける岸田首相の思惑も指摘されています。また、専門家は「安倍氏の悲劇を利用」と強く批判しました。
「国葬の詳細」、「前回は55年前」、「政治的な“思惑”」、以上の3つのポイントについて、詳しく解説します。
松野官房長官は22日の記者会見で、「故安倍晋三元首相の国葬儀を9月27日、日本武道館において執り行うことを決定しました」と述べました。
安倍元首相の国葬の名称は「故安倍晋三国葬儀」とし、9月27日に東京の日本武道館で実施すると決定しました。葬儀委員長は岸田首相が務め、無宗教形式で簡素・厳粛に行われます。また、外国要人の参列を受け入れるとして、国葬に関する情報を各国に知らせる予定ということです。
国葬は知っているようで、知らない人も多いと思われます。さかのぼること100年以上前の1909年、東京の日比谷公園で伊藤博文初代首相の国葬が実施されました。
戦前は「国葬令」という天皇の勅令によって執り行われました。天皇皇后、一部の皇族、そして国家に特別な功績のあった者は国葬とされました。そして、国民は喪に服すと定められていました。
戦後、1947年に国葬令は失効しましたが、以降、首相経験者で国葬が行われたのは、これまで1度しかありませんでした。
1967年に実施された吉田茂元首相の国葬には5700人が参列、吉田元首相の在任期間は、通算で約7年2か月でした。当時、皇太子だった現在の上皇さま、美智子さまも参列されました。
佐藤栄作首相(当時)
「戦後、日本の進むべき方向を定め、最も困難な時期における指導者としての責務を立派に果たされました」
吉田元首相の国葬も日本武道館で実施され、3万人以上が献花に訪れました。吉田元首相の国葬も含め、これまで首相経験者の葬儀について、どのような場合に国葬とするのかという明確な基準はなく、時の政権の判断で決められてきました。
1987年の安倍元首相の祖父・岸信介元首相、2020年の中曽根康弘元首相の葬儀は、近年主流となっている「内閣・自民党合同葬」で実施されました。
今回は内閣府設置法に基づき、「国の儀式」の一環として「国葬儀」を行うことを閣議決定しました。安倍元首相の葬儀を国葬とする理由について、政府は「憲政史上最長の8年8か月にわたり首相の重責を担った」、「内政や外交で実績を残した」、「選挙中の突然の蛮行で亡くなり、国内外から幅広い哀悼の意が示されていること」などを挙げています。
国葬の費用は、国が全額負担することになります。つまり、私たちが納めた税金が使われます。今回の国葬の費用は明らかになっていませんが、一般予備費の使用を想定しているということです。
吉田茂元首相の国葬費用は1967年当時で約1800万円でした。また、2020年に実施された中曽根元首相の合同葬は合計で約1億9000万円でした。
今回、安倍氏の国葬には批判の声も上がっています。
22日、安倍氏の国葬に反対するデモが首相官邸前で行われました。参加者からは「安倍元首相の死を国葬で悼むことを強制されたくない」、「税金を使ってほしくない」などの声が聞かれました。
また、野党からは「国民への弔意の強制につながる」などと反対の声も上がっています。
これを受けて、松野官房長官は「儀式として実施されるものであり、国民1人1人に政治的評価や喪に服すことを求めるものではない」と述べました。
今回の国葬について、首相周辺は「岸田首相の強い思いがあった」と話しています。
ただ、自民党内からは「国葬を求める保守派との対立を避けて、先手を打った」、「国葬に参列する海外の首脳と会談し、岸田首相が安倍元首相の“継承者”と印象づけるメリットもある」と指摘する声も上がっています。今回の国葬には、“岸田首相の思惑”も透けて見えてきます。
安倍氏の葬儀を国葬にすることの問題について、国葬の歴史に詳しい中央大学・宮間純一教授は強く批判しました。
中央大学・宮間純一教授
「国会で審議もせず、国民の意見も聞かずに、不透明な閣議決定で決めたのは大きな問題。反対意見も多くある中で、多額の税金が投じられることは、追悼したくない国民も強制的に巻き込むことになる。悲劇を利用して、国葬によって、安倍氏や自民党政権の評価を固定化することになる」
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岸田首相は国葬にする理由として「民主主義を守るため」とも説明しています。しかし、「多くの異論がある中で正当な手続きも踏まず、透明性もないまま反対意見を封じて決めてしまうこと自体、民主主義に反している」との指摘もあります。国葬の意味合いとその本質とは一体何なのか。私たちも、今一度考えてみる必要があるのではないでしょうか。