広島サミットメニューを「神の雫」原作者が徹底分析 お好み焼き×赤ワインのマリアージュとは?
G7広島サミット夕食会のメニューを、ワインの表現が豊かなことで知られる漫画「神の雫」の原作者、樹林 伸(亜樹 直)さんが徹底解説。赤ワインとお好み焼きのマリアージュとは?天才的な感覚を持つ漫画の主人公、神咲雫が表現するならどんな言葉?ワインに込められた日本政府のメッセージなど、サミット担当者にも「おもてなし」の裏側を聞きました。
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3日間の日程で行われたG7広島サミット。提供されたメニューは全て「和の食材を使った料理」「日本酒」「国産のブドウだけで造られた日本ワイン」です。外務省G7広島サミット事務局総括次長の原琴乃氏によると、地元広島や、復興支援という観点から被災地の食材も使い「日本各地の多様な食材の魅力を食の機会を通じて発信したい」という思いが込められているといいます。
■夕食会のメニュー(21日)
※③⑤は料亭「菊乃井」の三代目主人・村田吉弘氏が監修。
※③⑤以外のメニュー解説は、料理を考案した西武・プリンスホテルズワールドワイドの下井和彦総料理長。
◆①前菜【毛蟹のロワイヤル 廿日市ワサビと牡蠣佃煮のクリーム雲丹と宮崎キャビア添え】
カリフラワーのムースと北海道産の毛ガニの上に、チキンコンソメのゼリーを薄く敷き、カキの佃煮をピュレ状にしたクリームと廿日市のわさびをあわせたもの。宮崎のキャビアと北海道の塩水ウニをのせ、G7のロゴ入りの缶に入れた。氷とドライアイスを添えており、お湯を入れてると煙がでる演出。
◆②魚料理【活け伊勢海老のマリネアーティチョークのムースと香味野菜】
伊勢海老のガラでとったソースで食材をあわせ、サラダ仕立てに。アクセントにカレー風味のビスキュイを。エディブルフラワーを使い華やかに。
◆③煮物椀【冷やしレモン味噌汁 広島新じゅんさい 浅葱】
レモンと麹で仕込んだ味噌を使用してじゅんさいを加えた冷やし味噌汁。
◆④肉料理【鹿児島和牛フィレ肉ブリオッシュ包み焼き 枝豆のエクラゼと彩り野菜 トリュフ風味ソース】
鹿児島の牛肉に生ハムと広島のキノコを使ったペーストとクレープを巻いてブリオッシュで包み、ローストすることによって、中にうまみを閉じ込めた。塩味は生ハムでソースにサマートリュフを使用。付け合わせは旬の枝豆を潰してムース状にしたものと、広島県産の野菜。
◆⑤ご飯変わり【甘鯛飯蒸し湯葉木の芽 はじかみ】【岩牡蠣のお好み焼き 青葱青海苔 削り鰹 オタフクソース】
◆⑥デザート【岩手県産乳製品のチーズケーキ 宮城県産苺のジェラート チョコレートの折り鶴】
平和を願い、ゼリーの水辺に鶴が舞い降りてくるイメージ。
◆⑦飲み物
・日本酒:純米 大 吟醸 蓬莱鶴 奏 harmony / 原本店 (広島市)
・スパークリング酒:スパークリング酒 千福 三宅本店 (呉市)
・日本酒:特別純米酒 廣戸川 松崎酒造 (福島県岩瀬郡)
・赤ワイン:TOMOÉ 小公子 マスカット・ベーリーA / 広島三次ワイナリー(三次市)
・アイスワイン(デザートワイン):山幸アイスワイン 2021 池田町ブドウ・ブドウ酒研究所(北海道中川郡)
・日本茶:有機煎茶 / 白形傳四郎商店(静岡県静岡市)
・紅茶:和紅茶 kitaha / お茶のあさひ園(宮城県石巻市)
・コーヒー:G7スペシャルブレンド / マウントコーヒー(広島市)
■お好み焼き×赤ワイン…おたふくソースが決め手!
2016年伊勢志摩サミットで首脳陣に提供した日本ワインの選考委員であり、漫画「神の雫」の原作者である樹林伸さんに、今回、夕食会に出されたワインを分析、食事とのマリアージュについて解説してもらいました。21日の夕食会メニューのなかで、樹林さんが特に注目した“マリアージュ”は?
樹林さん:
お好み焼きと赤ワインの組み合わせでしょうか。おたふくソースはやや甘いので、このワインの強い酸味がどう交わるのかが決め手だと思います。しかしソースの原料であるデーツの甘酸っぱさが、うまく間に入ってくれると、切ない余韻のある良いマリアージュになるかもしれません。
―――赤ワイン「小公子 マスカット・ベーリーA」を「神の雫」の主人公、神咲雫ならどう表現しますか?
樹林さん:
(神咲雫)夏の始まり。久しぶりに訪れた故郷。広々とした畑の畦道を歩きながら、笑い声を上げて走っていく幼い子供たちとすれ違う。ふと、畑で赤く色付いたトマトを一つ穫り、がりりと食べると、懐かしい日の想い出が甦る。この広島三次ワイナリーのTOMOÉ「小公子 マスカット・ベーリーA」は、そんな風景が心に浮かぶワインだ。
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外務省の原氏によると、実はこの赤ワインには、ある「おもてなし」の思いが込められているといいます。このワインに使われたブドウ「マスカット・ベーリーA」は、欧州生まれのマスカット・ハンブルク種と米国生まれのベーリー種を、「日本ワインの父」川上善兵衛氏が交配させて1927年に開発した日本の固有種です。さらにワイナリーがある三次市は岸田裕子夫人の出身地。つまり、G7参加国のブドウを日本で交配させたものを使って、裕子夫人の出身地で造られたワインなのです。
――今回の3日間のサミットで提供されたワインは全て「日本ワイン」。日本で造られるワインの8割は海外から輸入された原料で造られており、国産ぶどう100%の「日本ワイン」はまだまだ少数派です。日本ワインの良さとは?
樹林さん:
香りの良さと、うま味だと思っています。赤、白とも柔らかいワインが多く、和食との相性はさすがに良いですね。
■日本産「アイスワイン」の可能性
デザート用に出された甘口の「山幸アイスワイン 2021」は、樹上凍結したブドウを収穫し圧搾された果汁から造られ、芳醇な香りと濃厚な甘さを持つワインです。このワインに、樹林さんはある「可能性」を感じると言います。
樹林さん:
北海道は寒いので、アイスワインの産地としては面白い。ドイツが温暖化でアイスワインが出来にくくなっていて、今はカナダがその産地として注目されてます。でも、北海道ならアリでしょう。スキーリゾートとしても、今や世界的な存在です。これをきっかけに、日本アイスワインが世界的な存在になってくれる可能性がありますね。
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サミット期間中には、各国のメディアが集まる国際メディアセンターでも、焼きたてのお好み焼きや日本ワインなどがふるまわれました。その人気はかなりのものだったといいます。サミットをきっかけに、日本の食と酒のマリアージュも世界に広がっていくかもしれません。