ヨーロッパ訪問後、1日だけ休んで、すぐ中東へ 岸田首相の“弾丸ツアー” 「外交の夏」真っ盛りの理由は?
ヨーロッパを訪問し、NATO(=北大西洋条約機構)の首脳会議、日EU首脳会議に相次いで出席した岸田首相。14日に日本に帰国したが、1日だけ日本国内で過ごした後、16日には今度は中東歴訪に出発するため再び日本を離れる。“弾丸ツアー”で外交日程をこなす理由と岸田外交の課題について解説する。
日本テレビ政治部・前野全範
■NATO&EU首脳会議に出席、G7議長国としてもアピール
14日にヨーロッパ訪問から帰国した岸田首相。リトアニアで開かれたNATO首脳会議に日本の首相として2年連続で出席し、安全保障分野での連携強化を確認したほか、サイバー防衛やニセ情報への対策などで、NATOと協力することを盛り込んだ新たな文書を発表した。
EUとの首脳会議では、EU側が福島第一原発事故の後に続けていた日本産食品の輸入規制の撤廃を表明。共同声明では、対中国を念頭に半導体のサプライチェーンなど、経済安全保障の分野で連携を強化し、外務大臣級による「日EU戦略対話」の立ち上げで一致した。
さらに岸田首相は、今年のG7議長国として、NATO首脳会議の場でウクライナ支援の共同宣言を取りまとめ、EUとの首脳会議後は、今年の秋にも「チャットGPT」など生成AIについて議論する「G7首脳テレビ会議」を開催することを表明した。
ヨーロッパ訪問中、岸田首相が繰り返し口にしたのが「欧州大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分だ」という言葉。少し抽象的な言い回しだが、かみ砕くと、要するにロシアによるウクライナ侵略という脅威に直面するヨーロッパと中国による威圧的な言動、台湾侵攻への懸念に向き合う日本を対比させ、「お互いにひとごとではなく、『じぶんごと』として連携して行きましょう」という趣旨だ。
ある外務省幹部は「ヨーロッパとの関係は日米関係と比べまだ発展させる余地がある。今が関係強化に向けた旬だ」と語っているが、別の外務省幹部は「実はヨーロッパとの間に特に懸案はない。むしろ大西洋とインド太平洋を対比し過ぎると、中国やグローバルサウスとの向き合いが難しくなってしまう」と指摘する。
実際、ヨーロッパの国々は中国との経済的な結びつきも重視している。EUのフォンデアライエン委員長は岸田首相との首脳会議後、中国との経済関係についてサプライチェーンの多様化や経済安全保障の重要性に言及しつつも、「決して『デカップリング(=切り離し)』ではない、『デリスキング(=リスクの低減)』だ」と何度も繰り返した。
また、NATOが東京に開設を検討していた連絡事務所については、フランスのマクロン大統領が中国に配慮して反対の意向を示したため頓挫に追い込まれた。中国に対する向き合い方は、威圧的言動に直面する東アジアの日本と、地理的に離れたヨーロッパでは温度差があるのが実情だ。
そして、中国以上に一筋縄では行かないと同時に、日本もEUも今後の関係強化が特に重要だと捉えているのが、「グローバルサウス」と呼ばれる新興国だ。
グローバルサウスの国々への配慮が見て取れるのが、日本が提唱した構想として有名な「自由で開かれたインド太平洋」「FOIP(=フォイップ)」の変化だ。
最近、日本政府は意識して「自由で開かれたインド太平洋」ではなく、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」という言葉を使うようになってきている。
表現を変更した点の1つ目は『法の支配に基づく』という枕詞(まくらことば)。ここでいう法は「国連憲章」などが想定されていて、民主主義体制ではないグローバルサウスの国々でも共通して守れる価値観を掲げている。
ある外務省幹部は「“意識高い系”の欧米が、上から目線で『民主主義・人権』を振りかざしてもグローバルサウスの国々はなかなか付いてこない。アメリカも最近になってようやく民主主義VS権威主義という二元論ではダメなことを理解し始めた」と解説する。
そして、2つ目が「インド太平洋」を「国際秩序」に置き換えた点。「インド太平洋」という地理的概念で限定してしまうと、グローバルサウスの国々が「じぶんごと」として捉えられなくなってしまう。そのため、あえて抽象的な「国際秩序」という言葉を使い、世界のどこでも、「力による一方的な現状変更は許されない」ということをアピールする狙いがある。
岸田首相は今回の欧州歴訪に続いて、16日からは中東を訪問する。そして9月にはG20サミットがインドで、ASEAN首脳会議がインドネシアで開かれる。12月には日本でASEANとの特別首脳会合も予定されている。アメリカ→G7→ヨーロッパの順で関係を強化した上で、下半期にはグローバスサウスとの関係を強化したい考えだ。
マイナンバーカードをめぐる問題などで内閣支持率が下落傾向にある中、岸田首相は得意の外交で支持率・求心力を回復させられるのか。さらに、注目される衆議院の解散の判断において、フリーハンドを確保できるのか。
外務省幹部からは「G7広島サミットを上回る劇的な成果を挙げることはなかなか難しい」と嘆く声も聞こえているが、9月までには行われる見通しの内閣改造・自民党役員人事という夏の「宿題」を抱えながら、岸田首相の「外交の夏」が真っ盛りを迎えている。